痔   下 血 

 

 痔は肛門の病にて素問に出て、後世名称甚だ多く、酒客に多い故、酒痔の名あり。肛肉脱出するを脱肛と云い、寒気の節に多し。 き大便を下す時に翻り出て癖になりて肛内の肉ゆるみてほつれて翻花瘡の如くに出ず。出れば軟肉故痛も有れども出るほどのことなれば腫れも催して痛むなり。甚だしきは座することならず側臥して百薬効無し。日月を経て自然に汁を流し、腫消して愈を待つに至るも有り。又軽きは手入れして納まる。又常に大便の毎に脱して其の度に押し入る人も有り。治療の法は服薬して外よりも蒸して痛苦を去り、腫消して早入ることを宜しとす。大便秘しては入れても又押し出す故に、朱明丸を諸湯に兼用して滑便にして置くべし。一切の痔強く痛むは猶更乙字湯又無花果葉、柿の葉も効あるものなり。又煙草煎汁熱に乗りて洗う。又薤葉も奇験あり。又外科正宗に大田螺一つに竜脳五厘を蓋を挑げて入り置けば、水を出すを鶏 にて腫上にする奇効有り。又熊胆を塗るもよし。其の外奇薬種々なり。艾葉を煎じ、醤油樽に入れて孔を開き、肛を蒸すも奇肛有り。大人小児痢病に脱肛するは痢門に語るなり。或る人毎便に必ず脱肛し座すること能わず。伏して沈吟数刻す。早朝昼間臨臥と三度ずつ日々腰湯すること三年わずかにて全く愈したりき、便前の下血を近血とし、便後を遠血と云う。近血は悪く遠血はよしと云う。是は堅糞にて肛内をすりやくり下血するなり。又肛内小瘡を生じ、其の頂を堅糞にてすり傷んで下血する有り。腹内より出るに非ず。夫れ故遠血はよしと云うなり。下血の多いを腸風下血・蔵毒下血・腸 便血と云う。腸 便血の名も素問に出ず。腸 の論は多端なれども、腸内より下血するには非ず、肛内に小孔を発す。夫れより瀉血す。つながりの如くに射る有り。至って細は中間は絶えて見えず。下へ溜りたる所を見て知れる。厠にて居住居によりて肛内の小孔を左右の肉にて押すようによりて心外の方角へはしり出、横にはしるとて怪しむことに非ず。是は夏月小児の玩具、或いは石花菜店にて水車、又は燈蘢実を吹かせる水の吹き出す管へ些の物さわれば左右心外の所へはしる。即ち此の理なり。さて下血すること六、七合、或いは升余りに至るも有り。暈倒せんとするものは三黄湯之を主る。是は神気不定の様になるには猶更用ゆべし。是の如くこと数十日に及べば、肌膚青蒼唇舌刮白にて虚悸胸間に鼓し人迎の動脈甚だしく、耳内に及べば響きを蝉鳴眩暈し手足の爪も栄えずして反り返り折れなんとして黄胖病と異ならず。地楡・槐花の類一切の薬験無し。是はやはり黄胖病に取り扱いて針砂湯なり。此の事は偶記にも詳らかに記す。元来腹の六ヶ敷人は痔にさそわれて両脇へ引きつり、或いは夜間眠りにくくなどに至るは大柴胡湯にすべし。又肛辺りに瘡を生じ痒きこと忍ぶべからず、或いは黄汁を流しなどすること有り。是には蒸薬は悪しきこと有り。見計らい肝要なり。又枯薬を塗り一時に瘡愈えるや、乍ちに眼目通赤するも有り。耳聾するも有り。又口中に瘡を発するも有り。又気を閉じ、終日黙然として楽しからず、細慮繊思、気癖の如く。是故に蒸薬は其の瘡の姿次第にて行なうべし。悉く乙字湯之を主る。又心腹痛を作るも有り。是は下血の俄に止みたるにも有り。心痛に語るとおりなり。肛外へ物を指頭の如く生じ、緊痛する、是を俗にイボ痔と云う。牛 痔など云うものならん。又肛内頻りに痛むを内痔と云う。是も気を塞ぎ、甚だしきは心気不定になる。此の類は長強に数千壮の灸をすべし。すべて痔には灸の効有るものなり。諸痔共に灸すべし。又肛外へ孔を生じ膿汁を流す。其の孔幾つも発し終身愈えずも有り。是を痔漏瘡と云う。近時之を割りて肛門と一つにして内を洗い去りて療ずること、外科の熟せる人に行なうは蛮法なるや。また脱肛を薬線にて切ること有り。是は睫毛倒衝に眼胞を挟みて治すると同意なり。何れ上手の外科に委すべし。痔に化毒丸を用いて効を取ること有り。淋にも下疳瘡の治にて治ると同意なり。又膿血を雑下するには大黄牡丹皮湯を用ゆることは実症の人に限るべし。旧下血にて乙字湯を用いて験無し、脈浮大にて力無しと見たらば一も二も無く益気湯にすべし。又小児肛門痒く小細蟲を生ずること有り。陰蝕蟲と云うの名に似たれども蝕するに非ず。又蟲痔と云う名にたれども是にも非ず。痔には属せず疳に属す。濁浪湯にて洗う背腹へ灸すること疳法の如く、弄玉湯之を主る。又女人陰所甚だ痒し、之を掻くの火の如くもの痔に属す。濁浪湯にて洗い乙字湯を服し、腰眼に艾灸すべし。方書に女人陰所の病を暗疾と云えり。

