増補薬能

 

〈引用図書・文献〉

増補:増補能毒(一六五二)長沢道寿

薬選:一本堂薬選(一七三八)香川修庵

六八:増補片玉六八本草(一七八〇)加藤謙斎

 :薬徴(一七九四)吉益東洞

提要:薬性提要(一八〇七)多紀桂山(訂補薬性提要:山本高明)

 :古方薬品考(一八四一)内藤尚賢

重徴:重校薬徴(一八五三)尾台榕堂

 :古方薬議(一八六三)浅田宗伯

養生:漢方養生談(一九六四)荒木正胤

漢薬:漢薬の臨床応用(一九七四)神戸中医学研究会

中薬:中薬大辞典(一九八五)上海科学技術出版社

長沢:漢方薬物学入門(一九九三)長城書店

壷中:著者不明

 

 

阿 膠  

増補  「味甘く温。手の太陰肺、足の厥陰肝、足の少陰腎の三経に入る。虚労し極めたる人、そぞろ寒く瘧の如く煩い腰腹痛むに、鼻血に、吐血 に、淋病に血をするに、走り痔に、痢疾に」。私曰く、この諸の能、虚証なくは用うべからず。殊更痢病には日久くなりて止むべきと思う時使うべし。「虚労のシワブキに、喘息に、肺痿膿血を吐くに、虚労して痩せたる人、足痺れて久しく立つ事かなわざるに、女人の血の痛みに、血枯れて崩漏し、白血長血を煩うに、肺熱をさまし、乾きを潤し、陰血を補い、大腸を調う」。私曰く、この薬の目付けは、虚労の人、気血の減り下りつくるを治し、淋病にてもあれ、痢病にてもあれ、吐血鼻血の類にてもあれ、血漏れて止まり難きを止まると心得て使うべし。この如く血の乱れ気のちり行なうを止める薬は大体酸き味にて無理におし止まる類のみなり。この故に事によりて用い難し。この薬、血の枯れたるをよく補い、熱気をさまし、潤いを生じ、虚労極めたる人に殊更よし。本文に気の方とはなけれども気の散りゆく人に用いる事、なお口伝を聞くべし。

   (毒)「虚労の人にてなくば用いるべからず。病を補い止める故なり」。

薬選  吐血、下血、衄血、溺血、崩漏、血下、?嗽、唾血、虚労羸痩を療ず。胎を安じ、燥を潤す、諸淋熱痛。

   諸血証を主治す。故に心煩して眠るを得ず者を兼治する。

提要  甘。平。血を和し、陰を補い、喘嗽を定し、小腸を利する。

   味淡甘にして専ら補益を主る。故に虚労虚煩、及び下血・吐血・血虚等を療ず。

議   味甘平。内崩・下血・腹腰痛・四肢酸疼・虚労羸痩・咳嗽を主る。血を和し、陰を滋し、風を除き、燥を潤し、痰を化し、小便を利し、大腸を調う。

養生  血毒症に用い、血を和し、陰を補い、喘咳を定め、小腸を利す。

中薬  陰を滋し血を補う、胎を安らかにする、の効能がある。血虚、過労による咳、吐血、鼻出血、便血、婦女の月経不順、子宮の不正大量出血、胎漏を治す。   

    

葦 茎 

考   性順降。故に能く肺気を清くし、水満を療ず。

議   味甘寒。霍乱嘔逆、肺癰・煩熱・癰疽を主る。

養生  膿を排し、熱をとり、小便を利す。

 

郁 李 仁 

増補  「酸く平なり。手の陽明大腸に入る。太陽の結気に」。私曰く、陰に属して降ることを主る。大腸を潤し気を下すぞ。この故に大便通ぜざるを下すぞ。「四肢浮腫するに」。私曰く、水を利する功あるに依りてなり。

    (毒)「虚弱なるものに」。私曰く、能く大便のつかえたるを下し、五臓の真気をすかすものなる故に虚人には用いぬぞ。

    

威 霊 仙 

増補  「苦く温なり。十二経に入る。丹渓曰く、肝の臓に於いて功多きぞ。痛風を治する要薬なり。腹内の冷滞に」。私曰く、薬性好んで走り、寒冷 の気を温散する故ぞ。「心胸の痰水に」。私曰く、この薬能く湿を導く故にこの如く云うたぞ。両足腫れるを治すと云うもこの意ぞ。兼ねて積塊をも療ずるなり。

    (毒)「水湿痰積なきものに」。私曰く、この薬を用いるに、病癒えばすみやかに去るべし。久しく用いれば五臓の気をすかし真気を洩らす多く、用いられぬ薬なり。

提要  辛鹹温。気を行らし風を去り、五臓を宣通す。

中薬  風湿を去る、経絡を通ず、痰涎を消す、癖積を散らす、の効能がある。痛風、頑痺、腰膝冷痛、脚気、マラリア、、積聚、破傷風、扁桃炎、諸骨のノドにさったものを治す。

    

茵 陳 蒿

増補  「苦く微に寒なり」。私曰く、この薬の苦きは湿を燥かし、微寒は熱を治する故に、専ら黄疸に使うなり。「小便利せざるに」。私曰く、湿熱を治する意と同じ物ぞ。「傷寒熱甚だしくして発黄するに」。私曰く、茵梔子大黄湯の類、何れも湿熱を治するとさえ目付けすれば違わぬぞ。

六八  湿熱、黄疸を主り、小腸を利し、関節を通ず。

薬選  諸黄疸を療ず。必ず用いるの薬なり。

   発黄を主治するなり。

   味苦平。熱結、黄疸、小便不利を主り、伏を去る。

提要  苦。寒。湿熱を除き、黄疸を治す聖薬と為す。

   気味苦く辛く芳散。故に其の能、湿満を瀉し、専ら黄疸の鬱熱を除く。

重徴  発黄、小便不利を主るなり。

養生  黄疸を主治し、小便を利し、湿熱をとる。

 

茴 香 

増補  「味辛く苦く平。諸痿に、霍乱して胃の間の冷気に、肺気にも寒熱を見分けて使うべし。熱には嫌うたり、疝気に」。私曰く、必ず用いる薬な り。「陰の痛みに、胃を開き、気を下し、命門の不足を補い、丹田を温める」。私曰く、この薬は命門を温める要薬なる程に疝気とさえ云えば用うべし。七疝の煩い、丹渓などは熱と云うぞ。素問には皆寒と云えり。ただ丹渓は根本を陳べて世俗の誤りを弁えるぞ。素問には標を云うなり。とにかく初めて発るときは、まず温めねばならぬぞ。この故にこの薬は必ず用いるなり。また何処にてもあれ一身の内に冷気あって痛むには用うべし。この二つを目付けとす。

   (毒)「真陰の水、衰えたる人に」。ただ一両服さば飲むべし。多服すべからず。

 

鬱 金 

提要  辛苦。寒。心熱を涼しく、肝鬱を散じ、血を破り気を下す。

 

烏 頭  

提要  味功附子に同じ。而して専ら心腹寒湿を主り冷痰を逐ふ。

考   気味辛辣大熱、故に裏中を速走し寒淫を逐い疝痛を温導するの能有り。

議   味辛温。寒湿痺を除き、積聚を破り、胸上の痰冷、食下らず、心腹冷疾、臍間痛、肩胛痛み俛仰すべからざるを消す。

壷中  現在の市場品の烏頭はトリカブトの根をそのまま乾燥したもの、となっているが、実際は少しばかり加熱減毒加工している。そんなに恐ろしい物ではない。煎じる時間が少ないと中毒の恐れがあるので、50〜60分煎じるのが望ましい。極端な陰虚証の冷え・痛みには大量に用いなければ効き難し。

 

烏 梅  

提要  酸渋。温。腸をり肺を歛め、津を生じ、虫を殺す。

   味酸平。気を下し、熱を除き、下痢、口乾を止め、痰を去り、渇、吐逆、蛔厥を止むを主る。

 

烏 薬 

増補  「味辛く温なり。手の太陰肺、足の太陰脾の二経に入る。気を廻らし脾胃を補い腎冷を治す。猫の病を治す」。私云う、この薬は本草に諸能多く載せたれども、今用いる所は気を廻らすより外他事無し。とにかくにも順気の薬なり。故に中風の方の中に離さず用いる薬なり。尚口伝。

    (毒)「腎熱有る人には」。

薬  気を順わせる、鬱を開く、寒を散らす、止痛する、の効能がある。気の逆上による胸腹の脹痛、宿食不消化、反胃で食物を吐く、寒疝、脚 気、小便頻繁などを治す。気虚の場合はすべて順気することができない。ただし血虚で鬱滞を帯びる場合は烏薬を用いてよい。(本草新編) 烏薬の効能は木香・香附子と同一のものであるが、木香は苦温で、脾に入り滞りを爽すので、食積に用いるとよい。香附子は辛苦で、肝・胆の二経に入り、鬱を開き結を散らすので、優鬱に妙効がある。烏薬は邪に逆らい胸を横ぎり、達しないところがないので、胸腹で邪に逆らう要薬として用いられる。(本草求真)

 

禹 餘 糧 

提要  甘。平。下焦を固め、洩利を止め、血閉を治す。

   味甘寒。煩満、赤白を下し、少腹痛、崩中を主り、大腸を固む。

中薬  腸を渋らせ止血する効能がある。長いあいだ治らない下痢、女性の崩漏、帯下、痔漏を治す。

 

延 胡 索 

増補  「苦く辛く温なり。手の太陰肺、足の太陰脾、手の厥陰心胞絡、足の厥陰肝の四経に入る。月水調わらずに、産後の疾に」。私曰く、この薬は血中の気滞、気中の血滞をめぐらすなり。このゆえに婦人産後の諸症にはおおかた用いるぞ。「血に因りて痛みを作すに」。私曰く、一切血に依りて身痛には有無に用いるぞ。薬、腹中におさまって痛みそのまま止むものぞ。「腹痛に」。私曰く、冷物にて腹痛に必ず用いるの薬ぞ。

    (毒)「腹中気血怯弱なるものに」。

中薬  血を活かす、?を散らす、気を理える、鎮痛する、の効能がある。心、腹、腰、膝の諸痛、月経不順、、崩中、産後血暈、悪露の持続、打撲傷などを治す。

    

鉛 丹 

提要  辛。微に寒。心を鎮め、驚を定め、熱を解し、痰を墜し、積を消し、虫を殺す。

考   其の性大寒。体重く鎮墜。故に能く驚気を定め、心煩を止む。

   味辛寒。痰を墜し、怯を去り、積を消し、虫を殺し、驚癇、瘧痢を治す。外用して熱を解し、毒を抜き、?を去り、肉を長ず。熬膏必要の薬な り。

壷中  現在は使用しない。

 

黄 耆 

増補  「味甘く微温。手の太陰肺経、足の太陰脾経に入る。肺気を補い皮膚を強くす」。私云う、黄耆は大略人参の能に煮たり。皮膚を厚くする所に心を付けて使うべし。「自汗、盗汗に必ず用ゆ。皮膚の熱気を去る」。私云う、皮膚の熱気にも虚したる人には用ゆ、強き人には用いず。「風をひきやすき人に瘡膿出でて後に用いれば肉を生ず。虚してシワブキし喘息するに、咽の乾くに」。私曰く、人参の口伝の如し。「虚して耳鳴りに」。私曰く、内経曰く、耳鳴り九竅通ぜざるは腸胃の生ずる所とある心ぞ。是を見れば人参と大略能 毒同じものなれども、少し変わることあり。腎虚にも人参ほどは忌まずなり。但し王綸と云う人は黄耆をも人参の如く火動の病には忌よたぞ。

    (毒)「自汗・盗汗ありとも寸脈強くして胸苦しきには」。私曰く、丹渓が療治をみれば、胸に気のつかえてあるものに人参より強く嫌うたぞ。

薬選  痘瘡を療じ、内托、助発して津を行す。癰疽、久敗瘡、膿を排す。

   肌表の水を主るなり。故に能く黄汗、盗汗、皮水を治す。又傍ら身体腫れ、或いは不仁なる者を治す。

   気味甘く、温芳達。故に専ら虚を補い、元気を益し、衛分を固実す。桂枝の発表と同じく用ゆるときは則ち能く表に達す。以て黄汗、白汗、盗汗を治す。

重徴  肌表の水を主治す。故に皮水、黄汗、盗汗、身体腫れ、不仁を治す。兼ねて疼痛、小便不利を治す。

議   味甘く微に温。膿を排し、痛を止め、肉を長じ血を補い、渇、腹痛を止め、虚労自汗を治し、肌熱及び諸経の痛を去る。

養生  肌表の水毒をとる。皮膚の水泡、麻痺、疼痛をとり、元気をまし、黄汗を治す。

中薬  新鮮なものを用いる場合は、衛を益し表を固める、水を利し腫れを消す、毒を托びさる、肌を生じる、の効能があり、自汗、盗汗、血痺、乳 腫、つぶれていないかあるいはつぶれてから長く固まらない癰疽を治す。

 

黄 ?

増補  「味苦寒。手の太陰肺経、手の陽明大腸経、足の太陽膀胱経、足の少陽胆経、手の太陰脾経の剤なり。上焦の熱気に、シワブキし喘息するに」。私云う、肺熱のシワブキ喘息にはよし。寒より発りたるには必ず用いず。「寒熱往来するに、上気し目腫れ痛むに、熱毒に」。熱毒とは熱気より発りたる瘡などの事ぞ。「諸熱の黄疸に、熱より発りたる頭痛に、熱のしぼり腹に」。私云う、必ず用う。「熱の淋病に、鼻血に、下血に、産前に腹中安ぜずして子騒ぐに」。私曰く、必ず白朮を加える。尚口伝あり。「産後の熱気に」。私曰く、人によりて斟酌すべし。私の口伝に曰く、この薬は上焦の熱気を能くさまし、肺の臓、大腸の熱を去ると心得れば使われるぞ。理慶曰く、熱気をさますに表にあらば汗し、裏にあらば下すべし。下しもせられず汗もならず唯熱気をさまさんと思う時は黄を必ず用うべし。亦苦く寒なる故に老虚の人腹中衰えたるには酒にて炒りて猶よし。亦湿熱によし。そうじて苦寒の薬は湿熱によしと心得るべし。 

    (毒)「寸口の脈沈細にして身冷えシワブキするに」。私曰く、とにかく冷えたる煩いには毒と心得るべし。

薬選  諸熱、傷風時疫の大熱、潮熱、膚熱燎くが如く、胃熱口瘡爛痛、牙疼、嗽、吐血、衄血、下血、血淋熱痛、痢疾腹痛、瘧熱、熱渇、目中 腫赤、翳膜、小腹絞痛を療じ、胎を安じ、喉腥、胸中を利す。

   心下痞を治すなり。傍ら胸脇満、嘔吐、下利を治するなり。

提要  苦。平。火を瀉し、湿を除き、黄を去り、熱利を止める。

   気味苦く寒。故に其れ能く実熱を清涼し、膀胱を通利し、以て不利を治す。

重徴  心下痞を主治す。兼て胸脇苦満、心煩、煩熱下利を治するなり。       

   味苦辛。諸熱、黄疸、洩痢を主り、小腸を利し、擁気を破る。

養生  心下の痞えを主治する。熱を瀉し、湿をとり、胸中の悸、下痢、発黄を治す。

中薬  実火を瀉ぎだす、湿熱を除く、止血する、胎を安らげる、の効能がある。壮熱に よる煩渇、肺熱咳嗽、湿熱による瀉痢、黄疸、熱淋、吐き 気、鼻出血、子宮出血、 精液が自然に漏れるもの、目が赤く腫れ痛むもの、胎動不安、癰腫疔瘡を治す。

 

黄 土 

   其の体重く、性にして沈墜す。故に能く逆気を降し、専ら吐血、下血、及び諸妄血を治す。

提要  辛。温。中を調え、血を止め、湿を去り、腫を消し、嘔吐、逆を治す。

議   味微温。逆、吐血、鼻洪、腸風、帯下、尿血を主治す。

養生  中焦をととのえて血をとどめ、湿をとり、嘔吐を治す。

壷中  かまどの内側の土なり。

 

黄 蘗  

増補  「味苦く寒。足の少陰腎、足の太陽膀胱の二経に入る。五臓腸胃の内の結ぼおれ、熱に、黄疸に、血混じりたるしぼり腹に、熱のあるサワリに、走り痔に、白血・長血に、悪虫を殺す」。私云う、右の病証皆湿熱なり。「皮膚熱して赤くなるに、目の熱して赤く痛むに、諸瘡の痛みに、骨蒸労熱に」。私曰く、是皆相火の証なり。按ずるに、この薬は腎・膀胱の熱を瀉し、脾胃の湿熱を除く妙剤なり。この性を考え使うべし。他流には多く用いず、丹渓流には必ず用いる薬なり。また四物湯に知母・黄蘗を加えて補陰の神薬なり、丹渓が方なり。委しくは口伝。

    (毒)「四物湯に知母黄蘗を加えて久しく服すれば胃を破りて陰を生ずる事能わず」。私云う、是誠に用薬の手本なり。そうじて補陰の薬は脾 胃にたたるべし。脾胃衰えては補陰の薬を服しても益なきのみに非ず。またかえって損を加える。委しくは口伝。

薬選  蟲を殺し、腸胃の結熱、熱痢、目熱赤腫を療ず。

提要  苦。寒。火を降し、熱を清め、湿を去り、黄を除き、腎燥を潤す。

   気味極めて苦く、寒降。以て皮間の鬱熱・黄疸を治し、二腸中の結熱を除く。

   味苦寒。結熱黄疸を去り、洩痢を止め、蛔心痛、鼻洪、腸風、瀉血を治す。

養生  胃の湿熱を取り、黄疸を治す。

中薬  清熱する、湿を燥かす、火を瀉ぎだす、解毒する、の効能がある。暑さによる下痢、単純性下痢、糖尿病、黄疸、下半身麻痺、夢精、遺精、淋濁、痔瘡、便血、赤白帯下、骨蒸労熱、目赤腫痛、口の中や舌にできる瘡、瘡瘍腫毒を治す。

 

王 不 留 行 

増補  「苦く甘く平なり。陽明胃経に入る。乳汁を通ず」。私曰く、此の薬、能く血分に走って血脈を通ずる故なり。「金瘡に、血を止め痛みを逐う」。私曰く、血を主るに依りてなり。

牧野  ドウカンソウの種子。中国では臨床的に王不留行を主剤とした処方を乳汁欠乏症の婦人に投与し有効であったことが報告されている。王不留行は催乳、通経、止血、鎮痛薬として婦人の乳汁不通、難産、月経不順、乳癰、各種のでき物に用いられる。(原色牧野和漢薬草大図鑑)

 

黄 連 

増補  「味苦く寒。手の少陰心経に入る。熱気の目の痛みに、涙出るに、熱の痢病に」。私云う、初めて熱痢を病むには大略用ゆ。但し虚証ならば嫌なり。「口中の瘡に」。私云う、心熱を去る故に口の瘡とは雖も、上焦の瘡には何処にもあれ黄連・黄は用いる薬なり。「熱の疳に」。按ずるにこの薬は能毒性味、大体黄と同じ。但行く所が違う。黄は肺・大腸の薬、黄連は専ら心熱をさますなり。また脾熱をもさます故なり。

    (毒)「虚冷の泄瀉に。冷えて痩せたる小児の疳に」。

薬選  天行熱病、協熱泄、痢疾、噤口痢、暴発赤眼、皆傷、爛弦、泣出、傷風寒結胸を療ず。蟲を殺し、吐を治す、小児の鬱熱を解し、痞気、 腹痛を止む。    

徴   心中煩悸を主るなり。傍ら心下痞、吐下、腹中痛を治す。

提要  苦。寒。心に入り火を瀉す。肝を鎮め血を涼ず。湿熱を清し鬱を散ず。

   味極めて苦く寒降。故に其れ能く血熱に勝ち、心臓の実火を瀉し、以て譫語、煩乱、吐血衄血を治す。

重徴  心中煩悸を主り、兼て心下痞、吐下、腹中痛を治す。

   味苦寒。熱気、腸、腹痛、下痢、煩躁を主り、血を止め、口瘡を療ず。

養生  胸中の煩悸を主治する。精神の不安を鎮め、熱を瀉し、充血を取り、心下のつかえ、下痢を治す。

中薬  火を瀉ぎだす、湿を乾かす、解毒する、殺虫する、の効能がある。流行性熱病、腸チフス、熱が高く煩悶を覚える病気、痞満嘔逆、細菌性 下痢、有熱性下痢および腹痛、肺結核、嘔吐、鼻出血、下血、消渇、疳積、回虫症、百日咳、咽喉腫痛、火眼(目の充血および炎症)、口瘡(口内炎)、癰疽瘡、湿疹、やけどを治す。

 

遠 志 

増補  「味苦く温。手の少陰心、足の少陰腎の二経に入る。心気を定む。物驚き、胸騒ぎするに、よく物忘れするに、腎虚して小便繁きに、精の洩れやすきに」。私曰く、腎は右腎の火を補うなり。左腎の水を益すには非ず。また精の洩るること、腎虚のみに限らず、神気の定まらざるより生ずるもあり、痰より生ずるもあり、遺精の洩るるを治するとあれども、なお心気の偏り発りたるを主ると心得るべし。口伝。

中薬  神を安らかにし智を益す、去痰する、鬱を解く、の効能がある。驚悸、健忘、夢精、不眠、咳嗽多痰、癰疽などを治す。

 

槐 花  

増補  「苦く酸く寒なり。手の少陰心、足の厥陰肝経に入り、兼ねて下も大腸に入る。五心煩熱に」。私曰く、槐実苦きは能く心火を降し、酸きは肝の邪を討つ故ぞ。「腸風・五痔に」。私曰く、大腸に入りて熱を除く故なり。「婦人崩中漏下に」。私曰く、崩中漏下の症は大抵血熱に属す。心は血を主り、肝は血を納める。槐実は能く心経に入りて、火を瀉し血を清くし、肝に入りて相火を瀉し血を本位に帰らしむ故に、崩漏は槐実を得て自ずから癒えるぞ。「熱瘡に、痛み甚だしきに」。私曰く、熱瘡に用いるは寒なる故ぞ。痛みはもと火より生ずるぞ。味わい酸きは火を制するなり。故に痛み甚だしきに用うると云うたぞ。

    (毒)「妊娠の婦人に」。私曰く、胎を堕とす故なり。

 

 

提要  鹹。寒。血を散じ、筋骨を続け、また漆瘡に塗りて良し。

壷中  うるしかぶれにはサワガニを潰して汁を塗布する。サワガニにはジストマがいることが多いので、傷があれば注意すること。

    

海 藻 

   味鹹く性滑滋。故に能く結気を下し、小便を利し、畜水を泄して、以て浮腫等を除く。

議   味苦寒。結気を破散し、十二の水腫を下す。之を常食すれば男子の疾を消す。

提要  鹹。寒。痰飲を化し、禿瘤を消し、湿を除き、水を利す。

 

薤 白  

   心胸痛んで喘息、咳唾するを主治するなり。傍ら背痛、心中痞を治す。

提要  辛苦。温。胸膈を利し、滞を泄らし、陽を助ける。

   味辛く甘く性大温。故に能く腸胃を温導して、以て結毒を散じるなり。

重徴  胸痺、胸背痛を主治す。兼ねて喘息、咳唾を治す。

議   味辛温。中を温め、結を散じ、水気を去り、久痢を止め、気滞を泄らし、心病之を食すに宜し。

養生  胸背の痛みを主治し、喘息、咳唾も治す。

 

艾 葉

提要  苦辛。温。気血を理し、寒湿を逐い、子宮を煖める。

   気味苦く収斂にして芳達なり。故に痢を療じ、妄血を止めるの能あり。

   味苦温。下痢、吐血、婦人漏血、帯下を主り、腹痛を止め、百病を灸す。

養生  気血をととのえ、出血を止む。

中薬  気血を理える、寒湿を逐いやる、経を温める、止血する、胎児を安らげる、の効能がある。腹部の冷えによる痛み、泄瀉転筋、慢性下痢、 吐血鼻出血、下血、月経不順、崩漏、帯下、胎動不安、癰瘍、疥癬を治す。

壷中  冬期における乾燥肌には浴剤として使用する。ただし赤腫するものには不可。高齢者の乾燥肌には特に有効。

 

夏 枯 草  

提要  辛苦。微寒。肝火を緩め、内熱を解し、禿を消し、目を明らかにす。

養生  瘰癧を主治し、内熱を瀉す。

中薬  肝を清める、結を散らす、の効能がある。瘰癧、禿瘤、急性乳腺炎、乳癌、目珠夜痛、羞明流涙、頭目眩暈、口眼歪斜、筋骨疼痛、肺結 核、急性黄疸型伝染性肝炎、血崩、帯下を治す。

 

