淋 病 

 

 是は壮実の人に多し。先ず五淋と云うを諸書に挙げたる内に石淋は小便の中に石の形をなしたる物通ず。歯塩の様なるものなり。大抵血淋と合病す。痛み甚だしく、忍び兼ねて寒熱も有る、或いは絶食にて疲れるも有り。

 血淋は血の内に魚腸の如く凝りたるもの雑下し尿孔を塞ぐ故、痛苦も強く数十日を経て面色青、経月に至れば唇舌青白膈間に悸を生じ、吸呼迫して終に黄胖病になり、淋家の主治にては治せぬも有り。是になるは治しやすく命には拘らず。針砂湯、皇盤丸之を主る。黄胖門を見るべし。黄胖にならぬは連延して死に至るも有り、淋なりと油断すべからず。されども皆元来の虚実に係わる。気厥論に「胞、熱を膀胱に移せば則ち  血と云うもの是なり。乙字湯を用いて再造丸を兼用す。夫れにて治せず、猶血多く疼痛するには如意湯に乱髪霜を多く加えるべし。筋により、黄連阿膠湯中に加えても用ゆ。久来の血淋には猪苓湯も用ゆ。連綿としたるは腎気丸を兼用すべし。

 気淋と云うは血も白濁もなく小便心許りにて通ぜず、瀕数して痛む。是は虚脱の人に多く、又婦人に多し。俗に是を消渇と覚えて居るなり。丙字湯なれども無効は附子を用うべし。疝候を尋ねて疝を治すこと有り。一婦人此の症にて腰痛立つこと能わずに甲字湯を用いて二貼にして全快せしこと有り。

 膏淋と云うは、小便の内に脂の如きもの交わり下り、消渇の便の如くにて通利の後にも猶便心有るは多房・失精家に属す、腎気丸を用ゆべし。痩せて力なく盗汗などするに至れば、水腫を催さんとして大病に至る。又膏淋を病みし人の後に発背せしを二、三人見たりき。苦痛甚だは平臥、起きること能わず小便の痛みにて痔を兼ね病み脱肛などするもの定例なり。甚だしきは肛内腫脹、益々小便を秘渋す。痔門と見合わせて痔を兼ねて治すべし。湯を用いて却って効を取ること有り。赤白膿の如くを下すは常式にて通じんと欲す。時に尿孔に件の膿の如きもの乾着する故、此れを押すように通ずるまでの苦楚甚だし。尿孔中にも腫を催すと看ゆ。又一種嚢の後に核を結び、夫れより脹起し懸癰となるあり。大いに苦しむ疾なり。夫れにならずとも、ここに凝る所なれば心をつけて問うべし。膿を為し口を開くと小便、此の口より通ず。故に瘡口塩気を受けて白ハゼになり数年経ても治せず。病と に老い果てる人もあり。是は其の小便せんとする時に、指にて瘡口をしっかりと押さえて後に通ずれば、傷口にしみず痛みも軽く瘡口も治する。初起の節、慎んで医薬に従えば斯の如きには至らずなり。軽々しく心得て、強歩・房屋・飲酒・食膩を慎まず、経年の病となる。慎まずんば有るべからず、竜胆瀉肝湯なり。又疑いようの強きは五物解毒湯を用ゆることも有り。

 又茎の中ごろなどに、口を発して膿の出るもあり。其の口、腐爛の形なく痔疾の漏を作りたると同形にて、四辺は生肉にて誠に針の穴の如くなり。されども小便、其の穴に泄れる故しみて痛む。又久しくを経ても治しかねるもの多し。壮年の人は存の外、早く自然に癒ゆもあり。何れ生命に障りなし。是も竜胆瀉肝湯、土茯苓を加えることも有り。藤嶋丸・化毒丸を兼用することも有り。夫れならば全く下疳の筋にて治すべし。

 さて淋病を治すもの要は甘草を主となす。痛み甚だしきほど効あり。丙字湯にて五淋共に皆治す。滑石礬石散を兼用すべし。虫積の候も問わずに芟凶湯を用いて甚だ奇効をとる人あり、奇なることなり。久年の淋、並びに腫れを為すものは軽粉丸少々ずつ用ゆべし。総て下疳の丸散運用にまかす。腰部の灸もよし、八 など選用すべし。痛み劇しきに鶏卵に砂糖を入れて飲むを奇方となす。又砂糖斗も飲むとよく通ず。流水に小便すれば痛みの薄らぐは、下の堅からず故なり。癒えて後、猶強歩・力作・梁肉酒を禁ずべし。小便膠濁は淋とは異なれども、心得おかねばならぬことあり。

 邪熱ともに膀胱にあればトロトロと濁る。熱ばかり入れば赤くばかり濁り、五苓散にすべし。殊の外黄色は茵 五苓散の症を尋ねるべし。膠濁は滑石の主治なり、五苓散に加えてもよし。猪苓湯など用ゆべし。又小便餘瀝も淋に似たるものなり。小便通じ切れて後に又少しづつ漏れることなり。清心連子飲に宜し。是は方考には労淋を治すとあり、八味丸も用ゆべし。

 一人淋を患うこと三年頃に至りて、苦楚して気絶せんとす。麺の如くもの尿孔を塞ぎ、紙をかけて引き出せば、三寸許りにて葛切りの如し。其の物出れば小便を下す。丙字湯、礬甘散を兼用して癒ゆ。其の人曰く、某淋を患うこと数年、つきたての温なる餅を食すれば膳も片付けざるにさわる。三日も過ぎたるの少しさわる。二十日余りも経たるは猶更去り、冬のかび餅などは少しもさわらず。又桃花飯を食せば忽ちにさわる。翌日茶湯にてしめし温々食すは終にさわることなし。数年の患い故、度々試みたる所なりと云う。余初めて其の毒も新旧にて優劣有りを知る。況んや薬の陳久なるは其の効なきも知るべきなり。

 

再造散  

  反鼻六銭  鬱金二銭半  白牽牛六銭  皀角子六銭  大黄五銭 

 右五味末と為し、毎服一銭を空心に白湯にて飲み下す。性の多少に随う

 

滑石礬甘散  滑石 礬石各六分  甘草三両

 右三味、散と為し毎服五分日夜三、四。

  竜胆瀉肝湯(方彙) 猪苓湯 黄連解毒湯(以上傷寒論) 軽粉丸(下疳に見ゆ)

  腎気丸(金匱) 丙字湯 如意湯 乙字湯(蔵方)

 

灸 八 腰部脚部