 一婦人下血数十日数升に及ぶ。地楡・槐花・医王湯・粟米湯・乙字湯の類、寸効なし。肛辺り腫痛し、少しの処をまたぎても流血し、少しも股を開くことならず、虚悸膈に動き、り・眩暈黄胖の如くに針砂湯与える。少快に似たれども下血止まず盛夏一日腹痛して手足微冷、夜間予を延く、其の下血は常時腹痛、是中暑なり。人参湯を与えて茯苓を加う。次の日腹痛止むのみに非ず、気力甚だ快く二、三日を経て下血止む。猶用いること数日にて全快す。後年又下血す、先ず乙字湯を与え愈えず、乃ち前年にならって人参湯加茯苓を与うに速ややかに効を得る。久しい下血に理中湯を用いるは是より覚えたり。医説に腸癖に人参散を用いて効あることを記せり。暗合なり。又外科正宗に加味四君子湯、痔瘡・痔漏・下血止まずを治す。面色痿黄心怱ぎ、耳鳴り脚弱気乏云々、又便血禁ぜずを治すと有り。是も人参湯と同意にて面色委黄耳鳴り脚弱は黄胖にならんとするにて詳には黄胖門にて熟得すべし。針砂湯の主るところにて皇盤丸を兼用するところなり。又脚気を帯びて微腫するは九味檳榔湯などにすることも有るべし。然れども血の俄に脱して気と釣り合わざれば浮腫するものなり。是は小便快利し水腫とは異なれば能々診して、やはり主症の治法にて気血相復して腫れにかかわらず腫れは引くものなり。呉又可が所謂気復と云うものと同じ。若し小便微渋の気あらば猶更左無くとも腎気丸を煎服すること佳なり。

 

朱明丸 大人小児大便秘閉を治す。

  大黄三両 蕎麦一両

 右二味梧子大を丸し、毎服十五、六丸を湯にて送下す。

 

礬石湯 脱肛腫痛を治す。

  礬石一大握

 水三升許り煮ること一、二沸、熱に乗じて醤油樽に入れ孔を開き其の肛を蒸して瘡と為して収む。又石を焼いて通紅にて漉す巾に包み、湯中に浸し之を熨す。

 

洗痔枳殻湯 痔瘡腫痛肛門下墜を治す。新久を論ずるなかれ、之を洗い腫れ自ら消す。

  枳殻二両 癩蝦蟆草二両

 右河水三瓢にて煎じること暫らくして薫ず。後に洗い又間を置き再び熱して薫★★★★ 洗う者三次後に五倍散を伝うべし。

 

五倍子散 諸痔挙発堅硬疼痛忍び難きを治す。或いは蔵毒肛門に腫れ出で泛い、硬く収ま らずに亦効あり、五倍子大なるもの、一小孔をあけ乾癩蝦蟆草を揉み砕き内に入れて紙にて孔を塞ぎ、湿紙に包し紙を去り細末し一銭・軽粉三銭・氷片五厘を加え、極末にして痔の上薫洗の後にひねりかけ睡りて動くこと勿れ。此の二方にて外痔は皆治すと正宗に詳なり。

  大黄牡丹皮湯(金匱) 大柴胡湯 三黄湯 理中湯(以上傷寒論) 益気湯或いは加  地楡・槐花  化毒丸(見下疳)

  (蔵方)乙字湯 針砂湯 濁浪湯 弄玉湯

灸 長強 八