訶 子 

増補  「味苦く平。赤白痢の久しく止まり難きに」。私曰く、久しく癒え難きとは、早く止まるほか、すべきようなき時分を云うなり。「泄瀉に」。私曰く、泄瀉といえども急に止めぬ習いなるによりて此の如く云えり。「痰を消し気を下す、久嗽に咽の内利せざるに、吐逆に」。私曰く、此の薬の用いようはただ二つなり。泄痢の久しく止まり難きと、咳嗽の久しく癒えざるとばかりなり。此の故、如何となれば、よく脾胃を調えて物を渋らすによってなり。尚口伝を聞くべし。渋らして気を下し、虚を補う功を兼ねたるによって一段重宝ぞ。先師の曰く、泄瀉には先ず小便通利の薬を四、五服ものませて止めるべし、止まらずは訶子を用うるべし。此の教えの如くならば、あまり日数を待つべからず。

    (毒)「久しからざる泄瀉痢に、同じく咳嗽に」。

 

何 首 烏

中薬  肝を補う、腎を益す、血を養う、風を去る、の効能がある。肝腎の陰、髪が早く白くなるもの、貧血による目眩、腰、膝の弱まり、筋骨のだるい痛み、遺精、大量の子宮出血、崩帶、慢性マラリア、慢性下痢症、慢性肝炎、癰腫、瘰癧、腸風、痔疾を治す。

 

莪 朮 

増補  「味苦く辛く温。手の太陰肺、足の太陰脾の二経に入る。虫積に」。私云う、虫とさえ知れば当流にも先ず用いる薬なり。積にも色々あれども何積にも先ず先ず用いる薬なり。本薬の内に加えて用いるなり。但し人により病によるべければ、かねてより申し難し。「月水の通ぜざるに」。私云う、虚証の人には嫌なり。但し佐使に寄るべし。「婦人の積・?血に」。私云う、?血をば死血とも云う。血の久しく塊りてあるを云うなり。と云うも積の名なり。委しくは積聚門にて申すべし。胃を開き食を消すと知るべし。それが目付けぞ。

    (毒)「血虚・胃虚の人に」。

薬選  一切の、腹塊、痃癖、疝痞、気妨、結滞を療じ、鬱塞を通ず。心腹痛、傷食、吐瀉、吐酸、食飲消せず、胃を開き、食を進む。

    

? 香 

増補  「味甘く辛く温。脾胃の吐逆に」。私曰く、脾胃の二字に心あり。胸膈の内、熱気甚だしくして吐逆するには必ず用いるなり。「霍乱心痛に、風水の毒腫に」。私曰く、毒腫とは大事のかさを云うなり。「衛気を補い、食を進む」。私曰く、この薬は脾胃を温め、補いは少なし。発散の心ありと心得ればすむなり。理慶などは吐逆の外にはさして用いられることなし。脾胃の吐逆には奇妙の薬なり。また古方をみれば発散の薬に専ら用いたぞ。香正気散、是なり。気を順する方の内にも入れたぞ。烏薬順気散にあり。また脾胃を補う方の内にも多く入れたぞ。銭氏白朮散の類なり。この心を以て他流には多く用いる薬なり。当流にはそれほど好まぬなり。吐逆のほか、傷食を兼たる傷寒には必ず用うべし。口伝あり。とにかく手足の陽明の経へ行くなり。

    (毒)「脾胃の実熱あるには」。

中薬  気を快くする、中を和ませる、穢を辟ける、湿を去る、の効能がある。暑さと多湿による感冒、寒さを受けての熱、頭痛、胸 部が痞し悶えるもの、嘔吐泄瀉、マラリア、痢疾、口臭を治す。

 

葛 根 

増補  「味甘く微寒。手の陽明大腸、足の陽明胃の二経に入る。傷寒・中風の頭痛に」。私曰く、太陽の初発には忌むなり。口伝を聞くべし。是を 思う時は、傷寒の初発には香葛湯はすかす方なり。「肌を解し表を発し汗を出す。痘疹出難きに」。私曰く、痘疹は陽明にかかる、其の上発表の力ある故に必ず用う。但し自汗出て虚冷の小児には忌むなり。「消渇身熱するに。胸中煩熱するに。酒毒を消す。胃を開き、また食を下す。往来の温瘧に」。私曰く、これは胃中の熱気を去りて津液を生ずる能ある故なり。胃の気虚して咽乾く人に必ず用うべし。按ずるに、この薬は三つの能あり。一つには邪気の陽明の経にあるを発散す。二つには胃虚して津液なきを潤す。三つには陽明の引経の薬なり。この目付けにて使うべし。

    (毒)「脈沈細にして自汗あるに多く用いれば胃の気を損ず」。私云う、この薬の胃に功ある事は熱邪を去り津液を生ずるによってなり。熱去らば去るべし。久しく服すれば表を発し下気の剤なり。必ず胃の気を破るべし。

   項背強を主治するなり。傍ら喘して汗出るを治する。

提要  甘。平。肌を解し熱を退け、津を生じ渇を止め、嘔を収め毒を解す。

   気味苦く甘く微に収。其の質潤通涼降。故に能く鬱熱を清瀉し、胃中を調和す。乃ち之を桂枝の発表を以てするときは則ち項背強急の陽分を療ず。葛根湯、桂枝加葛根湯の類、是なり。或いは之を合するに連の涼降を以てするときは則ち下利喘逆等の裏分を治す。葛根連湯の所以なり項背強急を言わずなり。

重徴  項背強急を主治するなり。兼ねて喘して汗出るを治す。

   味甘平。大熱を主り、肌を解し、理を開き、津液を生じ、筋脈を舒ず。

養生  項背の強急を主治し、表位にある熱毒をしりぞけ、渇を止め、体液を生ず。

中薬  陽を昇らせ肌を解く、疹を透らせ瀉を止める、煩を除き止渇する、の効能がある。傷寒で温熱頭痛し項がこわばったもの、煩熱を伴う消渇、泄瀉、痢疾、班疹不透、高血圧症、心絞痛(狭心症)、耳聾(難聴)を治す。

 

滑 石 

   小便不利を主治するなり。傍ら渇を治するなり。

   味甘寒。小便を利し、渇を止め、煩熱、心躁を除く、腸胃中の積聚、寒熱を蕩し、能く五淋を療ず。

提要  熱を瀉し、竅を通じ、小便を利す。

重徴  小便不利を主治す。兼ねて渇を治す。

考   其の体重く、性滑降にして清涼。故に能く尿道を利し、以て留結を通じ、以て淋瀝、小便不利等を治す。

養生  水道をなめらかにして、尿を利し、渇を止め、熱を瀉す。

 

瓜 蒂 

徴   胸中に毒有り、吐せんと欲して吐せざるを主治するなり。

議   味苦寒。水を下し、痰を吐し、黄疸を療じ、脳塞、熱を治す。

提要  苦。寒。痰涎、宿食を吐し、水気を下す。

重徴  胸中に毒有り、吐せんと欲して吐せざる者を主治す。

   其の味苦く辛く澀、毒有り。故に能く膈間の結毒を湧吐するなり。

壷中  現在は産出しない。

 

括 楼 根 

増補  「味苦く甘く寒。肺・心・脾・胃・小腸の五経に入る。消渇して身熱するに、胸中に熱気が溜りて有るに、黄疸に、一身乾いて痒きに、乳の出 ざるに、乳房の腫れたるようにしてネブトなどの熱に」。私曰く、目付けどころは括楼実と同じ。変わる所は、実は強く重し、根は軽く弱し。

    (毒)「上焦の冷えたる人に。実の毒、是に同じ」。

薬選  嗽、身熱、脣乾、口燥、煩渇、腹満、腸胃中の痼熱、瘰癧結核、胃熱口瘡を療じ、腫を消し、乳を通じ、津液を行らし、沸子(アセモ)に撲(ツケル)し、汗爛(アセタダレ)に粉す。   

   渇を主治す。

   味苦寒。消渇、身熱、煩満、大熱を主り、小便の自利を止め、膿を排し、腫毒を消し、津液を行らす。

提要  味苦く微に甘。質涼降滋潤なり。故に津液を生じ、燥渇を潤すの能有り。

養生  虚熱をとり、中焦を潤し、渇を止める。

 

括 楼 実  

増補  「味苦く寒。心・肺・脾・胃・小腸の五経に入る。心肺の乾きをよく潤す。同じく火を下す。口乾くに固まりて出難き痰に」。私曰く、熱より発りたる胸痞とは胸の内痛みもせず、痒くもなけれども、胸塞がりて、えもいわれぬ気味の悪しきを云う。世間の人、胸かくと云う是なり。「瘡の毒を消す」。私曰く、目付けどころは上焦をよく潤し、熱気を去ると心得るべし。油のある故に、殊の外潤すぞ。

   胸痺を主治するなり。傍ら痰飲を治す。

重徴  痰飲を主治す。故に結胸、胸痺、心痛、喘息、咳唾を治す。

   味苦冷。胸痺を主り、心肺を潤し、咽喉を利し、胸膈、鬱熱を去り、痰結を蕩い、嗽を治す要薬と為す。

提要  甘。寒。潤下。胸中の鬱熱を除き、痰を消し、津を生ずる。

   其の滑。味甜く微に苦。其の子、味淡甘微に苦、脂多し。倶に滑沢順降。故に善く胸痺、結胸を療じ、滞気、労倦等を泄す。

養生  胸膈にとどまる水毒を潤下する。

中薬  肺を潤す、痰を化す、結を散らす、腸をなめらかにする、の効能がある。痰熱咳嗽、胸痺、結胸、肺痿咳血、消渇、黄疸、便秘、初期の癰腫を治す。

 

乾 姜  

増補  「味辛く大熱。能毒大略生姜に同じ」。変わるところは大熱にして気を散ずる事甚だし。痰を去るの神薬なり。生姜もまた痰を能く去るなり。産後の熱をさます。口伝。

    (毒)「陰虚火動に。脈実数なるに」。私曰く、辛熱なる故に熱病に忌む。

薬選  泄瀉、乾嘔、嗽を療じ、気を下し、胃を開き、食を進め、血を止め、中を温め、寒冷腹痛、傷食吐瀉、痰を消し、飜胃、宿食を消し、冷気を去る。附子と善く脱せんと欲する気を回す。久虚の痢疾を和す。

    (弁正) 嘔を止め、胃を開き、汗を発するは、互いに(生姜と乾姜)に相通用すべし。而して嘔家は生姜、尤も良なり。元気を挽回し、中を温め、瀉をとむるに至っては、則ち乾姜に非ずんば能くすべからず。何ぞ混同すべきや。

   結滞の水毒を主治するなり。傍ら嘔吐、咳、下痢、厥冷、煩躁、腹痛、胸痛、腰痛を治す。

重徴  結滞の水を主治するなり。故に乾嘔、吐下、厥冷、煩躁、胸痛、腹痛、腰痛、小便不利、自利、咳唾涎沫を治す。

   味辛温。中を温め、血を止め、吐瀉、腹臓冷え、心下寒痞、腰腎中疼冷、夜に小便多きを主る。凡そ病人、虚して冷えるは宜しく之を加え用いるべし。

提要  辛。熱。寒を逐い経を温め、胃を開き、肺気を利し、寒嗽を止める。

   其の味辛く温。以て能く経脈を宜通し寒邪を逐い、胃中を温む。

養生  上迫する水毒を温散する。四肢の厥冷咳逆、嘔吐、眩暈、腰腹の冷感や痛み、小便の自利に効あり。

中薬  中を温め寒を逐いやる、陽を回らし脈を通ずる、の効能がある。心腹が冷痛し、嘔吐し下痢し、四肢冷たく脈は微、寒たい飲み物によって喘咳し、風寒による湿痺があり、陽虚して吐き、鼻出血、下血するもの治す。

壷中  日本薬局方の生姜(乾燥品)は古方では乾姜であり、八百屋で売っているヒネ生姜が古方の生姜である。日本薬局方の生姜は熱薬であるので、陽実証に生姜の代用品として使う場合は分量に注意すべし。(大柴胡湯・越婢湯など)

 

干 漆 

提要  辛。温。毒有り、血を行らし、虫を殺し、年深く凝結の積滞、痞血を破る。

考   其の質大温。故に陽気を益し、諸内傷を療ず。

 

甘 遂 

増補  「苦く寒なり。毒あり。面目浮腫に」。私曰く、腎は水を主る。凝るときは痰となり、溢るるときは腫脹となる。甘遂は腎経の水湿を通利す。是の故に水腫に用いるぞ。直に水気の聚る所に到りて導く。水を泄する聖薬なり。商陸、大戟と功能同じ。殊に水、胸中に結するもの、この薬に非ずんば治すること能わず。大陥湯に甘遂を用いるもこの意ぞ。但毒あるにより多くは用いられぬぞ。「膀胱の伏火に」。私曰く、膀胱に熱をたくわえれば小便赤く渋るものぞ。この薬能く水を通利する故に小便渋らず苦く寒なるは熱を瀉す。是故に膀胱の伏熱に用いたぞ。

    (毒)「大戟・商陸と同じ」。

   利水を主るなり。傍ら掣痛、咳煩、短気、小便難、心下満を治す。

提要  苦寒。毒あり、経墜湿熱を瀉し、水気を攻決す。

考   気味苦く辛く毒あり。故に其の能、水飲を逐い、湿満を蕩滌して、以て心下逆満、水結、腫満等を治す。

重徴  水を通利するを主る。故に結胸、心下満、痛、小腹満、小便難を治す。

議   味苦寒。大腹疝 、腹満、面目浮腫、留飲、宿食、堅、積聚を主り、水穀の道を利す。

 

甘 草 

増補  「味甘く微寒。手の少陰心経、足の太陰脾経に入る。炙れば微温」。私曰く、甘草に限らず何の薬も炙れば温になる事多し。たとえ温に変ぜねども大寒は微寒になるなり。黄・黄連などは常には火を忌めども、老人虚人には寒を恐れて炒りて使う事多し。「百薬の毒を消す」。私曰く、百薬とは諸薬と云う事ぞ。味甘く柔らかなる故に何の毒をも消すなり。この故に当流には甘草を使わぬ事多くは無きぞ。相畏・相悪・相反とて中の悪しき事あり。甘草を入れれば戦わずぞ。是を以て国老の名あり。諸急を緩くす。この故に寒薬に用いれば寒を緩くす、熱薬に用いれば熱を緩くす。「咽の病に、咳嗽に、万の薬を引いて上へ昇す。甘草の梢は茎中の痛みを治す。胸中の熱気に」。

    (毒)「中満に」。私曰く、甘草に限らず甘き薬は中満には忌むべし。「下焦の急痛に」。私曰く、物を緩くする故に諸薬の力、下焦まで行きまじきとの心なり。「汗薬に」。私曰く、古方を見るに入れたぞ。上行の能ある故か。然るを道三の汗薬に嫌われたは是も物を緩うする程にぞ。汗薬は急にしたき故なり。「下薬」に。私云う、是も薬の力を緩うする故なり。

薬選  諸薬を和し、衆味を緩やかにす。咽痛を治し、茎中の痛みを去り、百毒を解す。

徴   急迫を主治するなり。故に裏急、急痛、攣急を治す。而して傍ら厥冷、煩躁、衝逆の等、諸般急迫の毒を治すなり。

提要  甘味平性、脾胃の不足を補い、十二経の緩急を通行し、諸薬を協和させ、百薬毒を解す。

考   味甘美にして涼降。故に其の能、中州を緩にし、百薬を協和す。以て拘急、卒痛、咽痛、燥渇等を治す。凡そ駿剤を用いるときは必ず此れを加えて、以て胃気をして傷せらせずしむ。

重徴  急迫を主治するなり。故に厥冷、煩躁、吐逆、驚狂、心煩、衝逆等、諸般の急迫の証を治す。兼ねて裏急、攣急、骨節疼痛、腹痛、咽痛下利を治す。

議   味甘平。毒を解し、中を温め、気を下し、渇を止め、経脈を通じ、咽痛を去る。

養生  急迫症状を緩め、咽痛、腹痛、歯痛、痔痛、下痢の激しいものに効く。諸薬に伍して薬力を安定する。

長沢  鑑別の点からいきますと薄い黄色のものは避けた方がよい、できるだけ色の濃いものを選べということです。そして味わった時に、甘味が強く苦みが少ないものが品質の良いものになります。

 

款 冬 花  

増補  「甘く辛く温なり。少陰心太陰肺二経に入る。労咳痰喘に」。私曰く、手の少陰太陰に入りて心肺を潤すぞ。「肺痿、肺癰に」。

提要  辛。温。咳逆上気を主り、肺を潤し痰を消し熱を瀉す。

考   味極めて苦く、性順降。故に喘逆気を鎮瀉するの能有り。

中薬  肺を潤し気を下す、痰を化し嗽を止める、の効能がある。咳逆喘息、喉痺を治す。

山本  虚実寒熱に関係なく顕著な鎮咳作用がある。そして外感といわず内傷といわず、新しい咳にも陳旧性の咳嗽にも用いられる非常に便利な薬物である。去痰作用がないためよく紫苑と併用される。紫苑は反対に去痰作用はあるが、鎮咳効果は顕らかではない。(山本巌 東医雑録)

 

桔 梗 

増補  「味辛く苦く微に温。太陰肺経に入る。腹中を温め五穀を消し気を養う」。私曰く、この薬は上の三つの能ありと心得ておくべし。腹中を温めると云えばとて温め薬に用い、五穀を消すとて食積の人に使わんと思うべからず。この心持ちは桔梗一種に限らず、余の薬も表の能をよく用いて裏の能をば使うべからず。その当病によき薬、外に多きほどにその薬を用ゆべし。「喉痛に」。私曰く、必ず用ゆべし。そうじて喉の痛みには何にも用いよ。「胸脇の痛みに、鼻壅るに、シワブキ喘息に、肺癰に、痰涎に」。私曰くこの薬は肺気を開く故に、上の能あり。「諸薬を上焦におかんと思う時に」。私曰く、目付けどころは肺の臓の壅りたるをよく開き、万の薬を上に置かんと思うとき、甘草と桔梗と二味使えば、諸薬を下へ下さぬ故に、舟楫(天子を補佐する家来のたとえ)の剤と云うなり。また辛く苦き故に解利の薬とも見えたぞ。また腹の痛みに丹渓の使われたぞ。面白き療治ぞ。腹痛門にて申すべき。

    (毒)「腎虚に、平生腹を立て上気する人に」。私曰く、舟楫の心有る故に嫌うたぞ。また本経に寒たる吐逆に用うとあり、此の薬は腹中を温むるほどに、冷えたる吐逆にはよからんづれとも、初心の人のために用捨して今は是を退けたぞ。その心は吐逆は気の上へ逆上する病なり。舟楫の心な らば嫌なり。かようの事はその病に望んで計らうべし。

薬選  咽喉腫痛、胸脇痛、胸膈滞気、赤目腫痛、口舌瘡を生じ、喉痺を療じ、膿を排す。

徴   濁唾、腫膿を主治するなり。傍ら咽喉痛を治す。

提要  苦辛。平。肺に入り、熱を瀉し、痰を除き、咳を治し、頭目を清め、咽喉を利し滞気を散じ、薬を載し上浮す。

   其の根苦く辛く毒有り。故に能く滞気を除き、咽喉を利し、肺気を清くす。

重徴  濁唾、腫膿を主治するなり。

   味辛温。胸脇痛むこと刀刺の如くを主る。咽喉痛を療じ、痰を消し、を破り、血を養い、膿を排し、覈を利し、嗽逆、口舌に瘡を生じ、赤目腫痛を治す。

養生  咽の腫痛、排膿を主治する。

壷中  桔梗の咽喉の痛みは唾をのんでも痛いもの。半夏の咽喉の痛みはカサカサとして痰がある、の違いがある。桔梗は晒したものではなく、生干しの香りの良いものを使用する。

 

菊 花   

増補  「味甘く平。肺・脾・肝・腎の四経に入る」。私曰く、微寒の力へ行くぞ。「諸風に、頭眩し腫痛に、目涙多くしぶり痛みに」。私曰く、必ず用いよ。「頭風、脳骨痛に」。私曰く、目付けは頭風久しくして、眩むこと血虚と見たらば必ず用いよ。頭脳痛に目も疼く病人にさしずめ用いよ。この薬、風薬に陰血を生じ、脳中に入る故に、内障の内薬に地黄とくみして用いよ。東垣が法なり。

    (毒)脳中の風邪、目の煩いならでは使うまい程に禁忌の詮索に及ばず。

 

葵 子   

増補  「味甘く寒。手の太陽・小腸、足の太陽・膀胱の二経に入る。五淋に二便を通ず」。私曰く、小便を通ずること、右の二種(車前子・句麦子)より強し。虚証に忌むべし。「懐妊の下血に」。私曰く、これ殊のほか重要なり。小便を通ずる薬は懐妊の人には用い難し。下血のときはこの薬は苦しからず。また懐妊の下血は大事の病なり、婦人門にてよく稽古あるべし。今これを略す。「懐妊の水腫に、難産に、胎死に胞衣の下りざるに」。

    (毒)私曰く、小便通利の薬を用いるところの戒めは大体いずれも同じ故に、悉くは記さず。

議   味甘寒。五を主り、小便を利し、婦人乳難、内閉を療じ、能く乳汁を下す。

提要  甘。寒。燥を潤し、竅を通じ、二便を利す。

   気味淡甘滑降。故に水気を除き、小便閉塞を通利するの能有り。

徴続  心煩止まずを主治する。

 

枳 実 

増補  「性味能毒、おおかた枳殻と同じ。心脾二経に入る」。枳殻と変わるところは枳殻は上焦の気を下し、枳実は下焦の血を下すと心得るべし。但し当流の口伝には、あながち使いわけず、枳殻の性は緩く、枳実の性は強しと分別して、軽き病には枳殻、強き病には枳実を使うべし。この薬は痰を下す事、垣を押し倒すよりも速やかと見えたり。

薬選  胸膈痰滞を除き、結塞を破り、脹満を消し、痢疾を治し、風襞莖、心下急痞痛、上気喘、傷風寒、結胸を療ず。目を明らかにし、    食を消し、胃を開き、痔を熨す。凡そ胸脇間の疾は蓋し之を主る。

   結実の毒を主治するなり。傍ら胸満胸痺、腹満腹痛を治す。

提要  苦酸。微に寒。気を破り痰を行らす。胸膈を利し、腸胃を寛む。

考   味極めて苦辛、気芳烈。故に善く膈気を降泄し、痞癖を排し、結実を破るの効有り。

重徴  結実の毒を主治するなり。故に胸腹の満痛を治す。兼ねて胸痺、停痰、癰膿を治す。

議   味苦寒。寒熱の結を除き、痢を止め、胸脇の痰癖を除き、停水を逐い、結実を破り、脹満を消し、心下急痞痛、逆気喘咳を主る。

養生  結実、気滞の毒を破り、胸満、胸痛、腹満、腹痛を治す。

中薬  気を破る、痞を散らす、痰を瀉ぎだす、積を消す、の効能がある。胸腹脹満、胸痺、痞痛、痰癖、水腫、食積、便秘、胃下垂、子宮    下垂、脱肛を治す。

 

橘 皮 

   逆を主治するなり。傍ら胸痺、停痰を治す。

提要  辛苦。温。中を調え、膈を快し、滞を導き、痰を消し、気を理め、湿を燥す。

   気味苦く辛く芳発なり。故に其の能、逆気を降泄する。仲景氏は生姜と併用す。以て乾嘔、吃逆の気塞等を治す。

重徴  逆を主治するなり。兼ねて胸痺、停痰、乾嘔を治す。

議   味辛温。逆気を主り、嘔、咳を止め、痰涎を消し、胃を開き、水穀を利し、魚腥の毒を消す。

養生  気逆、吃逆を主治し、気を下し、胃内の停水を去る。

中薬  気を理える、中を調える、湿を燥かす、痰を化す、の効能がある。胸腹脹満、食欲不振、嘔吐 逆、痰を伴う咳嗽を治す。また魚、    カニの毒を解く。

 

 活 

増補  「味苦く甘く温。手の太陽小腸、足の太陽膀胱二経に入る。皮膚の風を去り、一身百節の痛みに、太陽の頭痛に、同じく太陽の引薬    なり。腰膝の痛みに、身の痒きに」。私曰く、この薬は能く風を散するなり。湿気を去り、関節を通ずると見て使うべし。故に中風に常に用いるぞ。当坐の風を引きたるにも用ゆ。さりながら理慶などは中風か、または頭痛ならでは用いられなんだぞ。今丹渓が療治を見れば当坐の風気に用いる事多し。是に随うべし。また東垣が療治を見れば、頭痛には放さぬように使いたぞ。太陽の頭痛許りに限らず、すべて頭痛には風薬を使うものなり、上へ昇る故ぞ。

    (毒)「皮膚衰えて自汗出るに、脈沈細なるに」。私曰く、脈の沈細なる事、気虚に限らず、湿気より沈細なる事あり。その時は使うべし。但力の虚実によるべし。この薬は皮膚弱く気の衰えたる者には用いぬように聞こえたれども、一身の痛みには気虚なりとも強いて忌むべからず。古方気虚を治する薬に加えたる事多し。尚口伝。

