転 胞 

    

 転胞、又胞転とも見ゆ。金匱要略に出たり。八味腎気丸を用う。さて水腫になるは、段々に小便不利になるが此の転胞は俄に閉じる。其の故は膀胱までは小便例の通りに溜まれども、血塊疝 、或いは 血経絡に結滞するもの、尿道に逼り塞がる故に、通じ心は有れども通ぜずなり。譬えば徳利の口をしたるが如し。其の口開かずは小便胞中に満ちて脹痛するほど尿道益々塞がり通ぜず、五、七日にして死に至るも有り。手配早く救うを専努とすべし。

 因って此の病産後に多し。子宮産に困して腫れるや、又子宮下垂して便道に塞て不通になる故、度々見受けたり。洩閉術にて乍ちに通ず。男女ともに此の術にて通ずれども、産後転胞ほどには効無し。金匱の胞系了戻して病むなりと云う。俗医誤り読んで、胞衣帯にて尿道を塞ぐにて妊婦の病と覚ゆる有り。此の転胞は男女共にある病にて、臍下の張り薬の効あるものは薬力内に通徹して 塊の尿道に害する物を、いつもの処へ動かし返すの意なり。飲み込まずのものは、水腫へも張り薬をするは小便の閉じる意味を知らぬなり。  転胞は小便膀胱までは滞りなくめぐり来れども、尿口塞がりて通ぜず、水腫は小便の分利悪くて膀胱までめぐり来らず、膀胱の外にて溜まる故に、一身へ水気廻りて腫満する故、も生きているなり。此れ故に張り薬にては用にたたず。転胞は小便を堪え過ぎ、或いは仆倒し、或いは房中精を洩らさず、或いは高きより堕ちるなどして病つくものなれども、其の因は少腹に疝  血にて絡の張りたる人、加えるに多欲にて下部の虚したる人にあり。是を治するに千金方に韮葉を尿口より差し込む法あれども、紅毛カテーテルと云う器の便利なるに如かず。銀にて造るものなり。此の器なくば、こよりを指し入れるべし。美濃紙を元結びの太さによりて燈火の焔の上にて之を二、三篇温めるようにする。是は紙のよりめより毛羽だちてあるを焼くためなり。煙管などへは、よりはじめの所より指し入れども、尿口へは、より溜めより指し込む。是はよりして逆さはぐれにならす為なり。さて右の紙巻へ琥珀油(若し無ければ鶏子白に換える)を塗り、残す無しにさしこむ。横骨の上のあたりにて了戻するなれば、夫れを衝き越す様にする。存の外痛むなりものなり。カテーテルはここにて吸い出すの勢いある故、是には似もせぬことなり。又韮葉を尿口へ指し込み、人をして向へ一吹きふいて又吸えば利するなり。

 此の筋合い故に薬はおびやかして通ずる権道を専らにす。猪苓・沢瀉の類は筋に違いはなけれども、柔にて件の 塊へ響きをもたす故に、先ず巴豆膏を貼して甘遂丸・平水丸の類にて一時に大便を下す張り合いにて、尿水も開きて通ず。木防已去石膏加茯苓芒硝湯などよし。又虚人には桂枝加苓朮附湯も八味丸を煎服するも見合わせ次第なり。      又塊の円なるは治す。柿の核の如きは不治なり、と云う説あれどもいよいよ然るや否や未だ知らず。一腫少腹鞠の如く丸く張り出すもの有り。是は内損の人にあり。治し悪し。老人は必死なり。一人杭の有る処に尻餅をつき、二陰の間を強く打つに因って腫痛甚だしくて尿道閉塞し、点滴も通ぜず、膏薬蒸薬すれどもいよいよ腫れ出し、小便頻りに満ちて発熱煩渇し、飲食も減じ、百方効無し。七、八日にして死す。是は転胞には非ざれども、尿道を腫れ塞ぎたる故に、便閉じたるは同意にて、転胞も通じつかねば其の死期早きものなり。

 

巴豆膏 

  巴豆五分  田螺肉一銭

 右二味、共に搗き膏と成し、和してととのわし、一寸ばかりに紙を円に切膏を伝え、臍下一寸五分に貼るべし。外に三寸に紙を円切りて蓋に貼るべし。痛み激しき者は尤も験あり。 

 

又方 田螺・麝香少し許りを和し、貼すること巴豆膏の如くす。 

 

平水丸  呉茱萸 硝石 芫花各三両  商陸四両  甘遂一両 右五味糊丸とす。

 

 木防已湯去石膏加茯苓芒硝湯  桂枝加苓朮附湯(以上傷寒論)

 腎気丸(金匱要略)  甘遂丸(蔵方)

 丹田・気海・水分の辺りへ鍼すべし。此の他、絡の脹たらんと覚ゆる所を按じて鍼すべし。