古方便覧上冊

   東洞吉益先生校閲    門人 河内   六角重任 毅夫筆記

 

 

 

桂枝湯  桂枝  芍薬  生姜  大棗各七分半  甘草五分

 右五味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇気上衝し汗出を主治し、或いは悪寒汗出ず脈弱を治す。

 〇世に風邪或いは湿邪或いは寒邪にあたると云いて、発熱悪寒或いは清涕(水鼻)を出し、或いは頭痛或いは腰脚だるく、骨節微痛する等の症に用いてよし。或いは気上逆,或いは自汗出るなどにいよいよよし。

 〇傷寒感冒或いは持病にも瀉下の丸散を考え、兼用しるときは其の病速やかに癒えて、後再び発せず。

 

桂枝加桂湯  桂枝湯方内に於いて更に桂五分を加う。

 〇本方の証にして、上衝の甚だしきを治するの方なり。

 〇奔豚気とて、塊物少腹(臍の下)より急に起きて心下へ衝きかけ、息だわしく或いは刺すが如く痛みによし。持病に積気あるものに此の症あり。三黄丸或いは消石大円等を考え兼用すべし。一男子年六十積聚を患うこと数年、発作時ありて奔豚気上りて心を冲き息すること能わず、気力甲斐なく俛仰(うつむき、あおむく)することを得ず、飲食を思わざるに此の方に三気丸を兼用して癒えて後に再び発せず。

 

桂枝加芍薬湯  桂枝  大棗各六分   芍薬一戔二分  甘草四分  生姜六分

 右五味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇桂枝湯の証にして、腹の拘攣し時々痛むを治す。

 〇腹中ひっぱり或いは痛み或いは腰へ引きつり屈伸し難く、積気又は疝気など云える症に三黄丸或いは平水丸を兼用すべきなり。

 

桂枝去芍薬湯  桂枝  大棗各九分  甘草六分  生姜九分

 右四味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇桂枝湯の症にて逆して胸満するものを治するなり。

 

桂枝加葛根湯  桂枝  芍薬各六分  甘草四分  葛根八分  大棗  生姜各六分 右六味水二盞を以て六分を取る。

 〇これもやはり桂枝湯の症にして項背の強急するを治するの方なり。

 〇項より背へだるくつかえ、肩重くひっぱり首の回らざるによし。此の症世に所謂風邪寒邪に多し。上部の病には?黄散を兼用すべし。

 

★★桂枝湯  ★★★四分  桂枝  芍薬  大棗各六分  甘草四分  生姜六分

 右六味水一盞八分を以て煮て六分を取る。

 〇これも桂枝湯の症にて渇し或いは身体強ばるものを治す。

 〇咳嗽口★短気なるものに滾痰丸或いは紫円を択び兼用して大いに効あり。

 

桂枝加黄耆湯  桂枝  芍薬  生姜  大棗各六分  甘草  黄耆各四分

 右六味水一盞六分を以て煮て六分を取る。

 〇これも桂枝湯の症にして黄汗或いは汗出止まず、或いは盗汗あるを治す。

 〇面部手足に浮腫を発し、常に風を悪み自汗盗汗あるによし。身重く痛み、小便不利するに効あり。

 

桂枝加芍薬大黄湯  桂枝  生姜  大棗各六分   芍薬一戔二分  大黄二分  甘 草四分 

 右五味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇これは桂枝加芍薬湯の症にして実すこと甚だを治するの方なり。

 〇腹皮すじばり満して痛み、或いは大便通ぜず、又は宿食あるによし。

 〇世に所謂中湿中暑などの下痢し、なめしぶり腹裏急後重するに効あり。

 〇或る人、痢病の治法を問う、東洞先生の曰く、別に治法あるにあらず。唯証に従いて方を処すべし。便に膿血あるは久年の病毒外邪に因って動き立ちて、自ら抜け出んとするものにて、これほど幸いなることはなし。只下剤を以て其の毒を攻め去らば、必ず病根を絶つべし。然るを世医みだりに止渋の剤を用いるは、賊を府庫の内に留めて、財をそこなわんが如し。疾医の輩、諸を察せよ。

 

桂枝加厚朴杏仁湯  桂枝  芍薬  大棗  生姜各六分  甘草  厚朴  杏仁各 四分

 右七味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇これも桂枝湯の証にて、胸満微喘するを治するなり。

 〇胸に痰涎ありて、ゼリゼリと聞こえすだき咳出るによし。又世に所謂風邪感冒の類に  此の症多し。

 〇喘哮の持病、又は水腫にて喘するによし。或いは滾痰丸を兼用すべし。

 〇一男子年七十、久しく病みて上気強く喘急甚だしく、手の背足の趾上浮腫し食進まず、起臥すること能わず、衆医已に必死といえるに此の方を与えて一剤にして喘急緩まり、浮腫も日々減じて全効を収めたり。又一老人同症にして浮腫なく久しく病んで空しく★んとするにも亦此の方を与えて効を得たり。

 

烏頭桂枝湯  烏頭二戔

 右水六勺を以て煮て二勺を取り、滓を去り蜜四勺を内れ、煎じて四勺を取り、桂枝湯二勺を作りて合して之を服せしめる。

 〇此の方腹中拘痛し手足逆冷、或いは不仁、又は身疼痛するを治するなり。

 〇此の方よく肯綮(ぐあい)に中る時は水を二三升も吐出し気絶することあり。よく其の症を審らかにして用いるときは、病根を除かずと云うことなし。

 〇一男子年四十三、数年疝気をうれえ腰冷えて水中に座するが如し。大抵毎旬必ず一発す。発するときは★腹大いに痛む。手足ひっぱり屈伸すること能わず。此の方を与えること二十剤にして病者大いに水を吐し、病大半を減ず。更に控涎丹にて下して全く癒えたり。

 〇一男子年五十、左半身遂わず口眼ゆがみ言語渋り手足震えり。此の方を与えて水を吐き大いに困倦(くたびれ)す。家人驚駭す。余曰く、畏るべからず、これ薬の瞑眩するなりと。後諸症悉く除きて全効を収む。

 

桂枝加附子湯  桂枝  芍薬  大棗  生姜各七分半  甘草五分  附子三分半

 右六味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇桂枝湯の症にして汗出ること多く悪寒し四肢微急小便難を治す。控涎丹、或いは平水丸、十棗湯の類をえらびて兼用すべし。

 〇一婦人年五十、背膊強直して痛み時々気上衝す。癒えざること五年、此の方に平水丸を兼用し、又時々控涎丹にて下して諸症日々に退き、後に礬石湯に浴せしめて全く癒ゆ。

 〇一男子、瘧疾を病むこと百余日、余診するに悪寒殊に甚だし、此の方を与うること二剤にして大いに水を吐きて全く治せり。

 

桂枝附子湯  桂枝一戔  大棗  生姜各七分半  甘草五分  附子一戔一分半

 右五味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇発熱上衝し身体疼煩して転側すること能わざるを治す。此れ世に所謂中風、萎躄、痛風、白虎痛、鶴膝風の類に平水丸或いは控涎丹、十棗湯などを選びて兼用すべし。若し痼疾動かざるには七宝丸を兼用すべし。

 〇黴毒の骨痛には此の方に?黄散、平水丸を選び兼用し、梅肉散にて三四日下して後に七宝丸を与うべし。或いは此の方を用いて反って痛強くなることもあるべし。とかく下しさえすれば治ると意得べし。