提要  辛苦。平。遊風を発散し湿に勝つ。

中薬  表寒を散らす、風湿を去る、関節を利す、の効能がある。感冒風寒、頭痛無汗、風寒湿痺、項強筋急、骨節酸疼、風水浮腫、癰疽瘡    毒を治す。血虚痺痛の者は服用してはならない。

 

杏 仁 

増補  「味辛く甘く温。肺、大腸の二経に入る。よく胸中の気を快く散す。上気に、喉痺に、痰つかえてシワブキし喘息するに、シャックリするに、大腸に気つかえて大便結するに」。私曰く、夜大便の結するは血の方なり。その時は桃仁を用いよ。昼結するをば気と心得て杏仁を使うべし。「汗を発す」。私曰く、この薬の目付けは胸中を快くして遡る気を下すと思うべし。故に喘息には必ず是を用ゆ。少し潤す心もありて使いよき薬なり。

    (毒)「気虚甚だしき人には」。私曰く、枳殻などの如くに忌むまいぞ。甘辛く、発散するほどに気虚したる人には少し容赦せよとの心なり。

薬選  痰喘、邪を療ず。煩を解し、腸を潤す。

   胸間停水を主治するなり。故に喘咳を治す。傍ら短気、結胸、心痛、形体浮腫するを治す。

   味甘く微に苦。専ら気分を主る。其の能、逆を下し、痰喘を除き、以て胸膈を利して、腸間を潤す。

重徴  胸間停水を主治するなり。故に能く喘を治す。兼ねて心痛、結胸、胸痺、短気、浮腫を治す。

   味辛温。気を下し、肌を解し、結を散じ、燥を潤し、逆上気を主り、狗毒を殺す。

養生  気を下し、胸間の停水を治す。喘を止め、心痛、短気を治し、狗毒を解く特効あり。

中薬  心を強め利尿、去痰し喘を平らかにする、鎮痛する、?を去る、の効能がある。心不全、喘息咳嗽、癲癇、打撲傷による腫れと痛み、    無月経を治す。

 

玉 竹  

中薬  陰を養う、燥を潤す、煩を除く、止渇する、の効能がある。熱病陰傷、咳嗽煩渇、過労による発熱、消穀易飢(食後するに飢餓を感ずる)、頻尿を治す。

 

金 銀 花  

提要  辛、涼、熱を散じ、毒を解し、一切の瘡瘍を主る。

漢薬  化膿性皮膚疾患・下痢・感冒・熱性疾患に対する常用薬である。

    (1)腫瘍・癰・セツなどで発赤・腫脹・熱感・疼痛のあるとき(陽証)には、金銀花を必ず使用してその強力な抗菌作用を利用する。軽症には、連翹・紫花地丁などを配合して、例えば銀花解毒湯を用いる。疼痛が強く自潰・消散を促がす。方剤は例えば消瘡飲である。化膿症が治癒したあとの口渇には、金銀花の煎汁を茶代りに飲むとよい。湿疹・疥癬などにも効果がある。

森下  スイカズラの薬用としての利用範囲は広く、しかも効き目が速いのが特徴です。利尿薬として昔から有名で淋病、梅毒、腫物、瘡、疔などに一日量二〇〜三〇グラムを煎じて三回に温服します。腫物が治ったあとが紫黒色に残る場合、金銀花を一日八グラムを煎じて飲み続けると、きれいに痕が残りません。(森下徳衛 薬草利用教室)

中薬  清熱する、解毒する、の効能がある。温病による発熱、熱毒血痢、癰瘍、腫毒、瘰癧、痔瘻を治す。

 

苦 酒 

提要  酸。温。?を散じ、毒を解し、気を下し、血を斂め、癰腫を消す。

   其の味酸く苦く収斂にして能く下降す。故にその力、毒気に勝る。燥爛を消す。

   味酸温。癰腫を消し、水気を散じ、血運を破り、塊堅積を除き、食を消す。

 

苦 参 

増補  「苦く寒なり。足の少陰腎経の君薬。胃・大腸・肝の三経に入る。黄疸に」。私曰く、黄疸は湿熱より生ず。苦きは湿を燥かし、寒なるは熱を除くぞ。「風を治し蟲を殺すに」。私曰く、熱より風を生じ、湿より蟲を生ず。今この薬、性寒にして熱を除き、苦くして湿を燥かす。故に風も蟲も生ずべきようはないぞ。「溺餘瀝有るに」。私に曰く、苦参は少陰腎経に入って真水を補い、伏火を瀉す。黄蘗の類ぞ。溺餘瀝あることは皆是膀胱の伏火なるゆえに、必ずこの薬を用いではかなわぬぞ。

    (毒)「脾胃弱き者に、相火衰え精冷えたるものに、年老の人に」。私に曰く、何れもこの薬、寒なるによって元気にあたらんことを恐れてなり。

提要  苦。寒。湿を燥し、火を瀉し、風をり、虫を殺す。

   気味極めて苦く涼降。故に其の能、伏熱を除き、痞塞を開き、以て煩熱、及び小便難を療ず。

中薬  清熱する、湿を燥かす、殺虫する、の効能がある。熱毒血痢、腸風下血、黄疸、 赤白帯下、小児肺炎、疳積、急性扁桃炎、痔瘻、脱肛、皮膚痒、疥癩悪瘡、陰瘡湿疹、瘰癧、火傷を治す。

 

瞿 麦 子 

増補  「味苦く辛く寒なり。五淋に、月水の不通に、難産に、胎死に胞衣の下りざるに」。按ずるに、此の薬は強く小便を通ずるものなり。大体車前子と同じ。

    (毒)「胎を破る」。

提要  苦。寒。小腸を利し、膀胱の邪熱を逐う。

   味微に苦、微に辛。能く尿道をして通瀉せしめ、膀胱の淫邪を逐い、以て小便不利、及び淋瀝等を治す。

壺中  妊婦には用いない。

 

荊 芥 

増補  「味辛く温。にわかなる傷寒に」。私云う、よく汗を発するなり。但し古方を用いるは使うべからず。道三家の配剤にはさして使わぬ薬なり。「邪風に」。私云う、邪風とはただ風とばかり心得るべし。詳しくいえば難しきぞ。運気不正の風、或いは八方の風、或いは山沢の風等なり。「目口歪み一身痛み痺れ頭痛に、頭眩き目の眩うに」。私曰く、この病証皆風なり。故によし。「婦人の血風に、瘡疥に、産後の中風に、身すたむに、疹の腫れを散らすに」。私云う、この能は皆これ血中の風を去る故なり。「喉の内塞がり気味の悪きを快くす」。私云う、風薬は気を能く通ずる故に喉の内を快くするなり。また喉の内不利なる事は大抵風なり。気味悪き事、按ずるにこの薬は表発強き風薬なれば、急ならでは使わずと心得て右の能を考えて用いよ。産後は気血ともに衰えてけば表発強き薬、斟酌すべきに似たれども、必ず用うべし。その故は産後の中風はもっとも急証なり。速やかに治せざれば、死してから何の禁忌を論ぜん。ひとむきなるは下手の仕業なり。よく心得有るべし。また手負いの中風を破傷風という。これにも用うべし。産後の風と同じ。癰疽の口より風入りたるも前と同じ。また他流に多く用いる薬なり。性味能毒吟味なき故か。但古方に多し。その古方を用いるは古方の心にしたがうほどに使うべし。委しくは口伝。

    (毒)「身の潤い枯れ乾きたる人に、自汗に、盗汗に、小便のしげき人に、喉の乾く人に久しく服すれば五臓の神を薫べるぞ」。私曰く、この薬のみに限らず、汗薬の忌みよう大抵斯の如し。

六八  風熱、瘡疹、瘰癧、結聚、?血、湿瘟を主る。

提要  辛苦。温。風温を散じ、頭目を清め、血脈を通じ、班疹・瘡疥を治す。

養生  風温を散じ、班疹・瘡疥を治す。

漢薬  (1)外感に用いる。特微的なことは、荊芥は辛温であるが、温であっても燥の性質はなく、辛涼解表薬に配合すると疏散風熱の作用を増強することである。それ故、発熱・頭痛・鼻閉・咽喉痛・結膜炎などの風熱症状に適用する。風寒・風熱ともに用いてよいが、風熱には薄荷・柴胡などを配合し、風寒には防風・生姜を配合する。

    (2)咽喉炎・扁桃腺炎に用いる。古人は経験的に「咽喉痛には必ず荊芥を用いる」としているが、現在も咽喉炎・扁桃腺炎に対する方剤には必ず荊芥を使用している。特に桔梗・生甘草を配合すると消炎作用が強まる。

    (5)透疹・止痒に用いる。蕁麻疹・風疹・麻疹に使用すると、班疹の発散と消退を速め痒みを止める。薄荷・防風などを配合する。

中薬  表を発きだす、風を去る、血を理える、の効能がある。炒炭は止血する。感冒発熱、頭痛、癰腫、咽喉腫痛、中風による開口不能、吐血、鼻出血、血便、崩漏、産後血暈、癰腫、瘡疥、瘰癧を治す。荊芥穂の効能も同じであるが、発散の効力が強い。

 

桂 枝 

増補  「味甘く辛く大熱。心・肺・脾・腎の四経に入る。胸腹冷えて痛むに、十二経脈冷えて脈遅きに、血衰えて手足冷えるに、表虚して自汗出るに、脾胃を温め、血を破り経脈の中風に、身の内の痛みに、冷えて痺るるに」。私曰く、此の薬は大いに血を温め十二経を通ずると心得て使うべし。何にてもあれ、温めるべきと思うには大方此の薬を用いてよし。気血ともに冷えて脈切れたる病人、または冷えてモガサ(痘瘡)などの出がたきと、霍乱のコブラガエリに用う。速やかにしるしを得たりと、理慶は申されたり。桂枝は血中の気薬にして、浮かみたる汗を出して汗を止めるなり習いあるぞ。但し傷寒の汗薬には悪しし。傷風の汗薬にはよし。目の付けどころは表裏ともに温め、気を散らし、血を通ずると心得るべし。

    (毒)「脈数に、妊みたる人に」。私曰く、九ヵ月、十ヵ月より用うべし。

薬選  傷風寒を療じ、汗を発し、肌を解し、中を温め、気を下し、煩を止め、渇を止め、理を開き、関節を利し、奔豚を治し、水道を導き、月閉を通じ、難産、胎衣下らずを治し、癰疽、痘瘡の内托、百薬を宜導し、畏忌する所無く、諸薬の先聘の通使と為す。   

徴   衝逆を主治するなり。傍ら奔豚、頭痛、発熱、悪風、汗出、身痛を治す。

   桂の物為る、純陽発散。其の枝の性は自ずから表部に達し、皮の性は自ずから肌膚に走る。味辛熱、甘和にして芳発の気有り。以て善く発表の先鋒を致すなり。故に仲景氏、肉桂を用いずして専ら桂枝を用うるは、其の枝皮以て発表に利しきの義を取れり。其れ麻黄湯、大小青龍湯、葛根湯等の発表の功有るは、皆桂枝の力に因りて致す所なり。故に此れを以て発表の宰宗と為すなり。

重徴  上衝を主治するなり。故に奔豚、頭痛、冒悸を治す。兼ねて発熱、悪風、自汗、身体疼煩、骨節疼痛、経水の変を治す。

   味辛温。関節を利し、筋脈を温め、煩を止め、汗を出し、月閉を通じ、奔豚を泄らし、諸薬の先聘通使と為す。

養生  よく気血をめぐらす。気の上衝を下し、筋脈をゆるめ、肌表の邪気を発解し、頭痛をとり、身体の疼痛、経水の変を治す。

長沢  どういう薬効を持っているか簡単に言いますと、発汗、解熱、健胃、鎮痛作用があります。それから血をめぐらす、利尿、鎮静などの作用もあります。また、腎臓にも作用します。 桂皮の品質の見分け方ですが、小さく折ってそれを口に入れて噛みます。その時に甘味も辛味も強い物が上等なわけです。辛味が弱くて甘味の弱いのは勿論だめです。もう一つの要素として粘液が口の中に出てくるものがあります。これは品質の落ちる1つの指標になります。ですから噛んでみて粘液質だというように思った物は品質が2級とか3級とかと思えばよいわけです。

 

鶏 子 黄 

   味甘平。心を鎮め、血を補い、咽を清め、音を開き、熱を散じ、驚を完し、嗽を止め、利を止める。

   味甘厚。故に能く虚損を補う。

養生  気の虚損を補い、膿を排除する効がある。

 

鶏 尿 白 

議   微寒。石淋、及び転筋を破り、小便を利し、を消し、瘢痕を滅す。

提要  苦微に寒。鼓脹を治す。

   其の味腥く毒有り、質涼降。故に能く脈絡を通じ、転筋の処に達す。

 

芫 花  

徴   水を逐うを主るなり。傍ら咳掣痛を治す。

提要  苦。温。毒有り。痰癖を消し、水飲を去る。

   味甘く辛く温。毒有りて下降す。故に其の能、痰飲、及び畜水を泄利す。

重徴  水を通利するを主る。

   味辛温。逆上気、喉鳴喘、咽腫、短気を主り、水気、脹満を瀉し、虫を殺す。

 

牽 牛 子  

増補  「味苦く寒なり。大便を通じ小便を利し痰を退く、腰より下腫満し小便渋り大便結するに、風湿を感じ喘息して胸苦しきに能く気を下す」。私曰く、此の薬は大小便を通利し湿熱を去る薬なり。とかく中下焦の薬なり、上焦の薬に非ず。喘息に使う事は不審のようなれども心持ちあり。下焦腫満甚だしければ上焦必ず喘息す、故に此の薬を用うる。また一つの口伝に、気を下す功ある故なり、と云えり。

    (毒)「病人の形と病証と何も強からずは用うるべからず。脹満せず大便結せずんば軽々しく用うるべからず」。私曰く、常にはこの戒めを守るべし。もし湿気の病には事によりて用うるべし。是も張子和が意を得ずんば誤り有るべし。

提要 ?辛。熱。小毒あり。下焦の鬱遏を通じ、水を逐い、大小便を利す。

 

玄 参 

増補  「苦く鹹く微寒なり。足の少陰腎経の君薬、上は心肺に入って上焦の火を清す。腎気不足に」。私曰く、腎水傷れを受け、相火盛んなるには水を滋し火を制すべし。玄参の味わい鹹きは腎水を補う。腎水滋すときは火自ずから降りる。況んや兼ねるに苦きを以てするをや、此の薬地黄と功を同じくす。「眼目を明らかにす」。私曰く、此れは裏の能なり。腎水有り余りて相火降りるときは肝経平らにして眼目明らかになるものなり。「瘰癧に、結核に」。私曰く、瘰癧・結核ともに気欝熱痰より生ず。此の薬苦きは熱を治し鹹きは堅きを軟らぐ故に用いるなり。とかく此の薬は専ら腎水を滋し、相火を制するとさえ目付けをすれば違わぬぞ。

漢薬  滋陰降火の常用薬である。「降火」とは、現代医学的にはほぼ解熱・利尿・消炎作用に相当し、滋養作用とも関連がある。熱証に対し、滋陰増液・消炎解毒の効果があり、虚熱・実熱のどちらに使用してもよいが、滋陰の効果の方が強いので虚熱に適している。

    (2)陰虚火旺による咽喉部の腫脹疼痛(慢性咽喉炎・扁桃腺炎など)に使用する。古人は経験的に「虚火上炎には必ず玄参を用いる」といっているが、現在の臨床でも陰虚による咽喉痛に生地黄・沙参・四葉参などを配合して使用すると効果がある。方剤は玄参治咽湯・養陰清肺湯などである。

    (3)頚部リンパ腺結核・頚部リンパ腺炎などに、玄参を大量に使用し、牡蛎・貝母を配合して、例えば玄参牡貝湯を用いる。

中薬  陰を滋う、火を降ろす、煩を除く、解毒する、の効能がある。熱病による煩渇、発斑、骨蒸労熱、夜寝不寧、自汗盗汗、津傷便秘、吐血、鼻出血、咽喉腫痛、癰腫、瘰癧を治す。

    

膠 飴 

提要  甘。温。気を益し、中を緩め、脾を健やかにし、肺を潤す。

考   味甘美にして性大温。故に能く穀を消し、脾胃、及び諸臓を調和し、以て烏頭、附子等の毒を解す。

   味甘温。虚乏を補い、気力を益し、痰を消し、嗽を消し、五臓を潤す。

養生  気をまし、中焦をゆるめ、虚を補う。

 

紅 花  

増補  「味辛く苦く温。血を活かし、乾きを潤し、痛みを止む」。私云う、血を活かすとは悪血を去り、新血を生ずる故なり。乾きを潤すとは、十二経を通じ血を生ずる故に云うなり。痛みを止めとは、死血の痛みを去るなり。「十二経を散らし通ず、産後に血せめ昇り、眩暈し歯をくいつめるなどするに、腹中に悪血残りて後、張り痛むに、胎死に胞衣の下らざるに、多く用いれば?血を破り、少し用いれば血を養う」。按ずるにこの薬は血の滞りを散じ通ずるの第一の薬なり。この故に?血の煩いには大体離さず用う。また前に記すところの病証には必用ではかなわぬなり。

    (毒)私云う、懐姙の人に、?血なき人に、但し経を潤し、血を生ずべきと思うには 血なくとも少し用いよ。多くは用いず。久しく用いず。

提要  辛苦甘。温。血を破り、血を活し、腫を消し、痛みを止める。

考   気味甘く温。故に燥渇を潤し、腹痛を止め、気血を行らすの能有り。

議   味辛温。血を治め、燥を潤し、痛みを止め、腫れを散じ、熱を解するを主る。

養生  血をめぐらし、婦人の血気による痛みをとめる。

中薬  血を活かし経を通す、?血を去り止痛する、の効能がある。無月経、、難産、死産、産後悪露不全、?血による痛み、癰腫、打撲傷を治す。

 

香 ?

徴   心中懊を主治するなり。傍ら心中の結痛、及び心中満して煩するを治すなり。

   味苦寒。煩躁、満悶を主り、気を下し、中を調え、毒薬に中るを治し、並びに犬咬を治す。

 

香 ? 

増補  「辛く微温なり。水腫に、面目浮腫に」。私曰く、水湿を小便より通ずる故なり。「暑気に傷らるるに」。私曰く、肺の臓、香を得て清化の令行なわれ、熱自ずから下るぞ。世間の医者、暑病を治するに香飲を以て専らにすると見えたり。然れども暑き時分に風を取り、或いは冷水などを多く飲んで、陽気陰邪の為に止められ、外へ発すること能わずして、頭痛発熱し、悪寒煩躁し、口乾き、或いは吐し、或いは瀉し、霍乱するもの、尤も此の薬にて陽気を温散し、水を導き、脾胃を和して癒えるべきぞ。もし飲食を過ごし、或いは身にわなわぬ労役などにて、その上に暑きに傷られ大熱し、大いに渇き、汗出ること雨の如く、煩躁・喘息し、或いは瀉し、或いは吐するものは労倦・内傷の証と云うものぞ。必ず清暑益気湯、或いは人参湯・白虎湯の類にて火邪を瀉し、元気を補益して癒えるぞ。もしかようの証に香を用いれば重ねてその表を虚せしむるぞ。総じて香は夏月表を解する薬なり。例えば冬月に麻黄を用いるたぐいぞ。この故に元気虚したるものには多く与えぬことぞ。今の世の人、かようの義を知らざるして、暑さと見れば元気の疲れたるをも、内傷をも顧みずして一概に香の薬を与う。誠に哀れなることぞ。

    (毒)「気虚するものに、表虚するものに」。

 

香 附 子 

増補  「味甘く苦く微寒。欝気を開き、気を快くす、頭痛に」。私曰く、この薬は汗薬じゃほどに風頭痛にもよし。ただ風頭痛には是れよりましたる薬多くある故に、さして用いず。ただ上気の頭痛に必ず用う。「上気に、胸塞がるに、酸きおくび出るに」。私曰く、酸きおくび出ることは大略宿食より起こるものなり。それには食を消する薬多き程に其の薬を使うべし。是れは気の滞りありて、酸きおくび出るに使うと心得よ。但し宿食より発るおくびに使うまいではないぞ。「虫積に」。私曰く、虫も気の滞りより発る故に用いるなり。「女房の気の煩に」。私曰く、この薬を婦人の仙薬と云いて、女房の煩には何にても大方加えてよし。ことさらやもめ、独居の人に用うべし。其の故は婦人の煩いはだいたい気の滞りのみなり。この薬はまた気の滞りを治する妙剤なるほどにぞ。「長血に」。私曰く、この煩い、気より起こるぞ。気より発らざるには用いず。「汗を発すこの薬、香蘇散の一種なり」。私曰く、この薬は気欝の妙剤なりとさえ心得ればすむぞ。佐使薬には蒼朮・川をするなり。まことに気滞りて頭痛する人には用いて大きに効あるなり。また古方をみれば血を生じ血を止める能もあれども、当流にはひとえに気薬と許り口伝するなり。

    (毒)「皮膚衰え汗の出るに、気虚甚だしきに」。私曰く、気虚に使うまいと一偏に心得たるも悪し。気虚の人、欝気を兼ねる事、十に七八あり。其の時は使うべきぞ。甚だしきと云うに気をつけるべし。「皮膚の乾きたる人に」。私曰く、乾く薬とは本経にも本草にもなけれども、使い覚えて乾く性ありとて理慶は嫌われたぞ。但童便に浸して用いれば乾く事もさして有るまいぞ。

中薬  気を理え鬱を解く、止痛し経を調える、の効能がある。肝胃不和、気鬱不舒、胸腹・肋脇の脹痛、痰飲痞満、崩漏帯下を治す。

    

粳 米 

提要  甘。涼。中を補い、中を和す。

   気味甘温。滋潤。専ら補養を主る。

   味甘平。煩を止め、洩れを止め、胃気を和し、血脈を通じ、中を温める。

養生  熱を清くし、中焦の気を養う。

浅田  此の方(附子粳米湯)、粳米を用ゆる者は切痛を主とするなり。『外臺』腹痛に?米一味を用う。徴とすべし。

 

厚 朴  

増補  「味苦く辛く大熱。脾胃二経に入る。霍乱に、腹痛に、脹満に、胃の気冷えて吐逆するに、しぼり腹、下り腹に」。私曰く、しぼり腹には常に用いて然るべし。殊に幼き人などのしぼり腹によし。下り腹には殊により人によりて斟酌すべし。「食の消えかするに、肺気脹満し喘息しシワブキに、虚して小便清難きに」。私曰く、腹中虚して冷えるに用うべき。但し煩いによるなり。「虫を殺し、痰を去り、腹中を温め、気を下す」。私曰く、この薬はよく腹中の滞りを温め散らし、気を下すと心得るべし。是も下し薬の一種なり。

    (毒)「腹中脹満するとも虚弱の人には斟酌すべし。誤りて用いれば元気を損なうなり。孕みたる女に」。私曰く、若し脹満せば虚弱の人なりとも用うべし。多く用いぬように心得るべし。故に斟酌せよと云うたぞ。

薬選  瘧疾、腹満、喘息、嗽を療じ、痰を消し、気を下し、痢疾、傷食、宿食消せず、乾嘔止まず、傷風寒、翻胃吐食。

   胸腹脹満を主治するなり。傍ら腹痛を治す。

提要  中を寛め、鬱滞を化し、湿を去り、満を散じ、胃気を平にし、痰飲を消し、虫積を治す。

   気味苦く辛く温にして下降す。故に逆気を下し、腸胃間の宿湿を疎瀉するの能有り。

重徴  胸腹の脹満を主治するなり。兼ねて腹痛、喘を治す。

   味苦温。痰を消し、気を下し、結水を去り、宿血を破り、水穀を消化し、大いに胃気を温むるを主り、腹痛、脹満、喘 を療ず。

養生  胸腹部の膨満を主治し、気を下し、中焦をゆるめ、胃内停水をとる。

 

藁 本 

増補  「味辛く苦く温。手の太陽小腸、足の太陽膀胱の二経に入る。太陽の経の頭痛に」。私曰く、太陽の経の筋をば灸の時に伝授するぞ。    まず背中通りを通りたる筋と知るべし。此の故に太陽の煩いは大方項強ばるものなり。その時に用うるべし。「頭上百会のあたりの痛みに」。私曰く、必ず用うる。「婦人の頭痛に」。私曰く、此の薬も温散なるほどに欝気によし。此の故に婦人の頭痛にと云うなるべし。大方ならば用うるべからず。「大寒に当たりて脳の内、何時ともなく痛みに、歯と頬に連なり覚えるに」。私曰く、細辛などと同じ心に、脳によく入る薬なり。その故は温にして強き風薬なるほどにぞ。顔面・身体・皮膚の風薬にて力強きほどによく風湿を去るべきなり。「督脈病をなし、背骨強ばりて手足冷えあがるに」。私曰く、督脈とは、背骨を真っすぐに頭の頂上まで昇りたる筋なり。奇経八脈の内なり。是も灸の時申すべし。此の薬の目付けは頭の頂上の痛む時には有無に用いると心得て、また強き風湿にて背中通り強ばり痛むにも使うべし。老父などは頭上の痛みならでは使わぬか。さように見るは、せばし背中強ばり痛むに防風・活・蒼朮と同じ心にして使うべし、と申されたぞ。強き風薬なる故に、普段は使わぬものなり。

