痛 風   鶴 膝 風 

 

 痛むものは風湿に属すこと古来の説なり。故に痛風は治療に発散の意を帯びて方組あるなり。金匱に歴節とあり、此の病、湿には属すれども 血のある人の疾なり。手足共に痛みあり。又片手片足、或いは手ばかり、或いは足ばかり痛むもあり。是は軽き証なり。甚だしきは寒熱もあり、腫れをなし赤く色どる。先ずは骨節にて痛む。例えば腕節にて痛むものは後に肘節肩に移りて痛む。又移らずに痛むもあり。其の移るを歴節風と云う。甚だ痛んで忍ぶべからずものを白虎歴節と云う。甚だしきは転側すること能わず。手も近づくべからず。とかく節々の動揺する所にて痛む故なり。他証と混ずることなし。少し動作しても骨節の揺らぎたる所へ痛みを移し苦楚す。桂枝芍薬知母湯を用ゆべし。又膝頭へ痛みを移し腫れるもの有り。大いに畏れるべき証なり。前後の肉痩せて痛苦するは鶴膝風になることあり。是は難治にて廃人になるなり。されども痛風より発するは少なし。脚気と云いて膝ばかり痛むものより発するもの多し。六物附子を烏頭に代えて用ゆべし。又膝ツグラと云うもの、膝頭を強く痛んで膝蓋の左右に膿を催す。此の病、早く鍼して血汁を出すことあり。膝辺を按じて心に深く是を求むれば、自然に水勢手に応ずるものなり。是を刺して膏の如きの水を出せば立ちどころに治す。三日程の間にあり。此の度を失せば終身禹歩す。方書膝蓋風と云うもの、膝ツグラならん。痛風に似たり。痛風の因は枯血ゆえに、其の人皆痩せて手足ともに冷え、或いは瘡疥を発せず、灸痕など立ちどころに治して膿をなさず。又其の人色黒き方の人に多し。以上皆乾血による故なり。大防風湯、又は桂枝加苓朮附湯。婦人は経閉するもの多し。甲字加附子湯なり。温泉の効あり。常に脚攣急などの証あるは、腹部に其の因ありて積聚の有り。方より引っ張るものなり。委中の刺絡の効あり。世に痛風の妙薬と云うもの多し。医の薬にては治せぬと俗人の唱えるは、其の中的を得ざる故なり。此の病、破血を以て温散を主とせば、治せずと云うこと無し。又一種項背強痛して顧★することならぬ人あり。葛根加附子なり。此の中に吐血したる人を時々見たり。されどもなしに故と云う。証候を未だ詳にせず。医書に手ばかり痛むを★痛門を立て、脚ばかり痛むを脚気門を立てれども、先ずは痛風に属すると、黴毒に属するもの多し。認めること勿れ。寒気の時節よりは、暑に発するもの多し。諸痛は湿に属すること古来の説なり。★★★★★★。其の重き証は烏頭に非ざれば治せず、俗に年肘(としうで)、又は長命痛と云うは疝に属す。捨て置きて癒ゆ(止むことなくんば疝を治す薬にて附子を加えて用ゆべし)。下疳を病みて後、骨節疼するもの痛風に似たり。是は軽粉丸、生々乳の類に非ざれば治せず。混すること勿れ。

 一農人十八、九歳。嘗て陰頭に瘡を発し、膿汁を出して治す。後半年許り過ぎて左膝腫痛す。杖にて大小便に行くに、痛み忍ぶべからず。外踝に腫をなし痛みを移す。更に起臥することならず、傍人皆おもへらく黴毒なりと、かさねて黴を治すの売薬を服す二廻り。口中破れず毒益々甚だし。更に服せんとするに、其の父疑いを生じて是黴か如何と云うを知らずに服するは危なしとて余に診を乞う。かさねて其の補と人を見るに、黒痩して乾血の人なり。加えるに実の野人にて花柳に耽るべき様に非ず。竊に詰るに伊勢参に出たる時、に至りき夫れは二年以前にて瘡を発せしは四、五ヶ月以前のことなり。且つ伝薬もせずに治したりけると★★前より寒熱して飲食を欲せず、終日粥三、四口を食す。脚を見るに左膝頭踝の前後腫れて赤を帯ぶ。是痛風なりとす。桂枝加苓朮附湯を与えて十日ばかり飲食益々減ず。脈細数、煩渇、かさねて桂枝芍薬知母湯中附子を去り烏頭を加えて小験を得たり。連服数十日にて治す。

 金街の買人、常に遠きに出て商す。夏月洪水に逢いて日々水中を渡る。家に帰りて脚心痛む。後踝骨を痛み、微腫を帯ぶ。医者、脚気となし之を治すも効無し。余に乞う、脈弦洪にて数なり。其の人肥えて色白し、乾血の人に非ず。されども是痛風なりと云えども家人信じず、両脚痛んで手にてばかり其の身を進退する故、痛みを両臂と両肩へ移し腫れを為し、肘を動かすこと能わず。余曰く、脚気豈に肩にて痛まんや。初めて余が言に服す。大防風湯加烏頭にて二十日許りにて治す。

 鶴膝風は至って治し悪し。廃人になるもの多し。早く鍼して悪汁を去るべし。又焼酎にて蒸す。鍼は外科の上手に任すべし。膝頭を按ずれば、悪汁の有るは指下に響きて自然に水勢あり。鍼は膝内辺より入るるなり。悪汁を取りても歩行なりかぬるもの有れども、悪汁を取らずに廃人になる故、悪汁を取るを正法とす。万一に全快を望むべし。焼酎にて日々蒸す。又濁酒、未だ漉さざるモロミへ生牛膝根を加え煮て、布に包みて日々蒸し、且つ服すべし。 

 

 桂枝加附子湯 桂枝加苓朮附湯 葛根湯加附子 桂枝芍薬知母湯(甚だしきは烏頭に非ざれば効なし 傷寒論) 六物附子湯(是は脚気を主とす 方彙)  鼈甲湯(積聚に見る)  甲字湯(蔵方)

 

或人、痛風、疝気を治するの奇方を三河の新城の人に得て余に伝う。未だ試さずとも折り柄故に記す。

  柴胡  桂枝  防風  羌活  香附子  芍薬  生地黄 

 右七味、水一合、酒五芍を以て煮て一合を取り、分服す。

蚯蚓油  蚯蚓(十条) 焼酎に漬すこと一日夜、泥を去り、麻油一合、七分に煎じ滓を去り痛処に塗る。

蝸牛油  蝸牛(殻を去り、十五箇)麻油一合に入れ、七、八分に煎じ、痛処に塗る。二油合わし塗れば益々良し。