 〇痰飲或いは腹鳴の証あらば小半夏湯を合方し、小便不利には桂枝加苓朮湯を合方すべし。吾が門仲景の方を合方することはあれども加減することはせざるなり。

 〇右の諸症に桂枝加朮附湯、越婢加朮附湯、麻黄加朮湯の条下参考すべし。又証変ずるときは直に方を易えるべし。証の変えざる間はいつまでも其の方を用いるなり。故に常に証を知って方を処し、薬力の撤するを待つべし。日々に方を易えて効の速やかならんこと欲するは粗工の為すことと知るべし。

 〇仲景の方も烏頭、附子、天雄とあるを東洞先生すべて烏頭を用いらるることは三物もと一物にて烏頭尤も力あればなり。これを濃く煎じるときは緩くして反って能く轍す。淡くザッと煎ずれば、急に瞑眩はすれども其の効すくなし。これ無理に此の方より瞑眩させんとするは無益のことなり。よく其の病毒に撤して瞑眩するば必ず起廃の効あり。此の毒に中るに軽きものは口ひりつきて山椒をかみたるが如く、或いは微に身痺れるように覚えるなり。又強く中るは水を吐き、或いは身麻木して動くこと能わず。或いは口ゆがみ卒倒して手足厥冷することあり。驚くべからず捨て置くべし。其の毒半時か一時の間に醒めるなり。

 

桂枝附子去桂加朮湯  朮八分  附子九分  甘草四分  大棗  生姜各六分

 右五味水一盞八分を以て煮て六分を取る。

 〇これ金匱の白朮附子湯なり。今古名に従う。此の方小便不利大便かたく、或いは小便自利し身腫れ、或いは痛みによし。又水腫病所謂鼓脹の類に用いて効あり。三黄、平水、浮石等の丸薬を選びて兼用すべし。

 〇一男子、鼓脹を患う。★痩骨立、喘息迫塞し、飲食已に絶す。余此の方を与え別に水銀黒鉛二味の★方を作りて嗅がしむること、第四日に至って小便快利し、腫れ日々に除き、三十日にして全く癒えたり。

 

桂枝去苓朮湯  芍薬六分  甘草四分  大棗  朮  茯苓  生姜各六分

 右六味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇やはり桂枝湯の証にして、心下悸し小便不利上逆の無しを治す。

 

桂姜棗草黄辛附湯  桂枝  生姜  大棗各六分  甘草  麻黄  細辛各四分

 附子三分 

 右七味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇逆満して心下堅く板の様になりて悪寒甚だしき者を治する方なり。友人某、喘哮数年癒えざるに滾痰丸、紫円を兼用してこれを攻めてしばしば奇効を得たりし。

 

桂枝去芍薬加★★湯  桂枝  生姜  大棗各七分半  甘草  ★★各五分

 右五味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇上衝逆満の証ありて、濁唾涎沫を吐し、或いは痰にて咽痛を治す。

 

桂枝加竜骨牡蛎湯  桂枝  芍薬  生姜  大棗  竜骨  牡蛎各六分 

 甘草四分     

 右七味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇上衝して胸腹動悸あり。少腹痛み目眩髪落、夜いねられず、遺精するによし。滾痰丸又は三黄丸を兼用すべし。堅塊には消石大円を兼用すべし。

 〇此の方と建中湯とは外証は同じことなれども、建中湯は腹皮拘急を主治す。此の方は胸腹臍下の動を準拠とすべし。世医此の等の証を火動或いは虚労と云いて妄りに滋潤の剤を用いること誤りなり。すべて臓府の虚し又衰うなどと云うことはなきことなり。もし★に虚衰せばどうしてか薬石にて治すことを得ん。殊に知らず。皆病毒の為す所にして、各証に従いて其の毒を抜くことを世に所謂虚衰と云うも、本に復して精気盛んになるなり。 

 〇病人、灸後に発熱し、或いは気難しく何によらず灸後の不快に効あり。又湯火傷の甚だしきに服して妙なり。又瀉下の丸散を兼用すべし。およそ湯火傷に牡蛎の末一味、麻油に調へ伝て即効あり。

 〇此の方ものに驚きて発狂するに用いてよし。又遺精を治す。

 

桂枝去芍薬加★★竜骨牡蛎湯  桂枝  大棗  生姜  ★★各六分  牡蛎一★   竜骨八分  甘草四分 

 右七味水二盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇これは桂枝去芍薬湯の症にて動強く起臥為し難きを治するの方なり。

 

桂枝加芍薬生姜人参湯  桂枝  大棗  人参各六分  生姜  芍薬各八分  甘草 四分  

 右六味水二盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇これは桂枝加芍薬湯の証にして心下痞★し、又は嘔するを治するの方なり。

 

桂枝二麻黄一湯  桂枝八分五厘  芍薬  大棗  生姜各五分  甘草五分半  麻黄  杏仁各三分半

 右七味水一盞半を以て煮て六分を取る。

 〇桂枝湯の症多くして麻黄湯の症少なきものを治す。

 

桂枝二越婢一湯  桂枝  芍薬  甘草  麻黄各四分半  大棗  石膏各六分   生姜七分

 右七味水一盞半を以て煮て六分を取る。

 〇桂枝湯の証多くして越婢湯の症少なきものを治す。

 〇一老女、仲春より悪寒発熱して頭痛を患う。諸医これに与えるに柴胡湯、或いは桂附、或いは補中益気の類を用いれども寸功を奏せず。荏苒として盛夏に至り、病日に★く悪寒殊に甚だしく、衣を重ね被を襲て★臥す。余診するに浮大にして数に舌上白胎ありて口渇けり。即ち此の方を三剤与えて蒸々と発熱して煩★すること三時許にして汗大いに流れ出て衣被を浸し、病大半を減ず。明くる日又与えて発熱煩悶して汗出三日に至って諸症皆退き、三十日にして全く癒ゆ。

桂枝麻黄各半湯  桂枝五分半  芍薬  生姜  甘草  麻黄各五分  大棗  杏 仁各三分  

 右七味水一盞六分を以て煮て六分を取る。

 〇桂枝湯と麻黄湯と二方の証の相半するものを治す。

 

小建中湯  芍薬一戔二分  桂枝  甘草  大棗  生姜各六分  膠飴四戔

 右五味水一盞四分を以て煮て六分を取り、★を去り飴を内れ消せしむ。

 〇裏急にして腹中拘急し、或いは急痛するものを治す。拘急と云うは腹中に竹などを突き立てるが如くに覚え、或いは弓の弦を張りたるようにひっぱるきみを云う。愚案ずるに此の方を千金方に芍薬湯と名づけたるぞ古名なるべし。

 〇此の方心中煩悸し、或いは衂血、又は腹中手足等痛み煩熱して夜寝られず、恐ろしき夢などを見、或いは遺精などの患あるによし。

 〇積聚腹痛の持病にこれを診して腹皮拘急するに用うべし。又小柴胡湯と外証は同じことなれども、其の腹を診して胸脇苦満するを柴胡湯の証と知るべし。滾痰丸、三黄丸,紫円の類を選びて兼服すべし。

 〇一男子年五十有余、腹痛を患う。形★食減じて起臥人を恃む。蓐上に伏すこと已に二三月許り、発する時は反復転倒して手も近づくべからず。余診するに腹皮攣急す。乃ち此の方を与うるに、一剤にして知り、二剤にして諸症漸く退き二十剤にして歩して門を出ず。又診するに心下痞して食の味美ならざるよし。即ち茯苓杏仁甘草湯を作て与うること五六剤にして全く癒たり。

 