    (毒)「陽虚の人に」。

 

牛 黄 

中薬  心を清める、去痰する、胆を利す、驚を鎮める、の効能がある。熱病による意識不明、譫語、癲癇発狂、小児驚風抽、牙疳(歯槽膿漏)、喉腫、口舌生瘡、癰疽、疔毒を治す。

 

胡 黄 連 

増補  「苦く寒なり。肝・胆・胃の三経に入る。咳嗽に」。私曰く、此の薬、三経に入りて火邪を瀉し、発熱・骨蒸・労熱を去る。気味尤も苦寒なる故ぞ。「小児の驚癇に」。私曰く、小児熱証多きものに用いるぞ、霍乱にも用いるぞ。

    (毒)「中気不足なるものには」。私曰く、気味苦寒なる故に脾胃にたたらんことを恐れてなり。

 

五 加 皮  

増補  「辛く苦く温なり。手の太陰肺、足の少陰腎の二経に入る。腰痛に」。私曰く、腎の虚寒を温め補う故なり。「骨節拘攣に」。私曰く、骨節拘攣は精血燥いて一身を栄養することがならぬ故ぞ。「肺熱に」。私曰く、辛きは肺の実火を瀉する故ぞ。「婦人の陰痒きに」。私曰く、陰痒きに色々あれども大抵少陰の虚より起こることぞ。とかく此の薬は肺腎二経の薬にして、とりわけ腎を温補すると心得ればすむぞ。

    (毒)「陽道強盛なるものに」。私曰く、陽道強盛なるもの服すれば、いよいよ強盛になるぞ。相火壮になる故なり。地黄などの如く真水を滋生するものではないぞ。

 

牛 膝   

増補  「味苦く酸く平。足の少陰腎経に入る。寒湿にて身大いに痺るるに、手足引き攣り痛むに、膝の痛みに、瘡の膿を払い痛みを止め、 月水の来たらざるに、産後に胸腹痛み、または血昇りて目の回るに、胞衣の下りざるに」。私云う、常に用うぞ。「乳を出すぞ」。私云う、右の能は皆湿気の滞りを去り、?血を破るゆえなり。この二つの中にても?血を破るを表の能とす。「男子の陰気かいなく、老人の小便の少なきに、五淋に、小便に血をするに、茎中の痛みに、脳の中の痛みによく、精を増し骨髄を満たしむ。諸薬を引いて下降」す。按ずるに、この薬の使いよう三つあり。一つには湿気を去り?血を散らさんと思うとき使うべし。二つには陰虚して精水少なき人に用いよ。古方に多し。三つには諸薬を下へやらんと思うときに加えよ。其の力走るが如しといえり。この故に脚気の人に必ず用うなり。この三句の心得をおして右の能を考えて使うべし。

    (毒)「孕みたる女に、胃虚して不食するに」。

薬選  膝痛屈伸すべからず、熱淋、尿血、茎中痛、婦人月事通ぜず、血結を療ず。死胎を落とす、妊婦には用いる勿れ。

提要  苦酸。平。肝腎を補い、筋骨を強め、諸薬を引き下行し、悪血を散ず。

中薬  生のままで使用すれば?血を散らす、癰腫を消す、の効能がある。淋病、血尿、無月経、、難産、胞衣不下、産後の?血による腹痛、喉痺、癰腫、打撲傷を治す。火を通して使用すれば、肝腎を補う、筋骨を強める、の効能がある。腰膝骨痛、手足の痙攣、運動麻痺を治す。

 

呉 茱 萸 

増補  「味辛く苦く大熱。肝・脾・胃・大腸・腎の五経に入る。中を温む」。私曰く、能く考えみるに、三焦ともに温むるなり。「気を下し痛みを止む」。私曰く、殊に心痛によし。冷えならば苦寒の佐使薬なくとも苦しかるべからず。但大体心痛も熱より生ずる。ままこの薬を君薬とすべからず。常に山梔子、黄連を君として、この薬を佐使に加えて使うべきなり。是は寒は熱によりて用いると云う心なり。「欝を開き、滞りを散ず」。私曰く、この心にて心腹痛の冷えより発りたるに宜し。但欝を開くとて香附子、川、木香などの如くには使われぬぞ。使いようは寒か気か痰か食か、滞をなして欝したるとき開きて散ぜんと思うときに使うべし。かようのあて処なくは使うべからず。「虫を殺す、痰涎の頭痛に、陰毒の腹痛に」。私云う、陰毒とは天地不正の寒気、邪気を云うなり。「疝気に」。私云う、茴香の下にて云う如く、疝気は先ず温めねばならぬ事なり。故にこの薬を用う。度々使いたるが疝痛には妙にしるしあるなり。但茴香、陳皮などにてあしらいても然るべきはおいたがよいぞ。「脚気胸へ衝くに」。私曰く、胸へ衝くと云うを目当てに用いよ。脚気の初めて発るときは傷寒とかわらぬものなり。見分けようは、療治の口伝のとき語るべし。脚気も久しく病みておる人には用いず。但し寒熱甚だしくは用いるべくが其の仕儀によるべし。「心腹冷えて痛むに、呑酸に、吐酸に」。私云う、吐酸とは喉の内酸く覚えて、飲めども入らず、吐けども出ぬを云うなり。呑酸とは吐き出だすもの酸きなり。この薬に黄連を加えて用いよ、妙なり。丹渓が法を療治の口伝にて語るべし。目付けは大熱猛気の剤なれば上中下焦の寒湿を推し下す神薬と心得て、上の能ばかり用うべし。

    (毒)「久しく用いれば目を損し髪抜け元気虚す」。

薬選  心腹感寒、絞痛、産後心痛を療ず。中を温め、疝気、宿酒を消す。

   嘔して胸満を主治するなり。

提要  辛。温。小毒有り。中を温め、気を降し、鬱滞を開き、寒痛を治し、湿を除き、虫を殺し、瀉を止め、痰を化す。

考   其の味辛苦、温熱にして順降。故に能く腸胃を温め、水湿を除き、寒湿を散じ、心腹の冷痛、寒疝等を療ず。

重徴  嘔して胸満、及び吐利を主治するなり。

   味辛温。中を温め、気を下し、痛みを止め、鬱を開き、滞を化し、嘔逆、蔵冷を除き、呑酸、痰涎、頭痛を治するを主る。

養生  嘔して胸満し、吐利するものを治し、寒を散らす効あり。

中薬  中を温める、止痛する、気を理える、湿を燥す、の効能がある。嘔逆呑酸、厥陰頭痛、臓寒吐瀉、完腹脹痛、脚気、疝気、口瘡潰瘍、    歯痛、湿疹、黄水瘡を治す。

長沢  温める力が大変強いから大熱薬に入ります。(中略)呑酸囃という、酸っぱい胃液が出てきて胃が非常に悪いという状態を呉茱萸 単独で治すことができます。ですから胃腸病に広く使えます。また、その中に入っている特有の成分が鎮痛作用や利尿作用も持っていますから、その応用は非常に広いものだということがわかります。胸や心臓の異常にもこれを使うことができますし、胃内停水のために吐き気が強いとき、頭痛が激しいときにも治すことができます。大変応用範囲が広いということがわかります。

    

牛 蒡 子 

提要  辛平。熱を解し、肺を潤し、咽喉を利し、瘡毒を散ず。

漢薬  (1)風熱による咽喉の腫脹疼痛(咽喉炎・上気道炎など)に、荊芥・薄荷・桔梗・粳米・甘草などを配合すれば効果がある。

    (3)麻疹の透発に用いる。牛蒡子は風熱を発散して透疹するので、麻疹初期で透発が十分でないときに、升麻・葛根・蝉退・薄荷などを配合して使用する。

    使用上の注意 下痢・虚寒の水痘・気血両虚などには使用してはならない。この場合には薄荷・蝉退が適している。

 

五 味 子 

増補  「味酸く温。肺腎二経に入る」。私曰く、五味の備わる故に五味子と名付けたり。「久しくシワブキするに、喘息に、乾いて声枯れシワブキするに、身の潤いを生じ喉の渇きを止む。腎精を益し、目を明らかにす。元気の不足を補い、気の減り散りたるを治す」。私曰く、この薬は潤いを生ずる事を主り、元気の不足を調えると心得て使うべし。元気とは精気なり。精気を益すこと、地黄・枸杞子などのように専ら左腎の水を生じはせぬぞ。また胡椒・肉桂などのように右腎の火を盛んにするでもないぞ。すべて腎精と云うは水火和合していてくる物なり。水ばかりにてもなし。則ち父母交合の時、一二の気のむすぼれたるを云うぞ。故に精は身に先だって生ずと経に見えたぞ。但この薬は右腎を補うかたへよるべきか、されども補陰丸の方に入りたぞ。知母・黄蘗・地黄などと同じく用いれば水をも生ずるぞ。また夏月に気衰えよろず難しく心よからざるには人参、黄耆、麦門冬と組合せ用いれば気力強く筋骨盛んになると云うぞ。また遜真人は五月に五味子を用いれば頓に精気を生ずと云えり。畢竟この薬の使いようは潤いを生じ元気を補うと心得て、久しきシワブキと腎虚の人には少し用うべきの重き薬なれば一度に多くは使わぬぞ。

    (毒)シワブキを治するに風寒より発りたらばこの薬をば慌てて用いぬものぞ。其の心は味酸き故にねつきを散らさずして悪しし。但し古方に初発のシワブキに用いたる事多し。すべて両方を組む時は能毒の使いよう一薬ごとの吟味はせぬものなり。口伝。

   咳して冒する者を治す。

提要  温。五味備わる。肺を斂し、腎を滋し、津を生じ、嗽を寧し、精をし、瀉を止める。

   味酸鹹。収降。故に其の能、涸渇を潤暢し、肺気の逆上を鎮瀉して、以て嗽喘息を治す。

重徴  咳逆を主治するなり。兼ねて渇を治す。

   味酸温。逆上気を主り、渇を止め、煩熱を除く。

養生  気を下し、咳逆をしずめる。頭冒を治す効がある。

 

犀 角 

増補  「味苦く酸く鹹く寒。手の少陰心、足の厥陰肝の二経に入る。疫癘の頭痛に、傷寒畜血あって物に犯されるに、虚言云うに、発斑に」。私曰く、発斑とは身赤くふくれて腫れる事なり。俗にハシリクサと云うに似たり。これ血熱の煩いなり。「風熱の驚癇に、心を安んじ、目を明らかにす、瘡あきどもなく出て内熱あって苦しむものに」。また丹渓曰く、血虚の痘瘡には用いず、疱瘡の余毒には用うると。「余毒と流行ようじ」。私曰く、此の薬は血熱を能くさまし、?血をよく散らすと心得て、右の諸能を考えて用うるべし。

提要  苦酸鹹。寒。心胃の大熱を瀉し、風をり、痰を利し、毒を解し、血を活かし、肝を鎮め、驚を定める。

   其の能、専ら心気を壮にし、百毒を解し、痘毒を排し、煩熱を止む。

 

柴 胡 

増補  「味苦く微寒。肝・胆・心胞絡・三焦・胃・大腸の六経に入る。寒熱往来に」。私曰く、必ず用うべしが胸脇の痛みに。「目の旋るに、頭痛するに、労骨蒸に、耳鳴りつぶるるに、目赤く昏きに、瘧に」。私曰く、初発に用い、気を引きて上へのぼすぞ。少陽の経の薬なり。「衄血に、脈弦にして筋引き攣るに」。私曰く、何れの病にてもあれ寒熱往来するに必ず用うべし。理慶曰く、常に熱気を冷ますべしと思うには黄と同様に用うべし。黄より味わい薄く性も軽し。故に小児の熱気には常に用うべし。肝胆の本薬なり。

    (毒)「脈虚にして遅に」。私曰く、是も冷えたる人に嫌う故なり。

薬選  傷風寒、時疫内外熱、潮熱、往来寒熱、瘧の状の如く、諸熱、肌熱、婦人熱血室に入り、瘧疾、腸中停積、目昏、赤つう、障翳を療じ、血結、気聚を解す。

徴   胸脇苦満を主治するなり。傍ら寒熱往来、腹中痛、脇下痞を治す。

提要  苦。微寒。少陽の邪を発し、熱を退け陽を升し、結気を散じ、経血を調え瘧を治す。

   気味苦辛芳散。故に善く結気を泄利し、表を防ぎ裏を和し、以て往来寒熱、胸脇苦満、微煩、?熱等を治す。

重徴  胸脇苦満を主治し、兼て寒熱往来、腹中痛、黄疸を治す。

   味苦平。心腹を主り、寒熱邪気を去り、煩を除き驚を止め、痰を消し、嗽を止め婦人の産前後の諸熱及び熱血室に入り経水調わずを治し、血気を宣暢し、気を下し食を消す。

養生  胸脇部の邪をとり、表裏の熱を退け、結気を散じ、経血を調えマラリヤを治す。

 

細 辛 

増補  「味辛く温。心・肝・胆・脾の四経に入る。中を温め気を下し、痰を破る」。私曰く、三つの能は覚えておくべし。其の煩いに使うこと勝るるなり。桔梗の下にて云う口伝の如し。「百節の引き攣るに」。私曰く、陰経の痛みならば使うべし。口伝。「喉痺に」。私曰く、よく気を通ずる故なり。卒中風の鼻に吹き入れて吐かすもこの心なり。「シャックリし上気するに、頭痛して脳の内振動するように覚えるに」。私曰く、是は少陰の経の引薬なり。少陰の頭痛は何時くともなく脳の内、痛んで堪え難きものなり。是を苦頭痛とも云う。其の時に用いれば誠に神の如くに効くなり。脳の内の滞りを開くなり。「血のある月の煩いに」。私曰く、目付けは脳の痛みと、脳の内の滞りと、陰経に寒邪のあるを散ずと心得るべし。

    (毒)「多く用いる事、また佐使なしして用いれば気を散ずる事甚だしくして乱悶するなり」。

   宿飲停水を主治するなり。故に水気心下に在りて、咳満、或いは上逆、或いは脇痛するを治す。

提要  辛。温。風寒を散じ、停水を行し、頭風脳痛を治す。

   気味辛温。芳散にして下降す。故に其の能、裏を温め、痰喘を除き、水気を利す。

重徴  宿飲停水を主治するなり。故に水気心下に在りて、発熱、咳満、脇痛する者を治す。

   味辛温。 逆を主り、中を温め、気を下し、痰を破り、水道を利し、胸中を開き汗出ず、血行らせずを治す。

養生  風寒を散らし、停水をめぐらし、咳逆を退け、中焦を暖め、脇痛を治す。

中薬  風を去る、寒を散らす、水を行らす、竅を開く、の効能がある。風冷頭痛、鼻淵、歯痛、痰飲咳逆、リウマチによる疼痛を治す。

 

サフラン → 蔵紅花

 

山 帰 来 

薬選  黴瘡、便毒、下疳、結毒、発漏、筋骨疼痛、諸壊証を療ず。必ず用いるの薬、及び疥癬、瘡、諸悪瘡皆用ゆべし。水銀軽粉の毒を解す。

 

山 ? 子 

増補  「味甘く辛く平なり。滞りたる血を破り、結したる気を破る、食積に、婦人のしり腹に」。私曰く、此の薬は食積を治する妙剤なり。常に用いるべし。

    (毒)「腹中に気血食積の滞り無きに」。

 

山 梔 子 

増補  「味苦く寒。心・大腸・小腸・胃・膀胱の六経に入る。熱の心痛に」。私曰く、丹渓が心痛を治するには必ずこの薬を用いたるとみえたり。口伝。「吐血・衄血に、血の混じりたるしぼり腹に、下血に、血をする淋病に」。私曰く、この薬、淋病に用いるに深き意あり。淋病は五淋共に熱より生ず。この故にこの薬をば何れの淋病にも用うべし。「疝気の熱に、胸いきり苦しみ寝うる事ならざるに、傷寒癒えて後また起こるに余熱にも用う、上気の頭痛に、目赤く腫れ痛むに、黄疸に、消渇に、酒毒に」。私曰く、この薬は肺・大腸の熱に使うと心得るべし。上気の煩いにおおかた離さずぞ。小便も能く通ずる能あり。口伝。また理慶曰く、胸のいきり悶え、狂乱の如くなるに用いて常にしるしを取る事、神の如し。色々口伝ある薬ぞ。気欝の熱気に必ず用う。

    (毒)「おおかた冷えたる人には斟酌すべし」。

提要  苦。寒。三焦の鬱火を瀉し、心痛・吐衄血を治す。

   味苦く涼し。芳臭有り、升降を為す。故に生に用いるときは則ち能く懊を湧出し、炒り用いるときは則ち能く心中煩熱を除く。

薬選  目赤熱痛、胸心大熱、面赤、心煩、溺道熱痛、黄疸、上部内外を療ず。頭疼、耳鳴。

重徴  心煩を主治す。兼て身熱発黄を治す。

議   味苦寒。胸心・大小腸の大熱、心中煩悶を療じ、小便を通じ、五種の黄病を解し大病を治し、労復を起こす。

養生  心煩を主治し、熱を瀉し、吐血・鼻血・充血・黄疸を治す。

漢薬  (3)種々の炎症に用いる。目の充血・腫張・疼痛・流涙・口苦・口乾・胸が暑苦しい・睡眠不安などの肝熱の症状のあるときに適し、消炎・鎮静する。流行性角結膜炎には、山梔子9、菊花9、甘草3を煎じて服用する。尿道炎などの排尿困難には、山梔子、甘草各9を配合する。

    (4)打撲・捻挫などに、生山梔子の粉末を小麦粉と卵白でねって湿布する。此の他痔の炎症性疼痛に、山梔炭の粉末をワセリンと混ぜ塗布すると鎮痛効果がある。

    (5)喀血・鼻出血で湿熱の症候をともなうときに、山梔炭に他の涼血止血薬を配合し、例えば咳血方を用いる。

中薬  清熱する、火を瀉ぎだす、血を涼める、の効能がある。熱病、虚煩、不眠、黄疸、淋病、消渇、結膜炎、吐血、鼻出血、血痢、血尿、熱毒、瘡瘍、くじきの痛みを治す。

壷中  花粉症などで眼の炎症、腫痛の激しい場合には、梔子蘗皮湯を外用する。

 

三 七 ( 田 七 、 田 七 人 参 ) 

中薬  止血する、?を散らす、腫れを消す、痛みを定める、の効能がある。吐血、咳血、鼻出血、血便、血痢、崩漏、、産後血暈、悪露のくだらないもの、打撲による内出血、外傷出血、癰腫による疼痛を治す。

 

山 茱 萸 

増補  「甘く酸く微温なり。足の少陰腎、足の厥陰肝の二経に入りて大いに精血を補うものなり。精髄を固くす」。私曰く、浮散の精血を鎮め小便を利す。六味丸に用いるもこの意ぞ。専ら腎を補うとさえ心得ればすむぞ。世間のもの、山茱萸の類の滋補の薬を服せずして、別に烏頭、附子の類の熱薬を服して淫欲の助けとすることは、賢臣を捨てて佞人を用いる如し。愚かなる事ぞ。

提要  辛酸。温。腎を補い、肝を温め、精を固め、気を秘す。

   其の味酸、微に温。質滋潤。故に能く肝気を温め、腎気を固有し、以て小便瀕数、及び腰痛等を治す。

   味酸平。中を温め、寒湿痺を逐い、腰膝を暖め、水道を助け、小便を利し、及び老人の尿、節ならざるを止め、耳鳴り、頭風を療ずるを主る。

養生  下焦の不仁を治し、精を固める。

 

酸 棗 仁 

徴   胸膈煩躁して眠ること能わざるを主治するなり。

提要  甘酸。平。心を寧んじ、汗を歛め、胆虚して眠ることを得ざを治す。

考   味淡甘。質滋潤。故に能く虚疲を補い、煩渇を滋し、以て寝ざるを治す。

重徴  煩躁して眠ること能わざるを主治す。

議   味酸平。心腹の寒熱、邪結ぼれ気聚り、煩して眠ることを得ず、臍の上下痛み、虚汗久しく洩れるを主る。

養生  虚して、不眠、多眠の症を治す。

 

三 稜 

増補  「味辛く苦く平。手の太陰肺、足の太陰脾の二経に入る。久しき血塊・積聚に、心膈の病に、飲食消せざるに、月水の不通に、産後の腹の痛みに、瘡腫の堅きに」。私曰く、此の薬は血気を破るものなり。大体莪述と性味同じ。

    (毒)「気虚し胃弱きに、胎を落ろす、薬性甚だ強し、久しく服するべからず」。

    

紫 苑     

増補 「苦く辛く温なり。手の少陰心、手の太陰肺に入る。上気痰喘に」。私曰く、苦きは心に入りて火を下し、辛きは肺に入りて痰喘を安んじ結滞の気を行らすなり。「渇を止め肌膚を潤す」。私曰く、内火盛んなるときは飲を欲し、肺金尅を受けて膚乾く。この薬、火を下す故に肺金清化の令を行なって肌膚潤い渇き止むぞ。

提要  辛苦。温。肺を潤し、気を下し、痰を化し、膿血を咳吐するを治す。

   其の根、味微に苦。性降瀉。故に能く肺気を降ろし、逆、結邪を治す。

    

紫 根  

提要  血を涼しくし、血を活かし、熱を清め、腸を滑らかにす。

養生  血熱をとり、瘡腫をおさめ、血を活かす効あり。

中薬  血を涼める、血を活かす、清熱する、解毒する、の効能がある。湿熱による斑と疹、湿熱による黄疸、紫癜、吐血、鼻出血、血尿、淋濁、血痢、熱結便秘、やけど、湿疹、丹毒、癰瘍を治す。

 

赤 小 豆 

提要  甘酸。平。小便を利し、?血を散ず。

考   煮れば則ち、味甘美にして沈降。故に能く畜水、腫脹を利す。

   味甘酸。水を下し、癰腫、膿血を排し、小便を利し、張満を下し、関節の煩熱を去り、熱毒を解するを主る。

 

赤 石 脂 

   水毒、下利を主治するなり。故に兼ねて便膿血を治す。

提要  甘酸辛。温。大小腸を固め、血を止める。

   性斂涼降。故に深く下焦に入りて腸を厚くし、利を調え、下血を止む。

   味甘平。洩痢、腸癖、膿血、腹痛、小便利、崩中、漏下を主る。

                                    

麝 香 

中薬  竅を開く、穢を辟ける、絡を通す、?を散らす、の効能がある。中風、痰厥、驚癇、中悪煩悶、心腹暴痛、癖積、打撲傷、癰疽腫毒を治す。

 

砂仁→縮砂

 

地 黄 

増補  

生地黄 「味甘く寒。心・肝・脾・肺の四経に入る。血熱を治す。産後に血昇りて胸を責め絶え入らんとするに、産前の時に子の動くに、下血に、鼻血に、吐血に、五心の熱に」。私曰く、五心とは手足の裏と胸とを云うなり。この薬は血熱を冷ますと心得て使うべし。また夜な夜な熱気さし、日暮れる程に熱気するにも用う。また心熱の煩いに用いる事多し。潔古老人は傷寒の初発の熱気に用いられたぞ。久しき傷寒には勿論なり。尚口伝あり。

熟地黄 「味甘く微寒。酒にて蒸す程に微寒。心・肝・腎の三経に入る。腎水を益す。虚熱に」。私曰く、この熱は虚熱なり。実熱には黄、黄連などを用う。生地黄もよし。「労に、産後の熱気に、産前の熱にも用う。耳の鳴るに」。私曰く、腎虚より起こるによし。痰風などにはまた餘の薬あり。「月水の来ずに、労の寒熱往来に血脈をよく通ず」。私曰く、熟地黄は労の本薬なりと心得るべし。他流には腎虚の薬に胡椒・肉桂などを用う。丹渓流には左様の薬をば、火に薪と云いて、殊の外戒めたぞ。只常に熟地黄を以て腎水を湧かすようにするものなり。労の証は腎虚より起こる故にこの薬を本薬とするなり。

    (毒)「脈遅には脾胃衰え食進み難きに、吐逆に」。私云う、熟地黄は柔らかなる故に生地黄ほど忌まぬなり。

   血証及び水病を主るなり。

提要  甘。寒。生血涼血。調経安胎。

考   味甘く滋潤涼降。故に其の能、渇を滋し虚を補い、諸熱を解し、?血を消す。

重徴  血証及び水病を主るなり。

議   味甘寒。寒熱積聚を除き、痺れを除き、大小腸を利し、血脈を通じ、驚悸、労劣、吐血、鼻衄、婦人崩中血運を治す。

養生  血分の熱を瀉し、血を生じ、経脈をととのえ、胎を安じ、秘結を潤す。

 

 莉 子  

増補  「苦く辛く温なり。肺・肝・腎の三経に入る。難産に」。私曰く、悪血を破り胎を堕ろす故ぞ。「乳汁出ざるに」。私曰く、血脈を通ずるに依りてなり。「膀胱冷えて小便数に」。私曰く、此の薬、遺瀝・泄精を止め、腎を補うの功あるに依りて、膀胱を暖め小便の数を療ずるぞ。とかく此の薬、肝に入りて血を行らし、肺に入りて気を下す。悪血等の証は皆此の二経の病なり。腎を補うとは裏の能ぞ。肺は腎の母、肝は腎の子ぞ。肺肝既に平ならば腎、自ずから鎮に守らん。此の故に腎を補うと云うたぞ。「肺痿に、皮膚風痒に」。私曰く、此の二証、ともに肺経の病なる故ぞ。「眼を明らかにす」。私曰く、目は血を得て能く視ると云えり。大抵眼病は肝経の病、血気の凝滞より起こる。気を調え血を行らせば、眼自ずから明らかなるぞ。

    (毒)「懐妊の婦人には甚だ忌むべし」。

 

芍 薬   

増補  「味苦く酸く微寒。足の厥陰肝経に入る。腹の痛みに」。私曰く、腹の痛みには必ず用うべし。冷えより発るには肉桂・生姜などを加え、熱より発るには黄・黄蘗などを加うべし。「下り腹、しぼり腹ともに」。私曰く、味酸くは腹中を和らぐる故に瀉痢ともに用いるぞ。「後重に、瘧に」。私曰く、瘧は脾胃より発る事多し。この薬は腹中を調える故に瘧に用いるぞ。また云う、酸く寒にして寒熱往来を治する故に瘧によし。「衄血に、脾胃の熱気に、血脈を調う、血を吐くに、五淋に、瘡熱に、痘疹の熱気に」。私曰く、この薬は能く血熱を冷まし腹中を調うと心得るべし。猶口伝あり。曰く、気虚の人に用いる事あり、味酸して物をあつむる故ぞ。白芍薬、赤芍薬の使い分けあり。赤は血の方に、白は脾胃を調えるぞ。手足の太陰に入る。

    (毒)「血少なく寒たる人に、脈沈にして遅に、初めて子を産みたる人に」。

薬選  腹痛、痢疾、目赤、疝、寒熱、傷風寒を療す。腸胃を利す、悪血を散じ、痔疾を治す。癰疽内托、婦人血閉、痘瘡解。

徴   結実して拘攣するを主治するなり。傍ら腹痛、頭痛、身体不仁、疼痛、腹満、咳逆、下利、腫膿を治す。

提要  苦。平。血脈を和し、陰気を収め、中を緩め、痛みを止める。

考   気味苦く収降。故に善く痞塞を排し、気血を順し、肌膚及び虚脱を固める。以て腹痛、攣急及び失精等を治す。

重徴  結実して拘攣を主治するなり。故に腹満、腹痛、頭痛、身体疼痛、不仁を治す。兼ねて下利、煩悸、血証、癰膿を治すして急緊するを緩する。

議   味苦平。血痺を除き、堅積を破り、痛みを止め、中を緩め、悪血を散じ、蔵府の擁気を通宜し、女人の一切の疾、並び産前後の諸疾を治す。

養生  血脈を和し、陰気を収め、中焦を緩め、拘攣をとく。そのため腹痛、下痢、身体の疼痛を緩解する。

長沢  中国で白芍、赤芍を分類するようになったのは宋の時代からで、唐以前は全部芍薬という表現になっている。

 

鷓 鴣 菜 

提要  鹹。寒。一切の虫病を治し、胎毒を下す。

養生  蛔虫を駆除し、胎毒を排除する。

 

蛇 床 子  

増補  「苦く辛く平。男子陰痿温痒きに」。私曰く、この薬は人の陽気を壮んにするものぞ。「婦人の陰中腫れ痛むに」。私曰く、右腎・命門・少陽・三焦・気分の薬なり。是の故に男子に益あらずして婦人に益あり。

    (毒)「陽気強盛なるものに」。相火炎上するものに。

提要  腎を補い、風寒湿をり、婦人の陰冷痒痛を治す。

   其の味甘く辛く、気香にして性温。故に能く瘡毒を除き、陰痒をる。

議   味辛甘。陰痿、湿癢、陰中腫痛を主り、痺気を除き、関節を利し、婦人の子蔵をして熱せしめ、男子の陰を浴して風冷を去る。

 

沙 参 

増補  「味甘く微苦く微寒なり。中を補い廉気を益すに」。私曰く、元素の曰く、肺寒なるものには人参を用い、肺熱なるものには沙参を用いて之に代えよと云えり。微苦微寒なる故ぞ。専ら肺気を補い、脾腎を益す故に肺金火の剋を受けるものには之を用いるぞ。「心腹痛に」。私曰く、多く寒冷を食して痛みもあり、また湿麺・焼炙の類の熱物を食して痛むもあり。これは熱物を食して痛むに用いるぞ。「五臓を安んず」。私曰く、各本臓の薬を用いて佐使すれば、引くところに随って効をあらわすぞ。

    (毒)「中焦衰えたるに、中寒なるものに、腹中冷結なるものに」。

壷中  沙参は南沙参とも呼ばれ、北沙参(ハマボウフウ)とは別物である。

 

車 前 子  

増補  「味甘く鹹く寒。手の太陽小腸、足の太陽膀胱、足の厥陰肝の三経に入る。気淋に」。私曰く、気より発りたる淋なり。委しくは淋病門にあり。「熱淋に痛みを止む」。私云う、この痛みは淋病の痛みにぞ。また腫物の痛みをも止むべし。痛みは大体熱より生ずる故にこの薬よし。「小便を通ず、湿熱のさわらを止む、湿の滞りに、身痺るるを治す」。按ずるにこの薬は膀胱に入りてよく小便を瀉するなり。故に淋病の類か難産などの時に用いる。其の外、別に配剤のとき使い分けたる事なし。また本草には目を明らかにし精を益すなどとあり、其の目の煩いも腎水の滞りてくもりをなすに、当座水道を押し開いてよし。腎精を益すも悪水を取りのけ、新しきを生ずるによってよし。悪水なき時はかえって精を破るなり。今道三の能毒にこの二つを載せず、学者ども使いそこなわん事を恐れてなるべし。

    (毒)この薬、一薬用いれば腹を下すなり。すべて久服の物にあらず。

薬選  水道を利し、気 淋疾、妊淋、胎を滑にし、腫を消す。

提要  甘。寒。水を行し、熱を瀉す。血を涼し、精を固める。

養生  利尿の効があり、熱を瀉し、よく眼疾を治す。

 

? 虫 

徴続  乾血を主治す。故に兼ねて少腹満痛、及び婦人経水不利を治す。

提要  鹹寒毒あり。血積??を破り、経閉寒熱を治す。

考   其の味淡甘にして毒有り。故に専ら畜血を泄らし、積血を除き、血塊を破る。

   味鹹寒。心腹寒熱洗洗。血積を主り、堅を破り、血閉を下す。

 

戎 塩 

考   其の味鹹涼降。故に能く腎気を補い、小便を通利する。

   味鹹寒。肌骨を堅め、目痛、心腹痛、歯舌出血、瘡、疥癬等を主る。

 

重 薬 

提要  辛。微温。小毒あり、熱毒・癰腫を散ず。

漢薬  肺腫瘍に対する常習薬である。肺炎に用い、肺ガンにも試験的に使用している。    

   (1)肺腫瘍(肺癰)・大葉性肺炎で、発熱・咳嗽・腐臭のある膿性の咯痰などの症状があるときに、桔梗を配合して去痰作用を強め、例えば魚腥草桔梗湯を用いる。重症のときにはこれに葦茎湯を配合し、魚腥草の煎液を茶代りに飲んで消炎利尿作用を強める。

   (2)肺ガンに試験的に使用している。冬葵子・土茯苓などを配合した魚腥草冬葵子湯を用いているが、効果についてはなお観察が必要である。この方剤は腎炎による浮腫・尿量減少にも使用するとよい。

 

縮 砂 

増補  「味苦く辛く温。虚労の冷えて瀉するに、宿食消せざるに、腹中虚して痛むに、冷気の痛みに、休息痢に」。私曰く、休息痢とは痢病の癒えぞこないなり。良きかと思えばまた悪しくなり、悪しきかと思えばまた良くなりて、日久しく癒えず、後には必ず死するものなり。これは初発のとき鴬粟、訶子の止薬を服する誤りによってこの如くなるなり。必ずこの薬を用うべし。但し痢病の止めぞこないをば、初治の如く下すが習いなり。必ずこの薬をば用いず。もし日久しくなりて腹中虚せば用いるなり。また痢病軽き人に苦寒の薬を用い、少し腹中虚するにも用いるなり。腹中虚せねども腹の痛み甚だしき人には痢の本方に加えることは常のことなり。「寒飲に」。私曰く、何にてもあれども冷えたる物を飲んで煩うを云うなり。「心腹張り塞がるに、噎膈に、嘔吐に」。私曰く、吐逆の要薬なり。但し吐逆にも生姜・半夏・陳皮などを先ず用いてみるべし。もしこれにて止まり難きは香・縮砂を用いるなり。「中を調え気をめぐらす」。私曰く、この薬は欝気を開くと見えたり。故に古方に木香・香附子を君に用いて、この薬を佐使薬としたること多し。按ずるに、冷えて気欝したるか、腹中に欝気のあるか、積塊の欝には君の心持ちに用いられるべし。「痛みを止む」。私曰く、欝結を去る故に諸経の痛みを止むれども、第一腹の痛みを止むると思うべし。「胎を安んず」。私曰く、畢竟目付けは脾胃の虚寒を温め補うと心得るべし。

    (毒)「身熱し脈数なるに」。私曰く、珍しからねども身熱し脈数なるにも、事によりて用うべし。その故は脾胃虚冷の煩い大略身熱し脈数なるものなり。但し数の内に虚の心混じるべし。畢竟寒熱に用いぬと心得るべし。

中薬  気を行らし中を調える、胃を和ませる、脾を醒ます、の効能がある。腹痛痞脹、胃呆食滞、噎膈嘔吐、寒瀉冷痢、妊娠胎動を治す。

 

朮 

白朮

増補 

  「味苦く甘く温。足の太陰脾、足の陽明胃の二経に入る。胃を温めて食の滞りを消し、また能く食を進めて脾胃を調う。心腹脹満するに、腹中冷えて痛むに、胃の腑虚して腹下るに、湿気を除き、気を益し、痰を去り、小便を通ず」。私曰く、この薬は腹中を調え温め、湿気を去ると心得て使うべし。故に下り腹、脹満、水腫などに必ず用うるものなり。霍乱、吐逆、腹の痛みにも大略はずさず用いるなり。気を調える薬に用いる心は、腹中を調えれば気必ず生ずる故なり。四君子湯の内に入れたぞ。

蒼朮  「性味、能毒、大略白朮に同じ。変わるところはよく汗を出し、風を去り、欝気を散するなり」。私曰く、白朮は汗を止めるぞ。是が殊の外の変わりなり。気を補う事あるまいぞ。この故に発散の薬の内に多く用いたぞ。白朮は柔らかなるものなり。蒼朮は古根といえり。また一説には同じ物にてはなしといえり。とにかく白く柔らかなるを白朮と心得、黒く堅きを蒼朮と使うべし。酒毒を消し、湿気を燥かす薬ぞ。

    (毒)「腎水燥き少なきには、脈数なるには」。私曰く、燥きたる者に忌むと心得ればよし。瘡を煩う人には気虚すといえども斟酌すべし。膿を生ずる故なり。

薬選  腸胃を燥し、泄瀉を止め、尿道を和す、自汗、盗汗を止め、傷食吐瀉止まず、胎を安じ、湿を除き、腸胃を堅む。

   利水を主るなり。故に能く小便自利、不利を治す。傍ら身疼煩、痰飲失精、眩冒、下利、喜唾を治す。

提要  胃を燥し、湿を除き、鬱を散じ、痰を逐う。

   味微に苦く辛温。気芳烈。故に能く胃気を開き、湿水を瀉し、尿道を調利せしめ、古人、茯苓と並び用いて、以て心下の水満、浮腫、    小便不利等を治す。

重徴  利水を主る。故に小便不利、自利、浮腫、支飲冒眩、失精、下利を治す。兼ねて沈重、疼痛、骨節疼痛、嘔渇、喜唾を治す。

議   味苦温。風寒湿痺を主り、胃を開き、痰涎を去り、下泄を止め、小便を利し、心下急満を除き、腰腹冷痛を治す。

養生  利水を主り、湿をとり、胃内の停水をとり、下痢を止め、嘔渇を治し、身体の疼痛、口中に唾の湧くのを止める。

 

生 姜 

増補  「味辛く甘。微温。腹中を温め気を散じ快くし、胃の気のかいなきを助け、同腑下がりたるを開き、食を進む。霍乱の心腹の痛みに」。    私曰く、霍乱に限らず心腹の痛みには大方用いるたるがよきぞ。「吐逆の神薬なり」。私曰く、必ずこの薬を用いる事は諸薬を胃の腑へ引き入れ、腹中を温むると心得るべし。

(乾姜) 「味辛く大熱。能毒大略生姜に同じ」。変わる処は大熱にして気を散らする事甚だし。痰を去るの神薬なり。生姜もまた痰を能く去るなり。産後の熱をさます。口伝。

    (毒)「陰虚火動に、脈実数なるに」。私曰く、辛熱なる故に熱病に忌む。

薬選  風寒湿の邪気を発散し、汗を出し、嘔吐を止め、痰喘、嗽、胃を開き、諸薬を調和す。

提要  辛。温。表を発し、寒を散じ、痰を豁き、嘔を止める。

考   気味辛く温。而して質能く堆排す。故に痰を開き、胸を利して、以て嘔吐を止めるを取る。橘皮、半夏及び理気の方中に入れて、以て各薬の巧を佐く。

   味辛温。嘔吐を止め、痰を去り、気を下し、煩悶を散じ、胃気を開く。

養生  もどすことを主治し、胃を開き、表を発し、寒を散じ、痰を取り、おくびを止める。

長沢  胃内停水のあるとないで半夏と生姜の使い分けができるのではないかと思います。生姜は温薬、乾姜は熱薬です。

 

常 山 

増補  「味苦く辛く寒。足の厥陰肝経に入る。温瘧に、痰に」。私曰く、よく痰を吐するものなり。常に用いるべからず。「肝の臓の積に、水腫に、虫に」。私曰く、此の薬は積を退け、鬼気を散する薬なり。ただ瘧をきらんと思う時にばかり用うるなり。その外の能は用うる事稀なり。なお口伝。

    (毒)「老人、また久しき病に」。私曰く、久しき病とは瘧の癒えそこないて日数を経たるを云うなり。必ず用うるべからず。老人の瘧には事によりて用うるべきか。但し用うるべきものは百に二、三人ならではあるべからず。神気を損なう故なり。

 

消 石 

考   其の味苦く辛く性寒降。故に能く積熱に勝ち、胃中の結実を降瀉して、以て腸間の結熱、腹満堅塊等を治す。

   味寒鹹。邪気を除き、小便を利し、血を破り、堅結を破散し、黄疸を治す。

 

小 麦 

提要  甘。微寒。心を養い、煩を除く。

   味甘く涼滑降。故に乾燥を止め、小便を利するなり。

   味甘寒。熱を除くを主り、燥渇、咽乾を止め、小便を利し、心気を養う。

養生  煩をとり、渇を止め、上中二焦の気を養う。

 

升 麻 

増補  「味甘く苦く微寒。大腸・脾・胃・肺の四経に入る。陽明の頭痛に」。私曰く、陽明の頭痛とは眉の間、額の真ん中筋の痛むを云う。「よく気を引きのばす補中益気湯の方に入りたぞ、肌肉の間の風熱を去る」。私曰く、陽明の経に入りて気を昇す能ある故ぞ。「浮きたる汗を出す、瘡の腫れるに、肺痿とて、シワブキし涎を出し、その内に膿血のまじりたるに」。私曰く、陽明の熱気を去る故なり。「いも麻疹の出かねるに、久しき下り腹に、白血・長血に、下血に」。私曰く、陽明に入りて気を昇し熱気をさます故なり。「衂血に、脈大にして数多しことに、狂乱するに、吐血に、喉の痛むに」。私曰く、此の薬は陽明の経に入りて熱気をさまし、気を昇すと心得て使うべし。また本草に能く邪気鬼神を去るといえり。   

    (毒)「モガサ(痘瘡)出てのち大便の下るに、自汗するに」。

薬選  時行の邪気、瘟疫、瘴気、寒熱、風腫赤眼を療ず。痘瘡発越、毒を解す。麻疹、喉痛、口瘡、斑疹を消す。諸悪瘡、癰疽、久泄、胃泄、崩漏下血、諸失血家、久痢、疫痢。

提要  甘辛く微に苦。寒。風を解散し、火鬱を升発し、一切の熱毒及び咽痛、口瘡を治す。

   気味苦く収涼降。故に其の効用は胃中の鬱熱を清くし咽喉腫痛等を解す。

   味苦平。寒熱、風腫、諸毒、喉痛、口瘡、悪臭を主り、癰腫、腕痘瘡を療ず。

浅田  南陽は柴胡・升麻を升提の意に用いたれども、やはり湿熱清解の功に取るがよし其の内、升麻は古より扉角の代用にして止血の効あ り。

 

薯 蕷  

増補  「甘く温なり。虚羸・労痩に」。私曰く、虚羸・労痩は脾胃の元気衰えたる故ぞ。此の薬、甘く温なるは脾胃に入り元気を滋生するぞ。気力を益し肌肉を長ずると云うも此の意なり。皆是脾胃の主るところぞ。「煩熱に」。私曰く、温は熱を治するの意ぞ。「腰痛に」。私曰く、兼ねて少陰腎に入るぞ。六味地黄丸に用いるも此の意なり。

提要  甘。温。脾胃を補い、腸を固め、精をし、瀉を止める。

考   味甘温滑沢。故に元気を調え、精を益し、虚損を補復するの能有り。

議   味甘寒。寒熱、邪気を除き、腰痛、洩痢を止め、痰涎を化し、虚労、羸痩を主る。

養生  脾胃を補い、精気を増し、虚熱を清くする。

 

商 陸 

増補  「辛く寒なり。足の太陰脾、足の太陽膀胱、手の太陽小腸の三経に入る。水腫に」。私曰く、下行して水湿を導き小便を通利する故なり。大戟と性味は変われども効能は同じものぞ。形、人に似たるもの其の効、神の如し。

    (毒)「脾胃の気虚弱なるものに、妊娠の婦人に」。私曰く、妊娠の婦人、商陸を服すれば必ず胎を堕ろす。

提要  苦。寒。毒有り、気結、水壅を疎利す。

考   気味辛く僉く毒有り。故に能く下行して毒気を攻め、以て専ら水腫、脹満等を療ず。

議   味辛平。水脹を主り、胸中の邪気、痿痺、腹満、洪直を療ず。

 

食 塩 

提要  鹹甘辛。寒。熱を瀉し、燥を潤し、二便を利し、吐を引く。

   味極めて鹹く、性収斂滋潤。故に其の能、百毒を殺し、腹中満痛を吐す。

議   味鹹寒。肌骨を堅め、大小便を通じ、胸中の痰を吐し、心腹卒痛を止め、毒を解し、燥を潤し、痛みを定め、痒みを止む。

 

蜀 漆 

徴続  胸腹、及び臍下の動劇しき者を主治す。故に兼ねて驚狂、火逆、瘧疾を治す。

提要  辛。平。毒あり。寒熱、瘧疾、及び逆を主り、積聚を消し、火邪を散ず。

議   味辛平。瘧、及び咳逆、寒熱、腹中堅、痞結積聚、邪気を主り、胸中邪結の気を療して之を吐出す。

 

蜀 椒  

提要  辛。熱。毒有り。寒を散じ、飲を逐い、蛔結を解き、魚毒を殺し、食を消し、瀉を止める。

考   味辛熱にして芳烈。外発の力有り。故に寒淫を散じ、胃中を温め、克く蛔虫を征するの能有り。以て大寒痛、食穀和せず等を療ず。

   味辛温。中を温め、気を下し、結を破り、胃を開き、腹中冷えて痛むを主る。

 

神  

増補  「味甘く温。水にてもあれ五穀にてもあれ脾胃に滞りてある物を消す、痰に、霍乱に、泄瀉に、痢病に」。私曰く、痢病に良しとはあれども、初発には用い難し。脾胃を温め補う故なり。「脹満に、虚寒して反胃するに」。私曰く、反胃とは吐逆の名なり。夕べに食して朝に吐き、朝に食して夕べに吐くを反胃と云う。これは五穀、胃の腑に納まって後、消し難くして吐逆する故に反胃と名付けるなり。「能く胃の気を養う」。私曰く、此の薬は水穀の脾胃に滞りてあるを温め散ずと目付けすれば用いらるるなり。此の故に酒客病などには放さぬなり。

    (毒)「脾胃に水穀の滞りなくは用うるべからず。脾胃の養生薬に用うる事も有り」。

 

沈 香 

増補  「辛く苦く温なり。少陰腎・命門の二経に入る。元気衰えたるに」。私曰く、沈香は陽に属す香剤にして燥かすものなり。命門の火衰え下焦、虚寒のものにはよろしきぞ。「冷気に」。私曰く、右に云うたと同意。下焦の陽火を助けるものとさえ見ればすむぞ。「悪気を去る」。私曰く、沈香に限らず、香剤は皆穢悪の気を去るぞ。

    (毒)「血虚のものに」。私曰く、香剤にして燥かす故に血を傷るぞ。「腎虚のものに」。私曰く、真水虚し相火壮んなるもの、沈香を服すれば、いよいよ相火を助けて、いよいよ熬り減らさるるぞ。痩せたる人、火多きもの、慎むべきなり。

 

辰 砂     

増補  「手の少陰心経に入る」。私曰く、心熱を能くさますなり。暑病に配剤の特に用いるなり。「神虚に黄・黄連等の寒にてさめがたき時に、了簡無き時に用う」。

    

真 珠 

提要  甘鹹。寒。熱を瀉し、驚を定め、心を鎮め、日翳を去り、疔脾を治し、結毒を除く。

議   味甘寒。魂魄を安じ、血脈を通じ、煩渇、消渇を止め、中悪腹痛を除き、驚癇を治す。

 

生 梓 白 皮 

提要  苦。寒。熱を除き、三虫を去る。目疾を療ず。

   味苦く寒、澁降。故に能く熱湿邪を除き、以て黄疸を療ず。

議   味苦寒。熱毒、吐逆、胃反を主る。

 

辛 夷 

中薬  風を去る、竅を通す、の効能がある。頭痛、鼻淵(悪臭性鼻粘膜潰瘍、蓄膿症)、鼻詰まり、歯痛を治す。

 

秦 

増補  「苦く辛し微温なり。手の陽明大腸・足の陽明胃の二経に入る。腸風下血に、黄疸煩渇の病に」。私曰く、腸風下血とは大便に血を交ゆるを云うぞ。大便より先に血の出るを近血と名づく、大便より後に血の出るを遠血と名づく。ともに是、風・湿・熱より発るを黄疸・煩渇は陽明胃の湿熱なり。秦は手の陽明大腸に入りて湿熱を去る故に、腸風丁血を治するぞ。足の陽明胃に入りて湿熱を去る故に、黄疸・煩渇を治するるぞ。「骨蒸煩熱に」。私曰く、陽明に湿あるときは身体酸疼、煩熱す。陽明に熱有るときは日 に潮熱骨蒸す。是故に秦を以て之を治するぞ。

 

秦 皮 

提要  苦。寒。目疾を療じ、熱利下重を治す。

   味苦寒収斂。故に其の能、滑瀉を固有し、腸間の結熱を除く。

   味苦微寒。風寒湿痺を主り、熱を除き、目を明らかにし、熱利下重を治す。

 

水 銀 

提要  辛寒。毒あり。心を鎮め、風を除き、熱を解し、虫を殺し、金銀銅錫毒を制す。

 

水 蛭 

   血証を主治するなり。

提要  鹹苦。平。毒あり。悪血を逐い、積聚を破り、水道を利す。

   其の味腥く毒有り。故に能く血に走り、以て経閉を逐い、?血を決ひらくなり。

重徴  ?血、小腹満を主治す。兼ねて経水不利を治す。

   味鹹平。血?月閉を逐い、血癖、積聚を破るを主る。

 

清 酒 

提要  辛苦。大熱。毒有り。血を和し、気を行らし、神を壮し、寒を禦し、薬勢を行らす。

   味甘く辛く性大熱。寒に値て独り永らず、故に陽気を助け、血脈を通じ、百薬を行らすの能有り。

議   味甘辛。血脈を通じ、腸胃を厚くし、皮膚を潤し、湿気を散じ、風を除き、気を下し、薬勢を行らし、百邪、悪毒の気を殺す。

養生  虚証に用いて気をめぐらし、寒をふさぎ、薬勢をめぐらす。

壺中  まいう


青 皮 

増補  「味苦く辛く寒。足の厥陰肝、足の太陰脾の二経に入る。左脇の積気に」。私曰く、此の故に左脇痛に必ず用う。「胸と脇へ気さし詰め支えて痛むに、小腹の疝痛に、乳の腫れたるを消し、食を押し下す、肝胆の塞がるを瀉し、肺気をも瀉す」。私曰く、下すと心得るべし。但し偏に強き性なるによって、凡そ胸腹の間の滞気をよく去りて外へは廻りがたかるべし。委しくは口伝にあり。使うべき目付けは左の脇痛に同じく、積に必ず用うるべし。此の心は肝胆の経へよく行く故なり。古方には左右脇の痛み、五臓の積に通じて用いたぞ。