黄耆建中湯  本方に於いて黄耆三分を加う。

 〇小建中湯の証にして盗汗、或いは自汗出るものを治す。

 

黄耆桂枝五物湯  黄耆  芍薬  桂枝  大棗各七分半  生姜一戔半  

 右五味水一盞八分を以て煮て六分を取る。

 〇桂枝湯の証にして嘔し身体不仁し急迫ならざるを治す。

 

黄耆桂枝苦酒湯  黄耆一戔二分半  芍薬  桂枝各七分半

 右三味苦酒一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇身体発熱し汗出て衣を沾す。其の色黄ばみて薬汁の如くなるものを治す。

 

桂枝甘草湯  桂枝二戔  甘草一戔 

 右二味水一盞八分を以て煮て六分を取る。

 〇上衝して心悸するものを治す。?黄散を兼用すべし。

 

半夏散  半夏  桂枝  甘草各一戔 

 右三味擣き篩い、水一盞を以て煮ること七沸、散を内れ更に煎じること三沸し少し冷ま さまして少々之を嚥む。

 〇咽喉痛み上衝して痰あるものを治す。

 

桂枝甘草附子湯  甘草  朮各六分  附子九分  桂枝一戔二分

 右四味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇上衝急迫身痛甚だしくて手近づくべからず骨節煩疼し小便利せざるものを治す。

 〇一士人官を辞して後、世に所謂軍書講談なるものを以て業とす。冬月新宅の其の壁いまだ乾かず、戸の★も塞がず、寒き所に座して講談す。一日忽然として人事をしらず。口眼咼斜して言語すること能わず。半身不随。諸医並びに功なく、已に三★月に至れり。余診するに上★して面赤く手足清冷にして動挙することを得ず。小便自利して禁ぜず。乃ち此の方を与えること三十剤にして自利漸く止みて手足温まりを生ず。然るに忽大便下利すること日に六七行、七八日を経て手足運動して起ち居いすることを得て、四十余日にして諸症★く退き常に復せり。我が故先生恒に謂く、汗吐下は我より為すにあらず。彼より自ら至るものなりと。方よく其の病に中れば、病毒の伏★るる所なくして逃れ去ると知るべし。

 

桂枝甘草竜骨牡蛎湯  桂枝四分  甘草  牡蛎  竜骨各八分

 右四味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇胸腹に動気ありて煩躁するものを治す。

 

桂枝人参湯  桂枝  甘草各八分  人参  朮  乾姜各六分

 右五味水一盞八分を以て煮て一盞を取り、桂を内れて煮て六分を取る。

 〇人参湯の証にして上冲し急迫することの甚だしきものを治す。

 

人参湯  人参  甘草  朮  乾姜各七分半

 右四味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇心下痞 して吐下し小便不利、或いは急痛し、或いは胸中痺するものを治す。

 〇心下痞 とは心下に薄き板などを按すが如きもの。べったりとかたまりたるを痞 と知るべし。

 〇積聚にて、或いは痛み、或いは食進まず、又は胸膈の急痛するによし。

 〇諸病急に心下へさしこみて息だわしきによし。

 〇浮腫の症に心下へ水気あつまりて息だわしきに用う。

 〇心下ふさがりて下利する症によし。又此の方に三黄丸、滾痰丸、紫円の類を選びて、其の症に随い兼用すべし。

 〇一男子、一身悉く腫れて小便通ぜず、心下痞?し鬱々として飲食を欲っせざるに此の方に三黄丸を兼用して二十剤にて癒ゆ。

 

茯苓甘草湯  茯苓  桂枝各一戔  生姜一戔半  甘草五分 

 右四味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇心下悸し厥冷、或いは嘔するものを治す。

 〇一婦人年四十許り、平生に上衝して頭痛し時々嘔★を発す。癒えざること凡そ五六年、諸医効なし。余診するに心下悸して少腹に塊あり。即ち此の湯及び消石大円を与えて諸症全く癒ゆ。

 

茯苓杏仁甘草湯  茯苓一戔半  杏仁八分  甘草五分 

 右三味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇胸ふさがり鳩尾につかえ、悸き痛み、息だわしく、或いは水を吐き★★するによし。

茯苓戒鹽湯  茯苓二戔四分  朮六分  塩一分半

 右四味水一盞四分を以て煮て六分を取り、★を去り塩を内れ消せしむる。

 〇心下悸して小便利せざるものを治す。

 

葵子茯苓散  葵子十六両  茯苓三両

 右二味散と為し、方寸★を飲服すること日に三たび。

 〇小便利せず、心悸して身重腫満するものを治す。

 

苓姜朮甘湯  茯苓  乾姜各八分  朮  甘草各四分

 右四味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇心下悸して小便自利し腰中冷痛み、腰の重きこと五千銭を帯びるが如くして形水状の如くなるものを治す。

 〇小便瀕数、或いは淋瀝、或いは腰★季脇のあたり一処つよく凝結して痛むによし。すべて婦人に此の症のもの多し。

 〇老人身微腫し、手足重く、腰脚だるくして力なく、所謂中風の症を発せんとするが如きに、平水丸、控涎丹、或いは十棗湯の類を択び兼用して時々攻むべし。

 〇此の方水瀉に効あり。

 〇友人某、淋瀝の症を患うること多年、腰脚冷えて夜寝られず、心下悸あり。此の方を与えて諸症全く癒ゆ。

 〇一婦人、平生上衝甚だしうして心悸の症あり。故先生これに苓桂朮甘湯を飲ましむ。一夜大いに腹痛して苦★すること言うべからず。先生往きて診するに、疼痛の状、腰にあつまれるを見て、此の方一剤を与えて頓に癒えたり。

 〇一士人年七十、平生小便瀕数、腰冷えて水中に座するが如く、衣を厚くして覆い座する時は精液自ら洩れて禁れず。諸治並びに効なし。此の如くのなること已に十余年なりと。余診するに心下悸あり。即ち此の方を与えて全く癒ゆ。

 

苓桂朮甘湯  茯苓一戔  桂枝七分半  朮  甘草各五分

 右相味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇上衝心下逆満して悸し、起つ時は頭眩し、小便利せざるの症を治す。一応、悸と云うは動よりは小くして、ビクビクと手にあたるを云う。或いは心下、或いは腹背、或いは面部手足にて、ビクビクと動くことあり。又手足時々引きしゃくることあり。所謂肉★筋★なるもの是なり。

 〇上気つよく目眩する持病に?黄散を兼用すべし。

 〇眼病に此の症多し。内障外障、或いは白翳、或いは星を生じ、又は血出る等に?黄散、或いは紫円を兼用して下すべし。又桂枝加桂湯、竹葉石膏湯の証を参考すべし。又眼病の治し難きものに、七宝丸を強く用いれば奇効あり。

 〇一婦人年三十許り、平生小便淋瀝して気上衝し心下悸あり。目茫々として物を見ること羅を隔てるが如しと。余此の方及び 黄散を与えて諸症全く癒ゆ。

 〇一婦人年四十、素脚疾を患いて歩履せざること三年、夏月忽と大いに膿血を下し、諸症雑出ず。頭眩上逆して水を吐すること数日、人皆必死とす。其の夫、治を我が東洞先生に請う。先生診して此の方及び三黄丸を作り与えて飲ましむること二三剤にして諸症稍退く。服すること数日、先生復び診するに腰脚冷えて結痛し心下悸す。更に苓姜朮甘湯及び平水丸を与えること百余日、脚疾日に除いて健歩することを得たり。

 

苓桂甘棗湯  茯苓一戔二分  甘草四分半  大棗  桂枝各六分 

 右四味水二盞を以て煮て六分を取る。

 〇臍下悸して上衝し奔豚に発するものを治す。?黄散、或いは三黄丸を兼用して、時々紫円にて攻むべし。

 

苓桂五味甘草湯  茯苓  桂枝各八分  甘草六分  五味一戔二分

 右四味水一盞六分を以て煮て六分を取る。

 〇心下悸し上衝して咳嗽甚だしきものを治す。

 

苓桂五味姜辛湯  茯苓六分  甘草  乾姜  細辛各四分半  五味九分

 右五味水一盞六分を以て煮て六分を取る。

 〇前方の証にして上気低し、痰飲満するものを治す。滾痰丸を兼用すべし。

 

苓甘姜味辛夏湯  茯苓六分  甘草  乾姜  細辛各三分  五味子  半夏各九分 右六味水一盞六分を以て煮て六分を取る。

 〇前方の証にして嘔あるものを治す。

 

苓甘姜味辛夏仁湯  茯苓四分  甘草  乾姜  細辛各三分  五味子  半夏   杏仁各六分

 右七味水二盞を以て煮て六分を取る。

 〇前方の証にして微しく浮腫するものを治す。

 

苓甘姜味辛夏仁黄湯  茯苓四分  甘草  乾姜  細辛各三分  五味子  半夏  杏仁各六分  大黄三分

 右八味水二盞を以て煮て六分を取る。

 〇前方の証にして大便秘結するものを治す。

 

茯苓沢瀉湯  茯苓一戔二分  沢瀉六分  甘草  桂枝各三分  朮四分半  生姜 六分

 右六味水二盞四分を以て五味を煮て八分を取り、沢瀉を内れ更に煮て六分を取る。

 〇心下悸して小便利せず、上衝及び嘔吐し、渇して水を飲まんと欲するものを治す。

 

沢瀉湯  沢瀉二戔半  朮一戔

 右二味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇冒眩して苦しみ、小便利せざるものを治す。

 

五苓散  沢瀉一戔  茯苓  猪苓  朮各六分  桂枝四分 

 右五味散と為し、白飲を以て和して方七匕を服す。(煎法は桂苓朮甘の法に倣う)

 〇暑さに中り、煩渇身熱頭痛下利するものを治す。

 〇水瀉に用いて効あり。

 〇消渇小便利せず、或いは渇して水を飲まんと欲し、水を飲めば即吐するものを治す。 

 〇淋病によし。

 〇水を吐するものには散薬にして用うべし。

 〇熱物を飲まんことを欲するものによし。

 〇一病人、口渇して心下悸し、腹大いに痛みて席に着かず。東洞先生、これを診して云う、此れ五苓散の証なり。癒えざる前に診すべしと。門人等を往しむ。門人等、或いは其の証の具わらざるを疑う。病人服薬して腹痛頓に退けども、更に小便利せずして口渇くこと猶甚だし。然れども此の方を続け服せしめて全く癒えたり。是等にて先生の腹候に精なることを思うべし。

 

★★五苓散  ★★★末十分  五苓散五分 

 右二味散と為し、和して方七匕を服す。

 〇所謂黄疸の病など、すべて発黄するものに五苓散の症を兼ねるものを治す。

 

猪苓湯  猪苓  茯苓  阿膠  滑石  沢瀉各六分

 右五味水一盞二分を以て煮て六分を取り、膠を内れて消せしむる。

 〇発熱小便利せず、或いは淋瀝、又は渇きて水を飲まんと欲するものを治す。

 〇淋病に 黄散を兼用し、或いは★霜一味の末を酒にて服す。若し久しく癒えざるには七宝丸一、二分ずつ毎日兼用すべし。

 〇下利、しぶり腹、或いは膿血を下すによし。

 〇一男子、血淋を患うること二、三年。一日血大いに出ず。其の痛忍ぶべからず。已に二、三升に至りて、目眩て人事を知らず。余即ち此の方を与えて★に効を収め、再び発することなし。

 

猪苓散  茯苓  朮  猪苓各等分

 右三味散と為し、和して方七匕を服す。

 〇渇して心下悸し、小便利せざるものを治す。

 

牡蛎沢瀉散  牡蛎  沢瀉  ★★★  ★★  ★★  商陸根  海藻各等分

 右七味擣き篩い、白飲に和して方寸を服すること日に三服。

 〇腰以下水腫して腹中に動ありて口中乾き、小便利せざるものを治す。

 

八味丸  乾地黄八両  山茱萸  ★★各四両  沢瀉  茯苓  牡丹皮各三両   桂枝  附子各一両

 右八味之を末とし、煉蜜にて和し丸とす。

 〇臍下不仁、小便利せず、或いは腰脚だるうして力なく痛み、或いは小便自利し、或いは消渇して小便反って多く、飲むこと一升なれば小便するも又一升なるが如きの症によし。

 〇小児の遺尿に与えて往々効あり。

 〇一婦人、陰中刺痛し小便する毎に大いに痛むこと半時許りも止まず。此の如くなること数年なるに、此の方を与えて後に紫円を兼用して全く癒えたり。凡そ大人小児ともに此の証あり。すべて此の方を用いて★★効あり。

 〇一男子二十余歳、夏月下疳瘡を患う。一夜卒倒して人事を知らず、半身不随。余診するに心下?満す。乃ち紫円蜜丸三銭を用いて吐下せず。明早又診するに、心下より臍上まで陥下して物なきが如し。其の少腹をさぐれば 満にして瓢箪の状に似て、小便淋滴りて自利す。余乃ち八味丸料を作て飲ましめ、十七、八剤にして小便通長す。又紫円を以てこれを攻めて、手足運動することを得て四十余日にして諸症全く癒ゆ。

 〇一士人、熱病を患って後、口渇きて茶又は湯を飲むこと毎日三、四升。小便すること昼夜五、六十度。其の外少しも苦しむことなし。諸医効を奏せず。余即ち八味丸料を作て飲ましめ諸症頓に退く。

 〇一婦人、淋を患うこと数年、陰中冷痛して刀錐にて刺すが如く。後小便通ぜず一身腫張し煩渇飲みものを引く。余診するに少腹不仁す、即ち此の方を与えて小便即ち利して諸症やや退く。後七宝丸一、二分ずつ兼服して淋痛発せず。

 

★★瞿麦丸  ★★根二両  茯苓  薯蕷各三両  附子一両半  瞿麦一両

 右五味之を末とし、煉蜜にて梧子の大きさに丸とす。

 〇悪寒ありて渇し、小便利せず心下悸するものを治す。

 

麻黄湯  麻黄一戔二分  桂枝八分  杏仁一戔二分  甘草四分

 右四味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇頭痛発熱悪寒して身体疼き喘して汗なき症を治す。

 

麻黄加朮湯  麻黄七分半  桂枝五分  杏仁八分  朮一戔  甘草五分

 右五味水二盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇麻黄湯の証にして小便利せざるものを治す。

 

麻黄甘草湯  甘草一戔  麻黄二戔

 右二味水一盞を以て煮て六分を取る。

 〇喘息急迫額上汗出て総身に汗せざるものを治す。

 

麻黄附子甘草湯  麻黄  甘草各一戔  附子七分半

 右三味水一盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇麻黄甘草湯の証にして悪寒し、或いは身微し痛むものを治す。

 〇一儒生、傷寒を患う。身体疼痛して転側することを得ず。悪寒発熱煩渇して★腫れ刀にて刺すが如く痛む。飲食すること能わず。余乃ち此の方を作て飲ましめて病全く癒ゆ。

 