    (毒)「滞気なくして是を用いれば真気を損ず、脈虚して自汗あるに、老弱には斟酌すべし」。

 

石 膏 

増補  「味辛く甘く寒。手の太陰肺、足の陽明胃の二経に入る」。私曰く、書に微寒と云う説もあり、大寒と云う説もあり。微寒と云うは味を以て書きたり。大寒と云うは能を以て書いたぞ。当流には大寒の心にて恐るるなり。清法院などは微寒の心にて用う。尚口伝。「傷寒の甚だ頭痛して熱気盛んなるに」。私曰く、傷寒の頭痛して熱気ある事は常の事なり。率爾には用いるべからず。大熱して了見なくば用いるべし。陽明の発熱にも用いるべし。陽明の傷寒のは其の病門にて沙汰すべし。「陽明の経の頭痛に、日潮熱に」。私曰く、日は申の時なり。「大渇して湯水を飲むに、炎暑にあたって潮熱するによく汗を出す」。私曰く、此の薬は古人も甚だ吟味したり。丹渓は性軽き故にしいて恐れず。今心得るべきは、恐るべきには恐れ、恐れまじきには恐れるべからず。恐るべきとは一身熱ありとも胃の腑に熱なくは恐るべきなり。胃に熱ありとも胃の気弱くは恐るべきなり。恐るべからずとは胃の腑に熱有るを云うなり。此の時は多く用いても苦しからず。多く用いるべきに少し用いるも恐るるなり。ただ胃の熱に用いると目付けすべし。本経の諸能皆胃の熱なり。汗を出すと云うも、味辛く甘くして内熱を押し出す故なり。潮熱と云うに心得ようあり。熱のあるところ定めるを云うなり。是は胃の腑に定まって有る熱ぞ。

    (毒)「よく胃を冷やす故に人をして不食ならしむ。腹に大熱なくば軽く用いず。およそ諸病に脈の数、何としても退かずは此の薬を用うべし」。私曰く、後には諸熱腹に入る故になり。「胃弱くは用うべからず」。私曰く、腹に熱ありとも忌むべし。

薬選  傷風寒、時疫の大熱、口乾、大渇引飲、舌に黄白胎有り、皮膚熱くして火に燥すが如く、夏時の熱病、熱瘧、潮熱、狂証、胃熱口瘡、牙疼、咽痛を療ず。上気・目痛・耳鳴り・頭疼。

徴   煩渇を主治するなり。傍ら譫語、煩躁、身熱、頭痛、喘を治す。

提要  甘辛淡。大寒。心を寧し、肝を涼し、熱を清し、火を降し、津を生じ、渇を止める。

   其の体重く、鎮墜。性大寒。故に能く煩熱を逐い、胃中を清くし、燥渇を止め、或いは桂枝と同じく用いるときは、則ち裏熱を逐いて発表を致す。大青竜。白虎加桂枝の類、是なり。或いは桂枝無きときは、則ち唯だ下降を致して発表すること無し。麻杏甘石。越婢の類、是なり。前人は石膏は肌を解し汗を発すと謂うは非なり。尚麻杏甘石の証、以て徴すべし。

重徴  煩渇を主治するなり。兼ねて譫語、煩躁、身熱、頭痛、喘を治す。

議   味辛寒。中風寒熱、口乾舌焦を主り、大渇引飲、中暑潮熱、牙痛を止め、発斑、発疹の要品と為す。

 

川  

増補  「味辛く温。頭痛に」。私曰く、頭痛には其の品多けれども、何れの頭痛にも必ず用いるなり。気虚の頭痛には少し斟酌あるべきか。但し頭痛甚だしくは気虚なりとも補薬の内に少し加えて用うべし。「能く血を生ず」。私曰く、厥陰の経の本薬なり。「気を順らし欝気を散ず、冷えて痺れ筋引き攣るに、脳の内冷えて痛むに、頭の内の血滞るに、中風に」。私曰く、此の薬は気を散ずる事、風の塵を吹くに似たり。一薬を服まする事あるべからず。方の内にも常に多くは用うべからず。厥陰の経の本薬にして血を温むると心得て使うべし。

    (毒)「気の衰えたる人には頭痛ありとも、熱気強きに」。私曰く、熱気に忌めども、頭痛甚だしくは使う事あり。其の病に望んで分別すべし。かようの事はあらかじめ定め難し。諸薬皆同じ。

薬選  黴瘡、下疳、便毒、久?血、結毒、諸瘡、疥癬、癰疽を療ず。膿を排し、眼疾、結毒の頭痛、腰脚軟弱、手足筋攣、膿淋、血淋、婦人の血閉、胎衣下らず、難産・腹痛、生を催す、一切の黴毒、結滞、周身筋骨疼痛、諸患皆治す。宿血を破り新血を活かす。

提要  風湿脳に入り、頭疼寒痺を治し、血を補い燥を潤す。

   其の気味辛温芳烈。故に上は頭脳に達し、下は?血を破り、気血を順するの能有り。以て頭痛、腹痛、痛、経閉、諸瘡毒を療ず。

   味辛温。頭痛、金瘡、血閉、心腹堅痛、半身不随、鼻洪、吐血及び溺血を主り、膿を排し、気を行らし、鬱を開く。

養生  当帰と併用して虚証の血毒をとり、血を補い、燥を潤し、頭痛、寒痺を知す。

中薬  気を行らし鬱を開く、風を去り湿を燥かす、血を活かし止痛する、の効能がある。

    風冷による頭痛旋暈、脇や腹の疼痛、寒による筋の麻痺、無月経、難産、産後 阻塊痛、癰疽瘡瘍を治す。

李杲  頭痛には川を用いるべきであり、もし癒らなかったらそれぞれ引経薬を加える。

    太陽は活、陽明は白、少陽は柴胡、太陰は蒼朮、厥陰は呉茱萸、少陰は細辛である。

 

前 胡 

増補  「味甘く辛く少し苦く涼。肺・肝・脾・膀胱の四経に入る。傷寒の寒熱往来に、シワブキし喘息するに、胸に熱気ありて痰のつかえたるに、小児の疳の熱に、産前の腹中騒ぐに」。私曰く、此の薬はだいたい柴胡と能毒同じ。さりながら其の性、柴胡より軽し。道三の口伝書を見れば、柴胡を使う時は大略此の薬を用いられたり。性和らかなる故に小児の熱に必ず用いる薬なり、と理慶も申されたぞ。

    (毒)「冷えて痩せたる疳には」。

 

蝉 退 

漢薬  (7)麻疹で透発が不十分なときに用いる。蝉退は透発と清熱の効能があるので牛蒡子・薄荷などを配合して用いる。ただし、熱象が激しいときには、紫根・連翹などを配合した方がよい。

中薬  風熱を散らす、肺を宣らせる、痙を定める、の効能がある。外感風熱、咳嗽音唖(声が枯れる)、麻疹透発不快(発疹遅く内攻するもの)、風疹痒、小児驚癇、目赤、翳障(目のくもり)、疔瘡腫毒、破傷風を治す。

 

旋 覆 花  

増補  「鹹く温なり。手の太陰肺、手の陽明大腸に入る。膈上の痰に」。私曰く、水湿をよく行らす。故に痰自ずから消するぞ。「気の結びたるに」。私曰く、気を散ずるぞ。「頭目の風に」。私曰く、丹渓の曰く、旋覆花は走散の薬なりと。周身に走り散って風気を温散するぞ。

    (毒)「大腸冷利なるに」。私曰く、大腸冷利とは、冷えて腹の瀉することなり。この薬は能く気を下し大腸を通利する。故に大便瀉しやすきものには嫌うぞ。「病人虚証なるものに」。同意。

提要  苦辛。温。気を下し、水を行らし、痰を消し、噫を除く。

考   味苦収降。故に痞閉を開き、噫気を瀉するの能有り。

   味鹹温。結気、脇下満、驚悸を主り、水を除き、気を下し、嘔逆して食下らずを止め、噫気を治し、大腸を利し、血脈を通ず。

養生  気を下し、胃中の水毒をとり、血脈を通じ、おくびを除く。

中薬 痰を消す、気を下す、堅を軟らぜる、水を行らす、の効能がある。胸中の痰結、

    胸下の脹満、咳喘、逆、非常に粘りついた唾液の出る状態、心下部の痞、長期にいたる噫気、大腹の水腫を治す。

 

皀 角 刺  

提要  辛。温。癰疽、及び胎衣下らざるを主る。

 

皀 莢  

提要  辛。温。風を捜し、熱を泄らし、竅を通ず。

   味辛辣にして温散す。以て能く 逆上気、痿肺、涎沫を治す。

   味辛温。九竅を利し、嗽を除き、堅 を破り、関節を通じ、咽喉痺塞、中風口禁を治す。

 

蔵 紅 花(サフラン)

中薬  血を活かし?を化す、鬱を散らし結を開く、の効能がある。憂鬱病、胸苦しさ、吐血、熱病による発狂、恐怖恍惚、無月経、産後の鬱血による腹痛、打撲による腫れと痛みを治す。

 

葱 白  

提要  辛甘。温。上下の陽気を通じ、血を活かし、毒を解し、小便を利し、奔豚、疝気を治す。

   味辛く甘く大温。故に腹内を通暢し、五臓を滋補するの能有り。

議   味温平。気を通じ、血を止め、表に達し、裏を和し、小便を利し、霍乱、転筋、及び奔豚、脚気、心腹痛、目眩を治し、及び心迷悶を止む。

 

桑 白 皮  

増補  「味甘く辛く寒。手の太陰肺、足の太陰脾の二経に入る。肺中の熱に、肺中の水気に、水腫して腹腫れるに、唾の内に血混じり出る喘息に、肺を瀉し大小便を通ず」。私曰く、此の薬の使いようは、上焦の水腫、喘息にならでは使わぬものと理慶は申したぞ。一渓は面の腫れたるに必ず用いられ、ただこの三つの心にて用いらるべし。よく肺の内にある水気を去り、熱気をも去るものなり。

    (毒)「肺虚して小便しげき人に。この薬性甚だ偏なり、多く用いるべからず」。私曰く、古書に曰く、「甘きは補い、辛きは瀉す」と。この故に桑白皮は辛きを以て肺中の熱気を瀉し、甘きを以て元気を補う。補瀉兼用なれば、肺虚の人にも用うべしといえり。愚按ずるに、面腫れ、肺熱あらば虚証にも用うべし。この証無くして妄りに服せしめば元気を損なうべきなり。

提要  甘辛。寒。肺を瀉し、気を下し、水を行らし、嗽を止める。

考   其の味淡薄。故に能く肺気を降瀉し、水道を利し、以て嗽を止む。

養生  熱をとり、肺気を下し、水をめぐらし、せきを止める

中薬  肺を瀉ぎだし喘を平らかにする、水を行らし腫れを消す、の効能がある。肺熱喘咳、吐血、水腫、脚気、小便不利を治す。

 

続 断 

増補  「苦く微温なり。足の厥陰肝、足の少陰腎の二経に入る。血痢癒えざるに、血を調え、血を和するに」。私曰く、肝を血を蔵し、腎は精を蔵す。続断は肝腎二経に入りて精血を補い、筋骨を理す。「婦人崩漏止まざるに、金瘡血内に漏れ入りて痛むに、腰痛むに」。私曰く、腎に入りて精を補う故に腰痛を治す。

 

蘇 葉  

増補  「味辛く温。風寒の皮膚にあるに、風寒の頭痛に、肺欝の脈浮大にして咳嗽するに」。私曰く、欝は滞りの名なり。是肺の臓に風熱滞り、シワブキをなすなり。此の故に、表を発し気を引くの薬にて、欝を開き風を散ずるなり。大熱病に火欝湯を用いる心なり。其の心にてなくんば久咳に用いず。「気を巡らし、気を下し、喘息を鎮め、痰を消す」。私曰く、是皆気を巡らす能ある故ぞ。但風の心を兼ねずんば、此の証ありとも使い難し。またかようにはいえども風なくとも時によって紫蘇の力をかりる事多かるべし。口伝。「中を広くし胃を開いて食を進む。霍乱の吐逆に」。私曰く、これ皆中を開く能ある故ぞ。「脚気に、湿痺に、風湿を去るぞ」。按ずるに、此の薬は一つに発散して風寒を散じ、二つに気を巡らし、三つに中を調え、四つに湿を去る。其の中に風を散するを、表の能とすべし。いつも申す如く、表の能、裏の能と云う事あり。裏の能も時によって用いる事多けれども、先ず表を使うと思うべし。理慶の云うぞ、発散の薬多けれども、何れも人の虚証をおもはからねば使い難し。此の薬は一段使いよくて重宝ぞ。何となく汗させんと思うときは、紫蘇を使うべし。また食するときは胃の気開く故に皮膚も開くなり。此の時風寒に当たりて病む事多し。紫蘇を必ず用うべし。佐使に陳皮・桔梗の類なり。またむざと(わけもなく)気悪しく、咳気心のように覚える人をば、少し汗すればよいぞ。此の時も紫蘇を用いよ。故に四時の傷寒解利の通薬とするなり。

    (毒)「脈沈細にして自汗・盗汗あるに、中焦虚冷の人に」。私曰く、此の薬は中焦を冷やす性、強からねども散下の力強き故に、虚冷の人に用いれば腹を下して止め難きぞ。

紫蘇子 「味辛く温。気を下し塞がりを通ず、上気のシャックリに、喘息に、シワブキに、痰を消す、心肺を潤す」。私曰く、右の能は皆気を下すのかたより云うたぞ。「中を温む、霍乱嘔吐に、反胃に」。私曰く、此の能は中を温め気を下す内より出たり。按ずるに、此の薬は気を下す第一のものなり。是を表の能とす、目付けぞ。中を温むるは裏の能なり。

    (毒)「脾・肺の気かいなくして落ち入る人に」。

提要  辛。微に温。汗を発し、気を下し、魚毒を解す。子は肺を潤し、気を下し、喘咳を定め、腸胃を寛める。

   其の味微辛にして芳烈なり。故に逆気を下降し、鬱結を開発するの能有り。

   味辛温。気を下し、寒を除き、中を寛め、上気、逆を主どり、胃を開き、食を下し、魚蟹の毒を解す。

養生  気を下し、汗を発し、魚毒を解く。

 

大 黄 

増補  「味苦く大寒。脾胃・大腸・心・肝の五経に入る。何れの病にても実熱の内にこもり大便の通ぜざるに、心の下壅がりて悶えるに、腹中に宿食ありて消えかねるに、しぼり腹のとき内つまり大便通ぜざる腹痛に、潮熱ありて虚言云うに、?血を下し月水を通じ金瘡、或いは人に打たれ、或いは高き処より落ちて悪血内に入り苦しむ人に」。私曰く、此の薬の目付けは気血・痰食・積熱、其の外何にても腹中に滞りてあるとき、下さんと思はば必ず此の薬を用いよ。傷寒七、八日もして、そぞろ寒き事も無き、発熱ばかりあって大便通ぜざるには用いではかなわぬぞ。強き薬性なれば大方の事には斟酌すべし。上焦の?血を下すには酒に浸して用いるなり。

    (毒)「大便不通とも脈衰え遅きに」。私曰く、総じて此の薬は脈を以て使うべし。是習いの一つなり。沈にして洪大なるには道三の流には大黄の脈と云えり。「不食するに、吐逆に」。私曰く、此の薬ばかりに限らず、下し薬は吐逆さする事多し。きつく当たる故か。また丸薬の内に用いれば煎薬にして使う程はたたらぬものなり。

薬選  痢疾腹痛、裏急後重、傷寒時疫の潮熱、譫語、熱閉、腸間の結熱、一切の黴瘡、下疳、便毒、一身結毒、関節疼痛、膿淋、痔疾、疥瘡、癬瘡、瘡、諸悪瘡、発漏、余毒、黴毒、眼を犯して赤痛、小児口瘡、諸悪瘡、暴赤目痛、小便淋瀝、黄疸、傷食、結胸、腹痛、痞疝、宿食溜飲を療ず。老血留結、婦人の?血、血閉を下し、小児の遺毒頭瘡、壅滞を泄し、気妨を通ず、腸胃を蕩滌し、陳を推し新を致す。

徴   結毒を通利するを主るなり。故に能く胸満、腹満、腹痛及び便閉、小便不利を治す。傍ら発黄、?血、腫膿を治す。

重徴  結毒を通利するを主る。故に能く胸満、腹満、腹痛、大便不通、宿食、?血、腫膿を治す。兼ねて発黄、語、潮熱、小便不利を治す。

提要  苦。大寒。微毒走りて守らず、腸胃を蕩滌し、燥結を下し、?熱を除き、陳を推し新を致す。

考   気味苦寒。毒有り。故に能く大小腸間の実熱を蕩滌し、其の功、最も良将に比すべきや。

議   味苦寒。腸胃を蕩滌し、陳を推し、新を致し、大小便を利し、?血を下し、を破り、実熱を瀉す。

養生  実証の結毒を主治し、腹満腹痛、大便不通を治し、悪熱、潮熱をとり、血毒、腫膿をとり、発黄、小便が不利するものを治す。

 

大 戟  

増補  「苦く甘く大寒。毒あり。水腫蟲毒に」。私曰く、水腫はもと水湿の致す所なり。大戟は十二経に入りて水湿を瀉するものぞ。「乾嘔脇痛に」。私曰く、能く肝胆の気を瀉するによりて乾嘔脇痛に用いれば効を得るぞ。「痰涎に」。私曰く、痰はもと湿より生ず。湿は水より生ず。水・湿・気と火とを得て痰となる。水湿を利し火を瀉する故に痰自ずから消えるぞ。

    (毒)「脾胃弱きものに」。私曰く、大寒にして毒ある故なり。「真気衰えたるものに」。私曰く、元素の曰く、大戟は肺を瀉し真気を損ずと云えり。

徴   水を利するを主る。傍ら掣痛、咳煩を治す。

提要  苦寒。毒あり。臓府の水湿を瀉し、大小便を利す。

   気味苦く辛く毒有り。故に其の能、癖関を破り、二便を利し、以て痞、満痛、水飲等を療ず。

重徴  利水を通ずるを主る。

   味苦寒。十二の水腫満、急痛を主り、結を破る。

 

代 赭 石 

提要  苦。寒。陰血を養い、虚気衝逆を治す。

   其の体重くして沈降。故に能く驚動、及び逆気を鎮瀉して、以て噫気、反胃、吐血等を治す。

   味苦寒。腹中の邪気、女子の赤沃漏下を主り、五蔵血脈中の熱を除き、小児の驚癇、疳疾、反胃を治し、瀉痢、脱精を止む。

養生  虚気の衝逆を下し、血を止める。

 

大 棗 

徴   攣引強急を主治するなり。傍ら咳嗽、奔豚、煩躁、身疼脇痛、腹中痛を治す。

提要  甘。温。脾胃を滋し、心肺を潤し、百薬を和す。

   其の味甜く温、滋潤。故に専ら脾胃を保養し、駿薬を調和す。

重徴  攣引強急を主治する。故に能く胸脇引痛、咳逆上気、裏急腹痛を治す。兼ねて奔豚、煩躁、身疼、頚項強、涎沫を治す。

   味甘平。中を安じ、脾を養い、胃気を平にし、百薬を和し、心下懸痛を療じ、嗽を止める。

養生  牽引急迫を主治し、胸脇の引痛、咳逆、上気、ヒステリーの発作、腹痛、煩躁を治す。薬性を和し、薬力を身体に分布させる。

 

大 腹 皮  

増補  「微温。能く逆気を降し一切の気を下す、不食するに」。私曰く、気よりおこりて腹つかえ不食するを治するぞ、脾胃の虚を補うに非ず。敦阜するを平らげて胃を安じ脾を健やかにするなり。「心腹脹満に」。私曰く、丹渓の云く、性温にして脾胃有余の気を踈し通ず。「水気・浮腫に」。私曰く、大腹皮は湿を治する剤なり。故に肌膚の中の水気・浮腫を治するなり。

    (毒)「虚寒の人に」。

 

沢 瀉 

増補  「味甘く鹹く微寒。膀胱・腎・三焦・小腸の四経に入る。膀胱、三焦の滞りたる水を追い下す」。私曰く、此の薬は猪苓より和にして使いよいぞ。小便を快く通ずる事、是より優れたるはなしと思うべし。「湿熱をもらす、痰飲をめぐらす」。私曰く、痰も湿の類なる故ぞ。さりながら痰の療治は気を利する事を先とする程に小便の瀉薬を用いる事稀なり。但し事によりてよき療治とならん事もあらんぞ。「湿気によって身の痺れるに、乳の出難きに、五淋に、水腫に、脹満に」。私曰く、猪苓も此の薬も虚証の腫脹には斟酌すべし。但し補瀉の心ここに申すべし。

    療治の口伝にあり。「陰下濡れてしたるきに」。

    (毒)「久しく服する時は目を損なう」。私曰く、本草に此の薬は目を明らかにすと云えり。其の当座、小便をよく通じ、腎の熱毒を去るほどによきなり。久しく服すれば腎水を減らす故に目を損なう。

薬選  水道を宣通し停水を行利し、膀胱中留垢、消渇、淋瀝、腫脹を消し、溺瀝、腫脹を消し、溺を利す。水痞。

   小便不利、冒眩を主治するなり。傍ら渇を治す。

提要  甘淡、微に鹹。平。膀胱に入り小便を利し、湿熱を除き、消渇、嘔吐、瀉利を治す。

   味微に苦、淡。故に能く畜湿を逐い、水道を宜通するの功有り。

重徴  小便不利を主治す。故に支飲、冒眩を治す。傍ら吐渇、涎沫を治す。

   味甘寒。痞満、消渇、淋瀝、頭旋を除き、膀胱の熱を利し、尤も水を行らすに長ず。

養生  水毒を排除して冒眩を主治する。また小便の不利を治し、渇を止める。

    

丹 参 

中薬  血を活かし?を去る、神を安らげ心を寧んずる、膿を排しのける、止痛する、の効能がある。心絞痛、月経不順、月経痛、月経閉止、血崩、帯下、、積聚、?血腹痛、骨節疼痛、驚悸不眠、悪瘡腫毒を治す。

 

竹 茹 

増補  「味甘く微寒。能く胃の腑の熱を去る。吐逆に、咳逆に、小児の疳熱に、傷寒癒えてまた発るに、衄血に、婦人の胎動に」。私曰く、此の薬は竹葉より和らかにして胃の腑の熱気を主ると心得ればすむぞ。此の故に五★の熱気をさます。

    (毒)「竹葉と同じ」。

提要  甘。微寒。胃を開き、肺を清くし、心煩、嘔、吐衄血等を治す。

   味淡苦靖涼。故に能く痰火逆上を降瀉す。

   味甘寒。嘔、寒熱、肺痿、唾血、傷寒の労復を主る。

養生  虚熱をとり、逆気を下し、渇を止める。

 

竹 葉 

増補  「味辛く寒。胸中の痰熱に、上気に、頭痛に」。私曰く、上気頭痛ばかりになり。「狂気に、消渇に」。私曰く、此の薬は心熱に使うと心得るべし。胸いきり悶え、狂乱心となるに常に用いるなり。

    (毒)「胸冷えて痛むに」。胸に熱気ありとも痰熱の強からぬに。

提要  辛淡甘。寒。上焦の煩熱を除き、痰を消し、渇を止める。

   気味辛く僉く涼降。以て虚火上行、気逆等を治す。

   味苦平。逆上気を主り、煩熱を除き、痰を消し、渇を止め、嘔、吐血を治す。

養生  虚熱をとり、逆気を下す。

 

竹 瀝 

増補  「味甘く大寒。にわか中風に、胸中の大熱に、消渇に、風痰に、虚痰に、目を明らかにし九竅を通ず、虚したる人の大熱あるに殊に陰虚の人に」。丹渓は中風・虚熱・痰熱に必ず用いたぞ。また産後の熱に用いられしなり。纂要曰く、世間の人、大寒の二字を恐れて捨てて用いず、甚だ誤りなり。味甘き故に大寒にたたず。その上火にて炙りて取るものなれば、いよいよ大寒には有るべからず。本草に大寒と云わる心は、あまり熱気をさます故に甚だしるし多くして大寒と云いだせり。もし大寒ならば虚したる人には使われまいが、老人・虚人の大熱にことさらよしと言えるにて心得るべし。畢竟使う心持ちは、大熱の人にても、虚人などでは黄・黄連などの苦寒は使われず。また微寒の物にては熱さめがたし。何ともすべきようなき、特に使うなり。