麻黄附子細辛湯  麻黄  細辛各一戔  附子七分半

 右三味水二盞を以て煮て六分を取る。

 〇麻黄附子甘草湯の証にして悪寒甚だしく、痰飲の変あるものを治す。

 

麻黄杏仁甘草石膏湯  麻黄一戔二分  杏仁四分半  甘草六分  石膏二戔四分

 右四味水一盞を以て煮て六分を取る。

 〇一婦人年二十三、妊婦七、八月より身洪腫す。★★の後、咳嗽喘急甚だしく絶食して日々危篤に至る。医初めより所謂温補の剤を与えて病勢ますます加う。更に参附の類を加倍し用いて、遂に四肢厥冷して冷汗おびただしく出て、面色土の如く唇白く喘気甚だしくして、人を射て寒ること氷に触れるが如きことを覚え、左脈已に絶して右脈絶えざれども、蜘蛛の絲の如く。口渇いて飲を欲す。余此の湯を作て与えること三剤にして身温まり喘減ず。又三剤を飲ましめて★粥をすすり、三日にして脈復し、三十余日にして諸症全く癒ゆ。

 〇一小児十歳許り、身体腫張煩渇喘急すること十余日、已に死に垂んとす。衆医治すること能わず。余乃ち此の方を与えること三日、喘渇いまだ止まず。更に紫円三分を以てこれを攻め大いに下利すること五、六行。前方を続けて服せしめて全効を収む。

 

麻黄杏仁★苡甘草湯  ★苡仁五分  甘草一戔  杏仁  麻黄各五分

 右四味水一盞半を以て煮て六分を取る。

 〇麻黄杏仁甘草石膏湯の証にして渇せず身煩疼、水気あるものを治す。

 

牡蛎湯  牡蛎  麻黄各一戔  甘草五分  蜀漆七分半

 右四味水二盞四分を以て、先ず蜀漆麻黄を煮て一盞八分を得、二味を内れ煮て六分をる。

 〇喘急迫息の証にして胸中に動あるものを治す。

 

麻黄醇酒湯  麻黄三戔 

 右一味清酒一盞二分を以て煮て六分を取り、頓服す。

 〇喘して黄を発し、或いは身疼むものを治す。 

 

半夏麻黄湯  半夏  麻黄各等分

 右二味之を末とし、煉蜜にて和し小豆の大に丸とし、三丸を服すること日に三たび。

 〇喘して嘔するものを治す。 

 

小青竜湯  麻黄  芍薬  甘草  桂枝  乾姜  細辛各三分  半夏  五味子 各六分

 右八味水二盞を以て煮て六分を取る。

 〇喘咳★息上衝発熱悪風し乾嘔するものを治す。

 〇咳嗽喘急寒暑に至れば必ず発し、喉中なりすだき、痰沫を吐して臥すこと能わず。或いは一月に二、三度、或いは四、五度も発する持病によし。大人小児ともに毎日滾痰丸を五分、或いは七分ずつ用い、時々紫円、或いは白散、又は走馬湯等を択び用いて下し、久しく服して病根を抜くべし。

 〇世に所謂労★の症に大小青竜二方の証あり。東洞先生も滾痰丸、紫円を兼用せしめて功を得られたること多し。固より労★とて別に治方あるにあらず。唯毒の深重なるものなれば、症を逐う病毒を除き去るべし。

 〇咳逆甚だしくして小便利せず腫満となるものあり。此の方に滾痰丸、或いは平水丸を兼用して効あり。猶大青竜湯、越婢加朮附湯の条下を互考すべし。

 〇一女子十四歳、生まれながらにして哮吼を患う。其の形短小にして八、九歳の児の如し。発する時は喘促して痰を吐し★して息することを得ず、座して臥すこと能わず。余此の方及び滾痰丸を作て与え、時々紫円にてこれを攻めるなど、出入りすること一年ばかりにして其の疾癒えて再び発せず。其の形盛大になりて、漸く常人と異ならず。

 

大青竜湯  麻黄一戔二分  桂枝  甘草各四分  杏仁二分半  石膏一戔二分   生姜  大棗各六分

 右七味水一盞八分を以て煮て六分を取る。

 〇喘して咳嗽し、渇して水を飲まんと欲し、上衝発熱、或いは身痛み不汗出して煩躁するを治す。

 〇★嗽喘急久しく癒えざるに、滾痰丸を兼用し時々控涎丹、十棗湯、或いは走馬湯等、時宜に随いてこれを攻むべし。

 

文蛤湯  文蛤一戔  麻黄  甘草  生姜  大棗各六分  石膏一戔  杏仁五分 右七味水一盞八分を以て煮て六分を取る。

 〇渇して水を飲まんと欲し、喘咳急なるものを治す。

 

越婢湯  麻黄一戔二分  石膏一戔六分  生姜六分  大棗八分  甘草四分  

 右五味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇水腫発熱悪風して渇し、或いは喘して渇せざるものを治す。

 〇喘渇甚だしく、或いは一身★★く腫れて小便利せざるに平水丸、或いは控涎丹を兼用し、時々備急円、又は紫円にて下すべし。

 〇脚腫れ疼痛するによし。

 〇一男子年五十余、脚腫れて疼痛忍ぶべからず。日夜叫號すること五、六日。諸治効なし。余此の方を与えて病頓に癒ゆ。

 

越婢加朮附湯  麻黄九分  石膏一戔二分  甘草三分  朮六分  附子二分余   生姜四分半  大棗六分

 右七味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇越婢湯の証にして手足痛み、或いは悪寒小便利せざるものを治す。

 〇所謂脚気腫満の症には平水丸、或いは紫円にて攻むべし。

 〇一男子年五十、枕に伏すこと三月許り。遍身洪腫して小便利せず、飲食すすまず、痰喘急迫して、心中煩悶、気息絶えんとす。諸医手を束ね、其の家も亦救うべからずとす。余先ず飲ましむるに控涎丹三銭を以てす。間ありて水数升を下し、心腹頓に安し又此の方及び平水丸を作て互に進む。小便快利し腫脹日々に退き、四十余日にして全く癒ゆ。

 

越婢加半夏湯  麻黄九分  石膏一戔二分  甘草三分  生姜四分  大棗六分

 半夏七分半

 右六味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇越婢湯の証にして嘔逆するものを治す。

 

葛根湯  葛根八分  麻黄  生姜  大棗各六分  桂枝  芍薬  甘草各四分

 右七味水二盞を以て煮て六分を取る。

 〇項背強ばり、或いは発熱悪風、或いは喘し、或いは下利するものを治す。

 〇所謂感冒、或いは傷寒の初発に用う。発熱下利するによし。

 〇手足痺れ痿えたるによし。

 〇肩背高く張りすくみ、首まわらず痿の如くなるに 黄散、或いは滾痰丸を兼用し、更に紫円、或いは十棗湯、控涎丹の類を択びて、時々これ攻むべし。又大陥胸湯の証と宜しく互いに考えるべし。

 〇痘瘡・麻疹の初発に此の方を用いて紫円にて大いに下すべし。

 〇東洞先生は方内大黄を加えて、頭瘡・小瘡・黴毒・便毒及び諸瘡・毒腫に用いられたり。又梅肉散、或いは紫円の類を兼用して瀉下すること可なり。其の毒深きものは七宝丸を与うべし。