    (毒)「味甘く微寒。能く胃の腑の熱を去る。吐逆に、咳逆に、小児の疳熱に、傷寒癒えてまた発るに、衄血に、婦人の胎動に」。私    曰く、此の薬は竹葉より和らかにして胃の腑の熱気を主ると心得ればすむぞ。此の故に五臓の熱気をさます。

 

地 骨 皮  

増補  「味苦く寒。足の少陰腎経に入る。腎風に」。私曰く、五臓ともに中風あり。是は腎の中風の薬なり。また古本に云わく、皮膚の内に風有りて所を定めず、身痺るると。畢竟ここの使いようは腎虚の人、中風を煩わば用いると心得るべし。「腎を補い、筋骨を堅くし、熱毒を消し、歯の痛みを治す、消渇を止め、陽事を増し、血を涼しくし、骨熱を去り、目を明にす」。私曰く、此の薬は腎水を増すものなりと心得るべし。故に疝家の要薬なり。本草、諸能あげて計らず。理慶などが平生用いるところは虚労の熱、久病の目晩    毎の発熱に今も是に習いて用いるなり。

    (毒)「極めて冷えたる人に」。

 

地 膚 子 

増補  「苦く寒なり。少陰腎、太陽膀胱に入る。小便不通に」。私曰く、膀胱に虚熱をたくわえて小便赤く渋って出難きに必ず用うるの薬なり。「中を補い精気を益す」。私曰く、衆病皆虚より起こりて熱多きものには地膚子・甘草を加えて妙に理を得るぞ。とかく此の薬は下焦の相火を瀉し、腎・膀胱を滋すとさえ目付けすればすむぞ。

    (毒)「膀胱虚寒して小便保ち難きに」。私曰く、能く小便を通利する故なり。「脾胃弱きものに」。私曰く、脾胃虚して弱きものに苦寒の剤を与えればいよいよ脾胃損するなり。

 

知 母  

増補  「味辛く苦く寒。足の少陰腎経に入る。腎水を増し、肺の火を瀉し、命門の相火の有餘を治す」。私曰く、命門は右尺なり。左腎の水、虚耗するによって相火盛んになるなり。「腎熱し小便黄赤に、傷寒または久しき瘧の煩熱に」。私曰く、傷寒も瘧も初めての熱には用いず。久しくなりて日暮時に潮熱さし、または夜熱気さし盗汗など出るに用うべし。「消渇、熱中に胎を鎮む、子煩を止むる、心煩し悶えるに」。按ずるに此の薬は陰火を消し、腎水を生ずるなり。此の故に労骨蒸の汗あると、陰中の熱には必ず用うべし。右の病証を考えてみよ、腎熱して小便黄なりと云い、胸いきり乱悶すると云い、煩渇と云い、骨蒸と云い、傷寒・瘧の陰分の熱と云い、皆是陰虚火動の証なり。また按ずるに陰分の虚ならば何の経にても使うべし。心熱にも肺熱にも胃熱にもよし。故に強く喉の乾く人には必ず用うべし。

    (毒)「久しく服すれば腹を下すぞ」。私曰く、脾胃にたたる故なり。「妄想を見、精の泄れやすきに、小便のしげきに」。私曰く、此の薬は小便をよく通ずる能ある故に忌むなり。また右の病証、脾胃によって生ずるもの多し。故に忌むなり。また虚冷より起こる人もあり。大いに忌むべし。若し右の証ありとも腎熱甚だしくは加薬して用うべし。但毒と云う心は用捨のかたをいえるなり。

提要  辛苦。寒。肺胃熱を瀉し、陰気を滋し、腎燥を潤し、消渇を治す。

薬選  嗽、傷風寒時疫の大熱、口燥き、舌胎あり、潮熱、夏時の熱病、熱瘧、胃熱口瘡、牙疼、心煩、妊煩、消渇、熱中、狂証を療ず。

   味苦甘。故に善く燥渇を潤し、熱結を清瀉する。

   味苦寒。消渇・熱中を主り、邪気を除き、熱結を療ず。亦瘧熱・煩患を主る。人虚して口乾くには加えて之を用う。

養生  煩熱をとり、枯燥を潤す。

漢薬  (2)虚熱、とくに午後になると生じる微熱に用いる。

    (3)遺精・夢精・性神経の興奮症状・喉痛・喉乾・腰や膝がだるく無力などの陰虚火旺の症状には、知母の鎮静作用を利用し、黄蘗を必ず配合して、例えば知蘗八味丸を用いる。知母と黄蘗を配合すると神経の鎮静と消炎の効果が強まる。    

    (5)陰虚火旺による口内炎・口腔潰瘍・咽喉炎には、玄参・生地黄を配合し、ときに露蜂房・甘草を加えて用いる。

    (6)口渇・多飲・煩熱などの肺胃の躁熱症状があるときに、天花粉・麦門冬などの生津薬を配合して用いる。

    (7)乾咳・嗄声・喉乾・盗汗・痰が少ないなどの肺陰虚の症状に、沙参・麦門冬・川貝母などを配合して用いる。

    使用上の注意 知母には「滑腸」の効能があるので、脾虚による泥状便には使用しない。

壷中  漢薬の(6)の「口渇・多飲・煩熱などの肺胃の躁熱症状」には石膏を配合する白虎湯であろう。天花粉や麦門冬の適応は「口渇」よりも「口乾」である。

    また知母には鎮静作用があるが、先哲で言明しているのは荒木正胤の「煩熱」だけである。漢薬の(3)も参考にすべし。

中薬  陰を滋し火を降ろす、燥を潤し腸をなめらかにする、の効能がある。煩熱消渇、骨蒸労熱、肺熱による咳嗽、大便の燥結、小便の不利を治す。

 

地 楡                          

増補  「苦く甘く酸く微寒なり。大腸・肝の二経に入る。下部積熱の血痢に」。私曰く、痢色白きは熱気分にあり、色赤きは熱血分にあり。地楡はもと下焦の血薬にして、酸は収め、寒は熱を治す。故に積熱の血痢を治するぞ。「婦人崩漏に」。私曰く、崩漏に虚あり、熱あり、何れも下焦血熱とさえ見れば有無に用いるぞ。

    (毒)「虚して寒たる人に、水瀉するものに」。私曰く、水瀉とは脾胃損傷して水ばかりたれるを云うぞ。かように脾胃損ねたるものには地楡に限らず、総じて寒薬は使わぬものぞ。

 

丁 香  

中薬  中を温める、腎を暖める、逆を降ろす、の効能がある。吃逆、嘔吐、反胃、瀉痢、心腹冷痛、痃癖、疝気、癬疾を治す。

 

猪 胆 

提要  苦寒。燥を潤し、目を明らかにし、肝胆の火を瀉し、醋を和し、穀道に潅ぎ、大便秘結を導く。

   味苦く涼。以て心胸を清くし、肝火を瀉す。質滑沢、能く燥を潤し、脈を通ず。又穀道中に潅ぎ、能く大便を通ず。

   大寒。骨蒸、労極、傷寒、渇疾、小児の五疳、殺虫を主る。

中薬  清熱する、燥を潤す、解毒する、の効能がある。熱病裏熱燥渇、便秘、黄疸、百日咳、哮喘、水様性下痢、痢疾、目赤、喉痺、耳だれ、癰腫疔瘡を治す。

 

猪 苓 

増補  「味甘く平。足の太陽膀胱経に入る。腫脹に、腹膨れ急に痛むに、湿を除く、子淋に」。私曰く、身持ちなる女の淋病の事なり。「胎腫に」。私曰く、懐妊の人の水腫を云うなり。目付けは小便を瀉する事甚だしきと知るべし。

    (毒)「久しく服すれば腎気を損ない目を眩ます」。

薬選  水道を利し、膀胱を疏し、渇を治め、腫脹を消し、淋疾、妊淋、妊腫。

   渇して小便不利を主治するなり。

提要  甘淡薄。質順降。故に善く水湿を燥し、膈間の水満を引き、尿道を通利す。

重徴  渇して小便不利を主治す。

議   味甘平。水道を利し、傷寒、温疫の大熱を解し、腫脹満を主り、渇を治し、湿を除く。

養生  渇し小便の不利を治す。

 

陳 皮 

増補  「味辛く苦く温。肺、肝、脾、胃の四経に入る。痰涎を去り、上気に、シワブキに、胃の気を開くに、水と五穀と一つに成るを分利す。表の風寒を散ず」。私曰く、この薬は気を散じ、腹中を和らげ、外より来る風寒をも散ずると心得て使うべし。この故に食ただり、吐逆、下り腹、欝気、また発散薬にはずされぬと見えたぞ。本草綱目には酒毒魚に酔いたるに、くさびらの毒に専用とあり、白身を去れば汗薬、気の方によし。白身を去らぬは腹中の方に使うべし。

    (毒)「自汗、盗汗に、肺虚にして脈沈細なるに」。

 

??(ていれき)  

増補  「辛く苦く寒なり。手の太陰肺、手の少陰心の二経に入る。上気・咳嗽に」。私曰く、辛きは肺に入り、苦く寒なるは火を瀉す。此の薬、下焦を泄らし、大いに気を降し、肺気の閉じ塞がりたるを瀉す。上気・咳嗽ともに肺の実邪なり。故に此の二証に於いてよろしきぞ。「水腫に」。私曰く、能く水を導き小便を通利すること尤も甚だ速やかなり。故に水腫に用いたぞ。とかく此の薬は大黄の類なり。大黄は血閉を洩らし、は気閉を洩らすぞ。大小便を通ずること、力もっとも劇し。もし此の薬を用いて相当せずんば、人を殺すこと甚だしからんぞ。「肺気喘促に」。私曰く、右上気・咳嗽に用いると同意。

    (毒)「大便泄れやすき人に、脾胃弱きもので肌肉痩せたる人に、病虚に属したるものに、精気衰えたるものに」。

   水病を主治するなり。傍ら肺癰、結胸を治す。

提要  辛苦。寒。責を破り、気を下し、水を利し、肺中の水気賁急する者には是に非ざれば除くこと能わず。

   味辛く苦し。故に能く痰喘、逆、水気を治す。

重徴  利水を通ずるを主る。

議   味辛寒。、積聚、結気、飲食、寒熱を主り、堅を破り、邪を逐い、水道を通利し、喘急を止める。

 

鉄 粉 

提要  辛。平。毒有り。心を鎮め、肝を平にし、驚を定め、狂を治す。

養生  動悸をしずめる。

 

田七 → 三七

 

天 南 星 

増補  「味苦く辛く平。手の太陰肺・足の太陰脾の二経に入る。上焦の痰を去り、気を下し、胸中を快くす、眩暈、驚癇に、喉痺に」私曰く、此の薬は上焦の痰を去ると云うを目付けにして用うるべし。諸能この心にてすむぞ。但し上焦の痰も燥証あらば忌むべし。風痰の本薬なり。湿痰に半夏、熱痰に黄?などと云うが如し。

    (毒)「懐妊の人に、燥証甚だしきに」。但し事によりて用うるべし。こしらえよう口伝。

長沢  鎮痛作用が大変強い。

 

天 麻  

増補  「辛く平なり。足の厥陰肝、足の少陰腎の二経に入る。風熱の眩暈に」。私曰く、肝は風を主り、その勢い熱を帯たり。眩暈も則ち肝木の証ぞ。天麻は厥陰肝経に入る故に、風熱の眩暈に用いるぞ。「腰膝力無きに」。私曰く、腰膝は腎の主る所、膀胱は腎の府なり。此の薬、腎に入り、兼ねて膀胱に入る。是故に用いたぞ。「筋力を強くす」。私曰く、肝は筋を主る故ぞ。

    (毒)「元気消耗したるものに」。私曰く、此の薬、味辛くして気を散ずる故に欝気の証には宜し。真気虚弱なるものには斟酌すべきぞ。但し口伝あり。

 

天 門 冬  

増補  「味苦く甘く大寒なり。手の太陰に入る。肺経の主薬。兼ねて少陰腎経に入る。肺気を保ち喘息を鎮むるに」。私曰く、肺は金に属して熱を恐るるぞ。たいてい喘息は肺の火邪より発る。天門の性、寒なるが故に肺を涼しくし、火邪を制するなり。「消渇を止めるに」。私曰く、消渇は津液燥いて三焦の火、盛んなる故なり。此の薬、味苦く甘く補益滋潤の剤にして腎を通ず。故に消渇を止めるぞ。「陰虚火動に」。私曰く、陰虚火動は真陰虚竭し相火動ずるなり。此の薬、肺に入りて腎家の母気を養う。故に腎水自ずから生ず。経に曰く、虚するものは其の母を補うと云えり。

    (毒)「脾胃虚弱にして泄瀉するものに」。私曰く、性寒なる故に、食たたりやすく、腹下るものには嫌うぞ。「湿痰あるものに」。私曰く、黒痩の人、痰火あるものには吉。肥白の人、湿痰多きものには忌む。

 

天 雄 

提要  味功附子に同じ。惟風寒湿を治し、之を附子に較ぶれば更に劇しきのみ。

   味甘温。筋骨を強くし、陰気を長じ、冷気虚損を補う。

 

桃 花 

提要  苦。平。宿水を下し、痰飲を除く。

 

冬 瓜 子 

提要  味甘平。肝を補い、目を明らかにし、腸癰を治す。

   味淡甘滑降。故に能く潤行を致して、以て大小便を通利す。

養生  腫瘍を破り、膿を排除する。

 

当 帰 

増補  「味辛く温。心・肝・脾の三経に入る。血を温め中を温む」。私曰く、およそ一身を温めると心得るべし。「痛みを止み」。私曰く、血さし痛むには是を用い、気のさし痛むには枳殻を用う。さりながら此の薬は十二経を温むる程に気血ともに用いても苦しからず。「肌肉を生じ、血を補う。女人の腰の痛みに」。私曰く、腰の痛みには男女ともに用う。「白血・長血に、脈遅くして手足冷えるに、当帰頭は血を止めて上行し、当帰尾は血を破りて下行す、当帰身は血を和らぐ」。私曰く、此の薬は血を調える第一の薬なり。朝夕手を放さぬぞ。辛温なる故に大方冷えたる人ばかりに用うべきようにみえたれども、血熱の煩にも地黄・犀角・牡丹皮などを加えるべし。血の滞りを破る時は馬鞭草・桃仁・紅花の輩と一つに用うべし。血を下さんと思う時は桃仁・大黄を加えるなり。血を上らさんと思う時は何にても上行の薬を加えるなり。産前産後に大方離さぬぞ。とにかく血を治するの本薬と心得るべし。また諸虚不足の人に用いるなり。口伝。

    (毒)「血熱して腫れ痛むに。脈大にして速きに」。但し温なる故ぞ。

薬選  血を和し、膿を排す。血を止め、滋潤す。目赤腫痛、婦人産後、悪血上衝、崩血漏下、瀝血を療ず。痘瘡内托。

提要  甘。温。血を補い、燥を潤し、内寒を散じ、諸瘡瘍を主る。

   味甘辛。気大温にして芳発。故に経脈を温達し、気血を調和するの能有り。古人はと同じく婦人産後、気血不足、腹痛及び癰疽    を療ずるに用う。膿を排し、痛みを止める。

   味甘温。 逆を上気、婦人の漏下、心腹の諸痛を主り、腸胃、筋骨、皮膚を潤し、中を温め、痛を止む。

養生  血を補い、裏寒を暖め、諸瘡瘍を治し、虚証の血毒を治す要薬。

壷中  軟便には注意する。

 

党 参 

中薬  中を補う、気を益す、津液を生じる、の効能がある。脾胃虚弱、気血両、体倦無力、食欲不振、口渇、久瀉、脱肛を治す。

 

燈 心 草  

増補  「甘く寒なり。五淋に」。私曰く、能く水道を通利するものなり。「水腫に」。私曰く、此の薬、心火を降し、気を通じ、水を導いて小便より出す故に水腫にも用いるぞ。

    (毒)「痩人火多きものに、小便繁きものに」。

 

桃 仁 

増補  「味苦く甘く平。足の厥陰肝、手の陽明大腸の二経に入る。?血に、血閉に」。私曰く、これも血の滞りたる事なり。「血塊に、胸の下堅きに」。私曰く、?血にてなくんば斟酌すべし。「大便の乾いて通ぜざるに、月水の滞りて腹痛むに、産後の悪血滞るに」。私曰く、悪血滞れば、しり腹(産後の腹痛)とて腹痛むものなり。必ず用うべし。按ずるに此の薬は腹中に血滞らば、何れの煩いにも用う。また老人、虚人、血乾いて大便通ぜざるに必ず用う。

    (毒)「?血なくば使わず」。

徴続  ?血、少腹満痛を主治す。故に兼ねて腸癰、及び婦人の経水不利を治す。

提要  苦甘。平。血を破り、燥を潤し、肝気を緩め、大腸を通ず。

   味苦く甘く。専ら血分を主る。其の能、腸中を潤し、大便を通じて、以て畜血、経水不利、大便秘結等を治す。

議   味苦平。?血、血の閉を主る。逆上気、疼痛を止め、大便を通潤する。

養生  血毒を駆り、月経を通じ、燥を潤す。

壷中  血の滞りを通ず。脂肪が多いので、枯燥した大便を潤す。軟便には注意する。

 

菟 絲 子  

増補  「甘く辛く温なり。足の少陰腎経に入る。腎虚精寒に」。私曰く、此の薬は専ら腎を温補す。然れども温にして燥かさず。また相火をも助けず、中和の剤なり。「腰膝冷え痛むに、茎中より寒精出るに」。私曰く、ともに是腎の臓、虚寒の証なり。とかく此の薬は腎を温補すると目付けして、腎の虚寒とさへ見付けたらば有無に用いたがよいぞ。附子・肉桂などのように相火を助くるものではないぞ。

 

杜 仲 

増補  「味辛く甘く平。足の少陰腎経に入る。腎虚して腰痛み背中ひきつるに」。私曰く、腎虚して腰痛と見ば必ず用うるなり。風湿の腰の痛みには別に君薬あるべし。「足膝痺れ痛んで地を踏む事ならざるに、陰下湿り痒きに、小便の頻りにかたきに」。私曰く、此の薬は腎精を補うと見えたり。此の故に補虚の方中に多くのせたぞ。但し地黄などの類には非ず。菟絲子の性味と同じかるべし。是に依りて丹渓は補腎の薬には用いずなり。畢竟は虚証の腰痛にさしづめの薬と思うべし。

    (毒)多く用いれば腹張りて小便を渋らかす。

 

独 活 

増補  性味能毒は大略活に同じ。足の少陰腎経、手の太陰肺経の薬なり。項強ばり痛むに必ず用いる薬ぞ。歯の痛みに用う。是は陽明の経へも行く故なり。金瘡の痛みに皮膚の風を去り、一身百節の痛みに、腰膝の痛みに身の痒きに。

薬選  風寒湿痺、頭項・頚腮・顔面・腰背・手足・筋骨・関筋、拘攣疼痛、一切の眼疾、赤痛、障翳、歴節痛痺、皮膚苦痒、痙疾を療ず。関に透り節を利ず。

提要  辛苦。平。伏風を駆逐し湿を除く。

   味苦く辛く、気芳烈。故に百節疼痛を透利し、諸風疾を散するの能有り。

議   味苦甘。諸中風湿、手足拘攣、遍身痺、酸疼 頭旋 目赤 頭項伸び難きを治す。

養生  風湿の毒を解散し、関節の痛みを除く。

漢薬  (1)風湿による疼痛に用いる。特に項背部の筋肉や下半身の関節の風湿で、背部腰部、或いは臀部・膝部のだるい痛みや両足の痺    れなどの症状があるときに適している。防風などで去風を強め、杜仲・桑寄生などで補益する。

    (2)頭痛に使用する。締め付けられるような頭痛・頭がぼんやりする・頭が張って重い・舌苔白膩・脈濡緩などの症状を呈する風寒湿の感冒に適している。活・本・蔓荊子を配合する。

    (使用上の注意)独活は温性であるから、盛夏には用いないほうがよい。高熱があって悪寒がないとき、陰虚で熱象があるときは使用してはならない。

中薬  風を去る、湿に勝つ、寒を散らす、止痛する、の効能がある。風寒湿痺、腰膝の酸痛、手脚の痙攣痛、慢性気管炎、頭痛、歯痛を治す。

 

人 参 

増補  「味甘く微温。手の太陰肺経に入る。何れの病にても気の尽きたる者には有無に用う。脾胃を温めて、胃の気を升ぼす故に中焦衰え気虚して升ぼり難く目の旋すに」。私曰く、目の旋う病、風より発るもあり、痰より発るもあり、其れには用いず、但気尽きて目の旋うに用う。「喉の燥きを止む」。私曰く、此の薬、温なる故に燥きを止めると云う義はなけれども、気虚すれば身の汁燥きて水を多く飲むものなり。其の時用いるぞ。常の喉の燥きには麦門冬・葛根・知母などの類を用う、人参は用いず。「神気虚し衰え、胸騒ぎするに」。私曰く、胸騒ぎする事、痰より発る者多し。其れには用いず、気虚し衰えたるばかりに用いるぞ。神とは魂の事なり。委しくは口伝あり。「胃の気虚を吐逆するに、久しき咳に、気虚し夢を多く見るに、咳久しからず者には必ず忌む。但気虚甚だしくは遣うべきか」。

    (毒)「腎精虚し、火動するに」。火動するとは上気し、血を吐き、衄血を出し、または労などの事なり。「血燥きたるに、痰多くつかえたるに」。私曰く、血燥き、痰つかえたれども、気虚甚だしきには用うべし。ことさら血多く吐きたる後には必ず用う。独参湯と云う方あるぞ。労にも自然用いる事あり。労には悪しけれども腹中を調うべしと思わば遣うべしか。口伝あり。

薬選  暴脱の元気を回復し、邪気を除き、消渇を止め、煩躁、傷食吐瀉厥逆、短気、少気、腹痛、自汗、津液を生じ、驚悸を止め、瘧疾を治し、中を調え、気を保つ、諸失血、産後諸虚、痘瘡、内托、大凡卒病の諸虚、唯参是掌。

   心下痞堅、痞、支結を主治するなり。傍ら不食、嘔吐、喜唾、心痛、腹痛、煩悸を治す。

提要  甘。微に寒。大いに元気を補い、津液を生じ、精神の安じ、血脈を通ず。

   気味甘く微に苦。温潤して餘味有り。故に能く津液を生じ、渇を潤し、陽を益し、虚羸を温補するの功有り。

重徴  心下痞、支結を主治す。兼ねて心胸停飲、嘔吐、不食、唾沫、心痛、腹痛、煩悸を治す。

   味甘温。微に苦。渇を止め、津液を生じ、能く諸薬の力を達する。

養生  虚を滋潤するにはオタネまたはヒゲを用い、実を瀉すには竹節を用いる。オタネは三焦の虚による心痛、心悸亢進、食思の不振、胃部のつかえ、嘔吐、下痢、腹痛を治す。竹節は胃熱を去り、心下部のつかえ、胃内の停水をとる。

 

忍 冬  

薬選  尿道を通利す。諸腫毒、黴瘡、疥癬、諸悪瘡の毒、淋疾。

 

敗 醤  

提要  苦。寒。欝熱を解し、宿血を破り、腸癰を治す。

考   味甘く苦く敗臭を帯ぶ。故に能く水を利し、腫れを消し、腸中の癰毒を治す。

 

貝 母 

増補  「味辛く苦く微寒。手の少陰心、手の太陰肺の二経に入る。咳嗽に、上気に」。私曰く、虚労の人の咳嗽上気によし、虚を去る故なり。また上気と云うなかに、喀血、吐血、痰中に血の混じりたって出る証をもこめて見るべし。是皆上気の病にして此の薬、これを主る。「喉痺に、乳の腫れたるに」。私曰く、何れ火欝の証なり、故に用う。「胸脇の逆気に」。私曰く、胸脇の下つかえ、或いは痛み上気するを云うなり。「煩熱して喉乾くに、痰を消し心肺を潤す」。按ずるに、此の薬は肺の労熱をよくさますなり。故に労のシワブキに、痰熱・吐血・喀血などに用う。またよく欝を開く薬なり。心胸の間に気にても、火にても欝せば用いよ。但し虚冷に忌むべし。

    (毒)「厚味をすごし湿痰昇りせむるには」。

六八  痰を消し、肺を潤し、熱を滌ぎ、心を清め、喘嗽、紅痰を療じ、胸中の欝結を療ず。

議   味辛平。傷寒煩熱、淋瀝、喉痺、嗽、上気、吐血、喀血、肺痿、肺癰を主り、腹中の結実、心下満、胸脇の逆気を療ず。

 

白 芥 子 

提要  辛温。気を利し、痰を豁き、胃を開き、中を緩む。

 

麦 芽 

増補  「味甘く温なり。食の滞りを消し中を和らぐ、冷気に、心腹脹満に、霍乱に、腹鳴に、胃を開き、積聚を破り、痰飲を去り、一切の米麺諸菓の食積を消す」。私曰く、此の薬も神曲の如く目付けして使うべし。五穀の積をよく消すると分別すべし。但し両種ともに水穀の要薬と心得るべし。