 〇一婦人、産後百余日、忽然として舌縮まりて幾んど死に至らんとす。余乃ち桂枝加朮附湯を与えること四、五剤にして諸症稍減ずといえども、全効を奏ぜざるに因って、紫円を以てこれを攻めること三十日許り、猶自若たり。よって東洞先生に問う、先生の曰く、此れ葛根湯の症なりと。余即ちこれを与えるに諸症随いて退く。後十棗湯を作て与えるに、下利数十行にして全く癒えたり。爾後、或いは此の症にあえば、此の方を与えて★々功を得たり。

 〇一男子、面部に腫毒を発し、漸々に両目ふさがり、或いは破れて膿汁しだたり、状癩瘡の如くにして臭穢近づくべからず。余此の方に梅肉散を兼用して即ち癒ゆ。

 〇一男子、小瘡を患う。其の股臀陰★腫れ潰れ膿水しだたりて衣衾を浸し、楚痛忍ぶべからず。余此の方に大黄を加えて飲ましめ、時々梅肉散にてこれ攻めて全く癒ゆ。

 

葛根加半夏湯  葛根六分  麻黄  生姜  大棗各四分半  桂枝  甘草  芍薬各三分  半夏九部

 右八味水二盞を以て煮て六分を取る。

 〇葛根湯の症にして嘔するものを治す。

 

葛根黄連黄★湯

 右四味水二盞四分を以て煮て六分を取る。

 〇項背強急して心煩下利するものを治す。

 

小柴胡湯  柴胡八部  人参  甘草  黄★  大棗  生姜各三部  半夏六部

 右七味水三盞を以て煮て一盞半を取り、滓を去り再煎して六分を取る。

 〇胸脇苦満し寒熱往来、或いは嘔し腹中痛むを治す。

 〇傷寒雑病に拘らず、舌上に白胎、又は黄胎・黒胎ありて心下脇腹満し、或いは痛み、或いは不食し、又は気むつかしく労★気の方などいえる症に三黄丸、或いは滾痰丸を兼用して時々紫円にて下すべし。

 〇表熱散じて後に気むつかしく不食し、つかえるによし。

 〇小児驚風、或いはものに恐れて夜寝ざるによし。

 〇疳証にて下利発熱し、脇腹満するに紫円を兼用してよし。

 〇婦人産後に寒熱ありて狂の如くなるに、此の方の証あり。白虎湯・三黄瀉心湯・半夏瀉心湯の証を参考すべし。狂疾・癇症にも四方の条下考えるべし。

 〇瘧疾に其の腹証に随いて考え用うべし。古今小柴胡湯は瘧疾の方のように覚えて、一概に用いれども治せざること多きは、寒熱を準拠として腹証を知らざるによれり。東洞先生は腹診を主として弟子に教う。もし腹診に精しからざれば、疾病を治すること能わずと知るべし。

 〇水腫に胸脇苦満し小便利せざるものあり。三黄丸・平水丸を兼用すべし。

 〇一男子年四十余、初め手背に毒腫を発し、癒えて後に一日忽然として悪寒煩熱し、面目浮腫し小便通ぜず。余診するに、心下痞?し胸肋妨脹す。乃ち此の方及び平水丸を雑へ進め小便快利して全く癒ゆ。

 〇一婦人、発黄して心中煩熱して口燥き、胸脇苦満して食すること能わず。数日の後、両目盲して物を見ることを得ず。余乃ち此の方及び?黄散を作り与えるに、目遂に明に復し、一月余にして諸症全く癒ゆ。

 〇一男子、吐血すること数日止まず、日々に益々激し。余其の腹を診するに、胸肋妨脹して痛む。乃ち此の方を作て与えること二、三剤にして効を奏す。

 〇一男子年三十、傷寒を患う。四肢逆冷・攣急して悪寒す、其の脈沈にして微に已に★れんとす。諸医参附の剤を投ずるに効あることなし。余これを診するに胸脇苦満す。乃ち此の方を与えること二剤にして応じ、其の脈復す。続けて服せしむること二十余剤にして全く癒ゆ。

 〇一男子五十余、一病を得たり。常に欝々として楽しまず、独り戸を閉じ窓を塞いでおり、★然として鶏犬の声を恐れ上衝して目昏み、寝臥安からず、睡れば夢を見、或いは遺瀝漏精して飲食味わいなく百治応ぜず、綿★すること三年許り。余診視するに、胸脇苦満す。乃ち此の柴胡加桂湯及び三黄丸を飲ましめ、時々紫円を以てこれを攻む。三月にして病全く癒ゆ。

 〇一女子年十八、咳嗽痰を吐し、気上衝して頭目昏眩・四肢倦怠・心志楽しまず、寒熱往来、飲食味わいなく、日々に★痩し癒えざること一年許り。衆医皆労★とす。余これを診するに、脇肋妨脹す。乃ち小柴胡加桂湯及び滾痰丸を与えて服せしむること三月許りにして全効を収む。

 

柴胡加芒硝湯  前方の内に於いて芒硝九分を加う。

 〇小柴胡湯の証にして苦満解せざるものを治す。

 

柴胡去半夏加★★湯  柴胡八分  ★★根四分  人参  黄★  大棗  甘草   生姜各三分 

 右七味水二盞四分を以て煮て一盞二分を取り、滓を去り再煎して六分を取る。

 〇小柴胡湯の証にして渇して嘔せざるものを治す。

 

柴胡桂枝湯  桂枝  芍薬  黄★  人参  生姜  大棗  甘草各三分  半夏 六分  柴胡八分  

 右九味水二盞四分を以て煮て一盞二分を取り、滓を去り再煎して六分を取る。

 〇小柴胡湯と桂枝湯と二方の証を兼ねるものを治す。

 

柴胡桂枝乾姜湯  柴胡八部  桂枝  乾姜  黄★  牡蛎各三分  ★★根四分  甘草二分

 右七味水二盞四分を以て煮て半に減じ、滓を去り再煎して六分を取る。

 〇前証にして嘔せず痞せず上衝して渇し胸腹に動あるものを治す。

 〇積聚腹痛の持病、動悸あり物に恐れ驚き、胸さわぎし気力かいなきに此の方に硝石大円・夷則丸、或いは紫円の類を参考して用うべし。

 〇一婦人、平生月経調わず、気上衝し両脇急縮して腰痛忍ぶべからず。其の経行らんとする時は臍腹★痛して下すこと豆汁の如く、或いは米★水の如し。経水★に一日、或いは半日にして止む。此の如きもの十二、三年なりと。余診するに胸脇苦満して臍上動気甚だし。乃ち此の方及び硝石大円を作て雑進む。時々赤黒膿血を泄らす。服すること数月にして前症全く癒ゆることを得たり。

 

大柴胡湯  柴胡八分  黄★  芍薬  大棗各三分  大黄二分  枳実四分    半夏六分  生姜五分

 右八味水三盞を以て煮て半に減じ、滓を去り再煎して六分を取る。

 〇小柴胡湯の証にして心下急微煩し、腹満拘攣し、或いは嘔するものを治す。

 〇傷寒十余日、往来寒熱譫語し大便通ぜず、腹満拘攣するによし。

 〇積聚の腹痛によし。

 〇小児熱出て腹満するによし。

 〇一男子年四十余、卒倒して人事をしらず。醒めて後、半身不随、舌強ばりて語ることを得ず。諸医効なし。余これを診するに胸脇痞 し腹満甚だしくして拘攣す。これを按せば手足に轍せり。乃ち此の方を作て飲ましむること十二、三日にして身体略よく挙動す。又時々紫円にて攻めること二十日許り、全く癒ゆることを得。

 〇一酒客年五十余、久しく左脇下 満して、大きさ盤の如く。腹皮攣急して痛み、時々発し、煩熱喘逆して臥すこと能わず。面色痿黄し身体★★す。丙★の春、潮熱を発し、火などにて焼くが如く覚えて癒えざること五十余日、余乃ち此の方を作て飲ましむること凡そ五十余剤にして其の熱★退く。又時々紫円を以てこれを攻む。病者信じて前方を服すること一年許りにして★★★く除く。

 〇一婦人年三十四、五。熱病を患うること十八、九日。譫語・煩躁して安からず。熱減ぜず。飲食すること能わず。諸医必死とす。余診するに、胸肋脹満して拘攣す。乃ち此の方を与え、六、七日にして腹満去って食進み、出入りに十日許りにして全効を収む。

 

白虎湯  石膏二戔四分  知母九分  粳米六分  甘草三部  

 右四味水二盞を以て煮て、一盞二分を取り、滓を去り粳米を内れ、煮て六分を取る。

 〇大渇煩★引飲、或いは厥するものを治す。

 〇傷寒渇して水を飲まんと欲し、狂の如くにして、譫語するによし。

 〇熱盛んにして赤斑を発するによし。

 〇狂人煩★して渇するには、滾痰丸・紫円・備急円等を参考して兼用すべし。

 〇暑に中りて、大渇煩渇し、吐瀉して昏冒するものによし。

 〇瘧疾に咽渇き、口乾くによし。

 〇頭痛破るが如くなるによし。又舌上黒く、或いは黄なるを見るべし。

 〇一男子年二十、熱病二十日許り、大熱煩渇して水数升を飲まんと欲し、頭痛破るが如く、妄言狂呼して衣を棄てて走らんとす。余此の方三剤を与えて、汗出て熱去りて、病者困倦すること死状の如し。因って復診するに、前証皆除いて但胸脇苦満して上衝尤も甚だし。更に柴胡桂枝湯及び 黄散を服せしめて癒えて復常す。

 〇一男子年五十、忽ち発狂し罵詈すること親疎を避けず。高に登りて歌い、衣を棄てて走り、遍身★熱して煩渇引飲す。余此の方を与え、又★★霜一銭・巴豆八分・胡椒五分右三味を丸し、二銭を与えてこれを攻めれば、蟯を出すこと数升にして疾頓に退き二十日にして全く癒ゆ。

 〇一女子四歳、腹満甚だしくして下利日に数十行。口渇して冷水を飲むことを好み、恣に瓜・果物・冷たい物を食らい、肌肉黄痩して癒えざること半年許り。余乃ち白虎湯及び紫円を与えて飲まらしむること、凡そ五十剤にして諸症全く癒ゆ。

 

白虎加人参湯  本方に於いて人参四分を加う。

 〇本方の証にして心下痞★するものを治す。

 

白虎加桂枝湯  石膏一戔六分  知母六分  粳米四分  甘草三部  

 右五味水二盞を以て煮て、一盞二分を取り、滓を去り粳米を内れ、煮て六分を取る。

 〇白虎湯の証にして上衝身煩疼するを治す。

 

小承気湯  大黄一戔二分  厚朴六分  枳実九分

 右三味水二盞を以て煮て六分を取る。

 〇腹満して大便かたきものを治す。

 

厚朴七物湯  厚朴一戔二分  甘草  大黄各四分半  桂枝三分  枳実七分半   大棗四分  生姜七分半 

 右七味水一盞何を以て煮て六分を取る。

 〇腹満発熱、或いは上衝嘔吐し、或いは夏月下痢し、裏急後重によし。

 〇腹満甚だしくして所謂鼓脹の症なるものを治す。

 

大承気湯  大黄八分  厚朴一戔六分  枳実一戔  芒硝一戔二分

 右四味水三盞を以て二物を煮て、一箋半を取り、滓を去り大黄を内れ煮て六分を取り、芒硝を内れ消せしめる。

 〇腹堅満し、若しくは下利臭穢、若しくは燥屎あるものを治す。

 〇傷寒大便通ぜず、腹堅満、譫語して狂の如くなるによし。又白虎湯の証に似たれども、白虎は煩渇を主とし、承気は腹堅満を準拠とすべし。

 〇痢病に毒の浅深はあれども、先ず大承気を以て悪物を下すこと肝要なり。又痢病癒えて後に、毎年其の時節に至りて発するものあり、これは毒の尽きざる故なり。此の方  にて下すべし。

 〇卒に腹満して痛み、煩悶して口噤し死せんとするによし。

 〇小児の時より腹脹満して痛む持病によし。

 〇食傷吐下せず、腹満して石の如くなるによし。

 〇病人瘧状の如く、日★に発熱して大便通ぜざるものによし。

 〇痙病腹満口噤して席に着ず、脚攣急し歯をかむものによし。又大陥胸湯の証を参考すべし。又東洞先生曰く、此の方を用いて大便一、二度通ずれども薬を止めるべからず。其の証の尽くるを度とすべし。証を尽くさずして薬を止めれば病復発す。其の時復用いて復止めども後終に救うこと能わざるに至ると心得るべし。

 〇一小児生まれて五十日許り、卒然と★声を出さず、目を見つめ煩悶して驚風の証に似たり。紫円を用いること三日にして治せず。其の腹を按ずるに、堅満して石の如し。即ち大承気を用いて癒えたり。

 〇一男子年五十余、胸痛すること三、四日。偶上巳の日にあたり、大いに酔って忽然として口言うこと能わず。心中煩悶して反復顛倒す。腹痛の状あり。余診するに腹中堅満す。乃ち備急円三銭を与えて癒えざること三時許り。後には其の人伏して動かず肩息して吐せんと欲して吐せざるの態あり。手足冷ゆ。衣を循★を★り、将に死せんとす。又真武湯三剤を与えて諸症★退く。後一日ありて言語することを得たり。六、七日にして全く治せり。余謂く、治は即ち治す。恐らくは偶中ならんと。乃ち先生に問う。先生の曰く、其の治にあらず、始めに大承気湯を用いる時は此れに至らずと。後半歳にして其の人復前証を発す。余即ち大承気三剤を与えて疾立ちどころに癒えて再び発せず。是に於いて乃ち知る、先生の用方に察なる、うまく長沙氏の室に入ることを。

 〇一商人年六十、熱病を患う。諸薬雑投して日に増劇し十七、八日にして、耳聾・目瞑して人を知らず。唇焦舌黒・譫妄・燥渇唯冷水をもとむ。水入る時は嘔★す。手を揚げ足を舞わす。病勢危うきこと甚だし。家人只斃を待つの外なし。余其の腹を按ぜば 満して疼痛の状あり。乃ち大承気湯三剤を作て飲ましむ。其の夜燥屎五、六枚を下す。明早、目明に耳聞くことを得、始めて人事を知る。然れども口渇いまだ止まず、猶冷水を飲まんと欲す。余禁ぜず許して飲ましむるに、三日に至って復飲むことを欲せず。前方を与え服せしむること十余剤にして諸症日に除く。復診するに、心下痞?し腹中雷鳴す。更めて半夏瀉心湯及び三黄丸を作てこれを飲まして病全く癒ゆ。

 〇男子年四十有余、熱病十八、九日。口言うこと能わず。目視ること正しく得ず。身体動かず手足清冷なり。諸医陰症となして、参附の輩を与えるに寸効を得ず。余診するに両脈蜘蛛の絲の如く、将に絶えんとす。其の腹を候うに臍下物ありて磊★たり。乃ち大承気湯を作て飲ましめ、燥屎五、六枚を通じて諸症頓に退く。

 〇一婦人、傷寒を患いて譫語・狂笈して清水を下利すること日に数十行。諸医療ずること能わず。余診するに腹★満にして按ぜば痛むこと甚だし。乃ち此の方を作て進むこと三剤にして利即止みて諸症並に除く。

 〇一老人偏頭痛を患う。其の痛み、刀にて刳るが如く。治せざること四十余日。諸医療ずることを得ず。余診するに、腹?満して大便通ぜざること十四日、舌上黄胎・面目★黒。余乃此の方五剤を与えて下利すること五、六行。諸症頓に退き、六、七日にして全く治したり。これより腹満して偏頭痛するものにあえば、此の方を与えて功を得ずと云うことなし。

 〇一男子年五十、腹堅満にして切痛す。時正に厳冬なり。医寒中となして四逆湯を用いるに功なし。余此の方を与えるに、一飲して其の痛即ち止み、再飲して病全く癒ゆ。

大黄黄連瀉心湯  大黄二戔  黄連一戔 

 右二味麻沸湯六分を以て之を漬け、須臾に滓を絞り去りて温服す。

 〇心煩・心下痞これを按じて濡なるものを治す。

 

瀉心湯  大黄一戔二分  黄連  黄★各六分

 右三味麻沸湯六分を以て之を漬け、滓を去りて頓服す。

 〇心中煩乱・心下痞これを按じて濡なるものを治す。

 〇吐血・衂血によし。

 〇心中煩燥して痛み、或いは積聚、或いは腹痛によし。

 〇眼目赤腫・頭項腫痛・口舌に瘡を生じ、心胸煩燥・飲食美ならず、小便赤く渋り、大便秘結・癰★瘡腫を生じ、痔疾・肛門腫痛・鮮血を下すを治す。

 〇一男子年三十余、熱病を患い、癒えざること三十日許り。背悪寒殊に甚だしく皮膚燥熱して飲食すること能わず。余診するに腹内濡にして唯心下満す。これを按ぜば痞せず。即ち此の方を与えて、汗大いに出て諸症頓に退き、十五、六日にして全く癒ゆ。

附子瀉心湯  大黄一戔  黄連  黄 各五分  附子七分半

 右四味水九分を以て、先ず附子を煮て六分を取り、滓を去り沸せしめ三味を内れ、之を 漬け、須臾に滓を絞り去りて服す。

 〇瀉心湯の証にして悪寒する者を治す。

 

大黄附子湯  大黄九分  附子一戔三分半  細辛六分

 右三味水一盞半を以て煮て六分を取る。

 〇脇下偏痛し悪寒するものを治す。

 〇一男子年五十余、腹痛すること数年なり。余診するに心下痞 ・腹中雷鳴す。乃ち半夏瀉心湯を作て飲ましめ、いまだ効を奏せず。一日忽然として大いに悪寒戦慄して絞痛すること常に三倍す。是に於いて更に大黄附子湯を作して飲ましめ痛頓に止み、続けて服すること数日にして病再び発せず。

 

大黄甘遂湯  大黄一戔二分  甘遂  阿膠各六分 

 右三味水一盞八分を以て煮て六分を取る。

 〇少腹満すること敦(敦の音は対なり。祭りに用いる器の名なり)状の如く、小便少なく難く、或いは経水の変あるものを治す。

 〇一僧年二十八、淋瀝を患うこと数年。時に膿血を出し、或いは米★水の如く。大便下利し、時に秘閉す。若し下利する時は淋瀝すること稍安く、秘閉すれば甚だし。余診するば少腹満して腫状の如く。按ぜば茎中に引く痛みと。乃ち此の方を作て飲ましめ大いに下利して病頓に退き、数日にして全く癒ゆ。

 

低当湯  水蛭  ★蟲各十★  大黄二戔一分  桃仁七分

 右四味末と為し、水一盞を以て煮て六分を取る。

 〇少腹 満して経水不利し、或いは腹満せず。其の人我は満すと云うものを治す。

 〇傷寒其の人狂の如く、小便自利するものによし。

 〇婦人経水調わず、或いは赤白帯下止まず、或いは臭穢近ずくべからずによし。

 〇一婦人年三十、癩疾を患うこと三年、眉毛脱落し鼻梁腫大に、一身腫れて赤斑雲の如く、手足麻痺して月経通ぜず。余乃ち低当丸を作て飲ましむること日に三銭。これを  服すること三十日、血下ること数升。後一百日にして治す。

 

橘皮大黄朴消湯  橘皮六分  大黄  芒硝各一戔二分 

 右三味水一盞二分を以て煮て六分を取る。

 〇心胸の間に宿食ありて化せず、吐せども出ずを治す。

 

大黄硝石湯  大黄  黄蘗  硝石各八分  梔子四分

 右四味水一盞二分を以て煮て六分を取り、滓を去り硝石を内れ消せしむる。

 〇発黄腹満し小便通ぜず、汗自ら出るを治す。

 

大黄牡丹皮湯  大黄八分  牡丹六分  桃仁四分  瓜子一戔  芒硝一戔二分

 右五味水三盞を以て煮て六分を取り、滓を去り硝を内れ消せしむる。

 〇臍下に腫痞あり。これを按ぜば痛み、或いは便膿血するものを治す。

 〇腸癰・癰毒・便毒、或いは風毒腫、或いは乳癌の類に伯州散を兼用し、梅肉散にて下すべし。

 〇一男子風毒腫を病む。癒えて後、二、三年瘡口未だ収まらず水を出す。後脚攣急して疼痛忍ぶべからず。余此の方を用いて痛み除き、瘡口も亦全く治す。

 〇一女子十四歳、初め左の腿毒腫を発し、潰れて後、餘毒消せず。膿汁淋瀝して癒えず。脚強直して棒も如く、厠に登ること能わず。已に六年に及ぶ。諸医療ずることを得ず。余に治を求む。即ち此の方を作て飲ましめ時々虎黛丸にてこれを攻め、両月余りにして全く癒えたり。

 〇一男子熱病を患い、大半癒えて後、一日腹大いに満し、臍傍痛みて刺すが如くなるに、此の方を与えること三剤にして癒ゆ。

 

大黄甘草湯  大黄二戔  甘草五分

 右二味水一盞八分を以て煮て六分を取る。

 〇大便秘結し、或いは水を吐し、食を吐するものを治す。

 

調胃承気湯  大黄一戔  甘草五分  芒硝二戔

 右三味水一盞八分を以て煮て六分を取り、芒硝を内れ消せしめる。

 〇大便通ぜず急迫して実なるものを治す。

 〇友人某、所謂消渇の症に此の方を用いて功を得たりと。考えるべし。

 

下★血湯  大黄二両  桃仁  ★蟲各二十枚

 右三味末す、蜜に和して四丸と為し、酒八分を以て一丸を煎じ六分を取りて服す。

 〇臍下毒痛及び経水利せざるものを治す。此の方、古名大黄★蟲丸と云う。本草に見えたり。(★蟲和産なし。或いは有ると云うもの、詳ならず。舶来のもの功あれども、多く得がたし)

 

土瓜根散  土瓜根  芍薬  桂枝  ★蟲各三分

 右四味散と為し、酒にて方寸匕を服す。

 〇少腹満痛し経水利せず、或いは白物を下すものを治す。(右下 血湯及び此の方、当に桃核承気湯の次に列すべきを冊を分けて剰紙あるを以てここに載す。覧ん人、次第  の差★★★★★★★★

 

古方便覧上冊終わり