    (毒)水穀の滞りなくして久しく服すれば、人の正気を破るなり。総じて神曲は補の方多きく、此の薬は瀉の方多しと心得て使い分けるべし。神曲は胎動に用うる、此の薬は却って懐妊の人に忌むなり。

提要  鹹。温。胃を開き、気を行らし、一切の米麪食積を化す。

養生  乳を断つ殊効あり。

 

白 酒 

議   色白く、上は胸中に通じ、薬力を佐けて、上行を極めて下らしむる。

提要  ?を散じ、毒を解し、気を下し、治を斂め、癰腫を消す。

   味甘く辛く性大温。故に脾胃を養い、血脈に和して、以て潤暢を致す。

 

白 頭 翁  

   熱利、下重を主治するなり。

提要  苦。寒。血を涼し、熱利を治す。

   味淡苦、辛辣、毒有り。故に其の効用、専ら腸癖、毒痛を攻む。

   味苦温。血を逐い、痛みを止め、毒痢を療ず。

 

麦 門 冬 

増補  「味甘く微寒。心・肺の二経に入る。肺中の伏火を去る」。私曰く、伏火とは熱気久しく滞り、内にこもるを云うなり。「喉の乾くに」。私曰く、甘く寒なる故に、虚労の人の喉の乾くに。「シワブキを止む」。私曰く、痰出難き、喉乾きたる人のシワブキによし。冷えたる人には忌む。「身の潤い枯れ、乾いて声の枯れるに、肺痿とて膿を吐くに、心気の不足を補い、心熱を去り、血の乱れ狂うに、脈の切れるに」。私曰く、心熱甚だしくして脈の切れるによし。冷えて脈の切れるには肉桂・当帰よし。此の薬は悪し。「面目手足腫れるに」。私曰く、心熱より腫れるによし。風水の腫れには忌むべし。「精の泄れやすきに、形痩せて気短きに地黄と同じく用いれば、十二経を潤し血を増し脈を生じ陰を強くし精を益し目を明らかにし神をたもつと云えり」。私曰く、此の薬は肺中の熱気をさます本薬にして、また能く心熱を去り腎水をも増し、身の燥きたるを潤すと心得て使うべし。ことに上焦の乾きたるによし。また心肺の熱気を去る故に乾きたると見ば気血共に用うべし。

    (毒)「冷えたる人に」。私曰く、喉乾くとも腹など下すれば斟酌すべし。其の時は葛根を用いてよし。

提要  甘微に苦。寒。心を清め、肺を潤し、熱を除き、咳を定め、嗽を止める。

   味淡甘。質滋潤涼降。故に能く胃中を補い、逆気、上衝を降瀉す。

   味甘平。心腹の結気、胃絡の脈絶ち、羸痩、短気、客熱、口乾燥渇を主り、嘔吐を止め、痰飲を下し、肺痿、吐膿を治す。

養生  熱を瀉し、枯燥を潤し、せきを止め、気逆を下す。

綱目  気弱胃寒の者は絶対に飲んではならない。(本草綱目)

 

柏 葉 

提要  苦。微寒。陰を補い、一切の血証を治す。

   気味苦く芳降。故に其の能、滑脱を固有し、吐血、衄血を止む。

 

巴 豆 

増補  「辛く熱なり。大毒あり。足の太陰脾、足の陽明胃、手の陽明大腸の三経に入る。堅積を破る」。私曰く、巴豆は斬関奪門の将とて、殊の外劇しきものぞ。鉄石をも突きぬく程のものなり。是の故に堅積を削るに用いるぞ。「臓腑の沈寒に」。私曰く、薬性辛熱なる故なり。「月経通ぜざるに」。私曰く、悪血を破るに依りてぞ。「大便不通に」。私曰く、巴豆は宣通することを主る故に、塞がりたるを能く通ずるものぞ。大便通ぜざるものに能く薬毒を製して与えれば、其の効、神の如きぞ。もし相当せざれば害を為すことも大なるぞ。また巴豆を以て泄瀉を止めることもあるぞ。是は通因通用の意なり。とかく辛熱にして毒ある故に、同じくは斟酌したがよいぞ。

    (毒)「懐妊の婦人に」。私曰く、胎を堕とすものなるによりてなり。「気虚するものに」。私曰く、薬性劇しき故に真気を損するぞ。「脾気破るること久しきものに、体弱きものに」。

徴   心腹胸膈の毒を主治す。故に兼ねて心腹卒痛、脹満吐膿を治す。

提要  辛。熱。大毒有り。大燥大瀉。竅を開き、滞を宣ねし、蔵府沈寒、癖積を去る。

   味辛辣、大熱にして毒有り。故に其の能、痞閉を破り、腸胃中の癖毒を蕩滌す。或いは肌膚に貼するときは、則ち悪肉瘡毒を去る。    其れ善く用いる者は人を活かす。善く用いざる者は人を害す。詳らかにせざるべからずなり。用いる時、皮を去り、研り泥と為す。服する者、須く冷物を忌むべし。或いは吐利に苦しむ者は冷水、及び冷粥を飲むときは、則ち立ちどころに止む。

   味辛温。結聚、堅積、溜飲、痰癖、大腹水脹を破り、閉塞を開通し、水穀道を利し、悪瘡臭肉、及び疥癬、丁腫、喉痺、牙痛を治す。

養生  心腹胸膈の毒をはげしく追いはらう。

 

薄 荷 

増補  「味辛く涼。頭目を清くする、風熱を除く、咽の内を利す、にわかなる傷寒に汗を発す、脳風の頭痛に、小児風痰に」。私曰く、小児の痰にもっともよし。古方に多く入れたぞ。さりながら咽の内少しくつろがば早く去るべし。按ずるに頭目を清利する事、茶に同じ。力に強弱あるのみ。此の故に頭上風熱の病に用う。但し多くは用いず。発散の強き薬なれば荊芥の心なり。傷寒にも常に用いず、古方に随って用うべし。然れども古方を用いるときは細かに薬性の吟味なくとも苦しからずと云うではまったくないぞ。羅先生の相伝、丹渓の局方発揮をよく究めて知るべし。なお口伝あり。

   (毒)「病後に、脈沈に、自汗に」。

六八  風熱を去り、頭目を清くし、気を下すが此の分の主能なり。それで頭痛、咽痛に用いる薬なり。

提要  辛、涼、風熱を消散し、頭目を清し、咽喉病を治す。

漢薬  (1)外感風熱(感冒・上気道炎など)に用いる。発汗・解表の補助薬として、特に頭痛・目の充血・咽喉の腫脹疼痛などの症状に適し、解表する以外に、炎症のある咽喉粘膜の血管を収縮して腫脹・疼痛をやわらげる。荊芥・防風、或いは桔梗・甘草などを配合して用いる。

    (2)他の解表薬の透疹作用を助ける。麻疹の初期で疹の透発が遅いときに、升麻・葛根・蝉退などを配合して用いる。

    (3)夏期の熱射病による頭のふらつく・発熱・口渇・尿が濃いなどの症状に用いる。外感風熱に対しては、石膏・甘草を配合し、例えば鶏蘇散を使用する。

    (4)薄荷油は知覚神経の末梢に作用して麻痺させるので、外用すると止痛・止痒の効果がある。

    (使用上の注意)肺虚の咳嗽・陰虚の発熱には使用すべきではない。乳汁分泌低下の副作用があるので、一般に授乳中の婦人には用いてはならない。

 

蜂 蜜 

徴続  結毒急痛を主治するなり。兼ねて諸薬の毒を助けるを治す。

   其の味甘美にして滋潤。故に能く燥渇を止め、胃中を益し、虚弱を補い、攻撃の薬を調和す。

   味甘平。痛みを止め、毒を解し、衆病を除き、百薬を和す。

養生  精を強くし、急をゆるめ、中焦を補う。

壺中  乳児には使わない。

 

半 夏

増補  「味辛く苦く微温。手の太陰肺、足の太陰脾、陽明胃の三経に入る。胸腹の間に痰熱満ちつかえたるに」。私曰く、痰熱と云うは痰のつかえたるとき熱の生ずるを云うなり。其の熱気には温散ならでは散らぬなり、故に半夏を用う。また熱痰と云うは変わりだぞ。痰滞る事久しくして吐けども出難く、呑めども入り難く、ただ喉の間につかえたるを云う。其れには忌むなり。似たるようにて格別変わりだぞ。畢竟湿痰に宜しく、燥痰に忌むと心得るべし。「シワブキに、上気に」。私曰く、痰なくしてシワブキし、上気するには否なり。さりながら胸中の気を温め散らさんと思う時に二三服は使うべし。「心下の急痛に」。私曰く、心下の急に痛む事、或いは痰より起こり、或いは飲より起こり、寒より起こる事多し。其の時は陳皮・呉茱萸などと同じ心にて使うに妙なり。ただ熱より発る痛みにばかり忌むぞ。ただ心腹の痛みはいつも口伝する如く大体まず温めたるがよき手立てなる。まま熱の痛みにも此の薬に呉茱萸・黄連を佐使にして用うべし。尚口伝にあり。「吐逆するに」。私曰く、吐逆の発る事久しきは知らず、とうざ発るは大略痰も飲も胃の腑の不火冷気なり。此の薬、胃を調え痰を去る温散なる故に、陳皮・生姜と同じ心にて使うぞ。甚だ効あり。胃の気を和け開く。脾の湿気を乾かす。「痰せめ上がって頭痛するに」。私曰く、東垣の云く、痰責め上がる頭痛には此の薬に非ずんば去り難し、と云えり。必ず用うべし。「胸の寒を除く」。私曰く、此の薬は湿痰を乾かし散らすを第一にして胸をよく温めるを目付けになし、餘の能を考えて使うべし。

    (毒)「労痰に」。私曰く、労痰とは欝熱久しくして乾ける痰を云うなり。必ず忌むべし。去りながら痰責め上がる事甚だしくは労痰なりとも、天門冬・括楼根などと同じく用いる事もあり、但し久しくは用うべからず。是もまたいつもの臨機応変を用うなり。「失血に」。私曰く、理慶なども殊の外、乾かす剤とて常に使わず。誠に血性無き人には大半に忌むべし。去りながら今常に捨てて使わぬにてはないぞ。二陳湯に入るほどに今は日用の薬とするなり。

薬選  胃を開き、痰を消し、気を下し、結を散じ、乾嘔を止め、音声を発し、嗽、上気、咽喉腫痛、心下堅痞、吐食飜胃を療ず。胸膈中の痞脹痰満を除く。

片玉  痰を消し、湿を燥し、胃を開き、脾を健にし、逆、嘔吐を除く。

六八  貝母は肺の燥痰を治し、半夏は脾胃の湿痰を治するなり。

   痰飲、嘔吐を主治するなり。傍ら心痛、逆満、咽中痛、咳悸、腹中雷鳴を治す。

提要  辛。温。小毒有り。湿痰の主薬と為す。水飲を利し、逆気を下し、嘔吐を止める。

   其の味、毒有り。湿滑降。故に能く水気を瀉し、咽喉を利し、以て逆、嘔吐を除く。

重徴  痰飲、嘔吐を主治す。兼ねて心痛、逆満、腹中雷鳴、咽痛、咳悸を治す。

   味辛平。気を下し、胃を開き、痰涎を消し、嘔吐を止め、逆、咽喉の腫痛を主る。

養生  悪心して吐くものを治す。また胃内の停水、腹中雷鳴、咽の腫痛、咳の出るものを治す。

中薬  湿を燥し痰を化す、逆を降ろし嘔吐を止める、痞を消し結を散らす、の効能がある。湿痰冷飲嘔吐、反胃、咳喘痰多、胸膈脹満、痰厥頭痛、頭暈不眠を治す。外用すれば癰腫を消す。

 

半 枝 蓮 

中薬  清熱する、解毒する、?を散らす、止血する、痛みを定める、の効能がある。吐血、鼻出血、血淋、赤痢、黄疸、喉痛、肺癰、疔、瘰癧、瘡毒、癌腫、打撲傷、刀傷、ヘビによる咬傷を治す。

 

礬 石 

提要  酸鹹。寒。湿を燥し、痰を逐い、涎を下し、毒を解す。

考   其の味酸澀。性収斂。故に能く洩利、及び虚脱を固める。専ら湿淫を燥し、煩熱を解し、以て陰痒、毒瘡、眼疾にて涙多き者を洗うべし。

議   味酸鹹。風を除き、痰を消し、渇を止め、毒を解し、湿を燥し、痛を定め、白沃、陰蝕、悪瘡、目痛を主る。

 

菎 麻 子  

提要  辛甘平。毒あり。竅を通じ、毒を抜き、?を下し、水を利す。

 

白  ?(ビャクシ)

増補  「味辛く温。肺・脾・胃の三経に入る。風邪を去る。婦人の血の道に、頭痛し目の眩うに」。私曰く、是は血風とて栄血に風ある故なり。もし風邪もなく気血虚損ならば斟酌あるべし。「頭風して涙出るに」。私曰く、脳中に風邪ある故に涙出るなり。「腸風に、痔に、皮膚乾いて痒く痺るるに、?血を破り新血を補う」。私曰く、血を破りて血を生ずると云う薬はこれに限らず、皆血を破るかたばかりと心得るべし。気薬も此の如し。然るを補うと云うは古き血滞あれば新しき血生ぜぬ程にぞ。婦人の長血に赤白ともに用う。「月水の来たらずに、婦人の血を小便に出し腰の痛むに、陽明の頭痛に」。私曰く、眉の真ん中通りの痛むを云うなり。必ず用うべし。「乳癰に」。私曰く、乳癰とは世俗に乳風と云うなり。乳大いに腫れて痛む病なり。丹渓曰く、乳房は陽明なり、此の故に此の薬を使うぞ。「顔面皮膚の風に」。私曰く、是も陽明の経の通る処なり。「背中の瘧に」。私曰く、血風を去る故に用いるぞ。「痛みを止め、膿を払い、肉を生ず。難産に」。私曰く、目付けは血風をよく去るとみて、婦人の血の道に風邪あらば使え。血を破り散らすものと知って、婦人の諸の血の滞り、または腫物の実証に用いよ。陽明の本薬、太陰の引剤なれば二経の病には大抵皆加うべし。尚口伝あり。

    (毒)「頭痛すと云うども関脈実数に、吐逆する人に」。私曰く、此の二つの忌むは脾・胃経の熱には悪き故なり。また私曰く、血中の風薬なれば川と其の証似たり。気虚に忌むべし。

漢薬  (1)感冒頭痛に使用する。とくに前額部の痛みに適し、活・防風を配合すると効果が強まる。産前産後の感冒頭痛にも適し、川を配合して使用する。

    (2)風熱による鼻梁骨痛と圧痛に、黄を配合して用いる。

    (3)副鼻腔炎による頭部の脹ったような痛みに補助薬として用い、辛夷・蒼耳子などを配合する。

中薬  風を去る、湿を燥かす、腫れを消す、止痛する、の効能がある。頭痛、眉稜骨痛、歯痛、鼻淵、寒湿腹痛、腸風痔瘻、赤白帯下、癰疽瘡瘍、皮膚燥痒、疥癬を治す。

 

白 花 蛇 舌 草 

中薬  清熱する、湿を利す、解毒する、の効能がある。肺熱喘咳、扁桃炎、咽喉炎、虫垂炎、痢疾、黄疸、盆腔炎、附件炎、癰腫疔瘡、毒蛇による咬傷を治す。

 

檳 榔 子

増補  「味辛く苦く温。手の陽明大腸・足の陽明胃の二経に入る。五穀を消し、水を去り、痰の積を除き、三虫・寸白を殺す、気を下し、身節の滞りを通じ、九竅を利す、腹の張るに、腎積に、膈気に、心腹の痛みに、脚気に、瘧に、痰気の喘急に、大小便秘結するに、後重を治すること神の如し」。私曰く、此の薬は何にてもあれ腹膈の滞りをおし下し、諸薬を引いて下行す。大便を瀉す、虫を殺し、気を下すと心得て用うるべし。此の故に道三家に大黄を用うると思うには、用捨の心にて先ず檳榔子・枳殻・厚朴を用うるなり。諸能、此の心にてすむぞ。

    (毒)「滞りたる気の無き人に用うれば胸中至高の真気を傷るなり。

    

白 通 

提要  鹹寒。能く肺火を引き下行す。陰を滋し、?を清め、吐衄血を治す。

議   味鹹涼。肌膚心肺を潤し、血悶、熱狂撲損、?血、運絶、吐血、鼻洪を療ず。

 

蝮 蛇  

提要  甘温。毒あり。諸悪瘡、五痔、瘰癧、及び半身枯死、手足頑痺等、臓腑間の重疾を治す。

中薬  風を去る、毒の攻める、の効能がある。麻風(癩病)、癩疾、皮膚の頑痺(硬いしびれ)、瘰癧、痔疾を治す。

    

茯 苓 

増補  「味甘く淡平。肺・脾・小腸の三経に入る」。私曰く、微寒に行くべきか。「能く小腸を通ず」。私曰く、此の薬も腹中を調え小便を通ずる故に、下り腹、霍乱などに大略白朮と同じく用うると見えたり。また気をも生ずる故に、四君子湯に入りたぞ。「胸騒ぎに」。私曰く、痰または水より発りたる胸騒ぎにもよし。心虚して胸騒ぎするに猶よし。「痰を能く去り熱気を小便より去る」。私曰く、此の薬は小便を能く通ずるほどに湿気の煩いには何れにも用う。腹中を調え気を生ずる故に霍乱、吐逆、気虚の人には絶えず用いると心得るべし。

(茯神) 「性味能毒だいたい茯苓に同じ。変わるところは神気を調える事、茯苓より益したると知るべし。故に一物に驚きやすき人に、胸騒ぎに、物忘れするに、夢を多く見るに」。

    (毒)「多く汗の出る人に、小便のしげきに、強く目のかすむ人に」。私曰く、茯苓に細き筋あり、よく水飛して除けざれば人を盲目にすると云えり、慎むべし。茯苓と茯神との見分けようは、中に芯のあるを茯神とするなり。

薬選  元気を順導し、水道を通暢し、消渇を止め、停水を逐い、胎を安じ、泄を止め、津液を生じ、尿を利し、心下悸、淋疾、水腫。

   悸及び肉を主治するなり。傍ら小便不利、頭眩、煩躁を治す。

提要  甘淡。平。脾を益し、湿を除き、心を補い、水を行らし、魂を安じ、神を養う。

   気味甘淡。質潤降。故に能く津液を生じ、消渇を止め、また能く痰飲、宿水、嘔逆、煩満等を瀉す。

重徴  水を利するを主る。故に能く停水、宿水、小便不利、眩悸、動を治す。兼ねて煩躁、嘔渇、下利、咳、短気を治す。

   味甘平。胸脇逆気、恐悸、心下結痛、煩満を主り、小便を利し、消渇を止め、胃を開き、瀉を止める。

養生  利水を主り、胃内停水、小便不利、眩暈、心悸、小便瀕数、減少、筋肉の間代性痙攣を治す。魂を安らかにし、神を養う霊薬。

 

附 子 

増補  「味辛く甘し。大熱栄衛虚したる上ににわかに風湿を感じ、経絡巡らず手足も不随し、神ほれぼれとなって目は明きながら人を見れる事能わざるに、本薬の内に少しこれを加えて用うべし。中風には四物湯が本薬なり、附子を加えるべし。気虚の中風には四君子湯なり。其の時も附子を少し加えるぞ。加える心持ちは本薬の力を強くして十二経を巡らさんがためなり。冷えて痰ある人に」。私曰く、手足も冷え目を回しなどするほどに甚だしくは用いよ。大方のは生姜・肉桂などにてあしらいて此の薬は斟酌すべし。「気厥に」。私曰く、此の煩いは手足冷えて、にわかに倒れ人を見知らぬものなり。卒中風に似たぞ。「癲癇に、驚風に、腹中冷えて痛むに、中寒に」。私曰く、此の煩いは冷えて大寒の気を感じ、一身すくみ口つぐみ色青くなるものなり。風湿にあたり身すくみ痺るるに、難産日久しくして中寒を陰戸に引きこみて手足冷え上り死せんとする時に、肉桂・当帰の類と是を用いよ。「冷えて胞衣の下りざるに、冷えより発りたる瘧に」。私曰く、大方ならば斟酌すべし。「胃の腑冷えてシャックリするに」。私曰く、此の薬の目付けはにわかなる煩いの経絡を巡らさんと思うときか、または気衰えたる人には人参・黄耆、血の衰えたる人には当帰・川など用いても即時にしるし有り難く思わば、必ず此の薬を加えるべし。加えれば諸薬の力盛んになりて速やかにしるし有るものなり。または冷えたる人を温めんと思うとき使うべし。大方ならば斟酌す。

    (毒)「熱気ありて脈洪大にして数なるに」。私曰く、委しくは口伝あり。総じて大毒ある薬と心得るべし。「懐姙の人に忌む」。右の口伝と云うたは、熱気に忌むと云うたれども、詰まりたる病に薬の性を強くせんときは脈にも熱気にもかまわず使うぞ。したほどに大方の事には使わぬと云うたぞ。

薬選  中寒、中湿、胃泄、膝痛、脚痺、傷食、吐瀉、厥逆、手足拘攣、久冷痢湿を療ず。中を温め、月閉を治す。乾姜と善く脱せんと欲する気を回す。大力勇走、能く全躯を運らす。心下の痞塞を衝開し、虚汗を止める。胃反。

   水を逐うを主るなり。故に能く悪寒、身体、四肢及び骨節の疼痛、或いは沈重、或いは不仁、或いは厥冷を治す。傍ら腹痛、失精、下利を治す。

提要  辛甘。大熱。大毒有り。陽を回らし、経を温め、風寒湿を逐い、能く補薬を引き、不足の気血を復す。

   (烏頭)気味辛辣、大熱。故に裏中を速く走り、寒淫を逐い、疝痛を温導するの能有り。寒疝臍を遶りて痛む、腹中絞痛、身疼痛等を治す所以なり。

    (附子)気味辛く大温。故に経脈を温め、気血を通じ、以て痿癖及び骨節疼痛、手足厥冷等を療ず。

重徴  水を逐うを主る。故に悪寒、腹痛、厥冷、失精、不仁、身体骨節疼痛、四肢沈重、疼痛を治す。兼ねて下利、小便不利、胸痺、癰膿を治す。

   味辛温。中を温め、寒を逐い、虚を補い、壅を散じ、肌骨を堅め、厥冷を治し、百薬の長と為す。

養生  陽をめぐらし、風、寒、湿を追うので、身体の麻痺、厥冷、下痢、失精などに用いる。

 

文 蛤 

   其の味淡鹹。質沈降潤滑。故に能く熱を清くし、逆を除き、胃を開き、渇を止め、小便を利す。

   味鹹平。能く煩渇を止め、小便を利し、痰を化し、堅を軟らぐ。

 

防 已 

増補  「味辛く苦寒。十二経に入る。水腫・風腫に、中風に」。私曰く、風ならば用いよ。常には用いず。古方によらばまた用うべし。「手足の引き攣るに、湿熱の脚気に」。私曰く、湿熱のある脚気は必ず腫れ痛むなり、指図して用いるぞ。「腰より下腫れ痛むに、九竅を通ず。二便を通ず」。私曰く、とりわけ小便を通ずる薬なり。「十二経を通ず」。私曰く、下焦の湿気、経絡中に乱れ入りて塞がるときには用うべし。常の血虚等には斟酌すべし。按ずるに此の薬は下焦の湿熱を去ると目付けすればすむぞ。右の証、皆湿熱なり。また硫黄の毒を消す。

    (毒)「小便の繁きに、腰より下の細く痩せたる人に」。

六八  腰以下、足に至り、血分、湿熱、腫疼、脚気を主る、と云う。

   水を治めるを主るなり。

提要  辛苦。平。下焦の湿熱を除き、二便を利す。

   其の味苦く涼。故に能く尿道を瀉して、以て支飲、喘満、水腫等、当に消散す。

重徴  水を治めるを主る。

   味辛平。邪を除き、大小便を利し、理を通じ、癰腫、悪結を散じ、脚気を洩らし、血水の湿熱を瀉し、風水気を療ずるの要薬なり。

養生  水毒があってせき、または湿毒のために関節不利を治す。

 

芒 硝 

徴   堅をぐことを主るなり。故に能く心下痞堅、心下石、小腹急結、結胸、燥屎、大便を治す。傍ら宿食、腹満、小腹腫痞等の諸般の難解の毒を治す。

提要  辛鹹苦寒。燥を潤し、堅を軟らげ、腸胃の実熱を蕩滌す。

   味鹹く微に苦く。質潤降。故に能く燥を潤し、専ら腸胃中の熱結を消す。大黄と同じく用いるときは、則ち熱実、腹満痛、大便難等を治す。

重徴  堅をぐことを主る。故に結胸、心下石、硬満、燥屎、大便、宿食、腹満、小腹急結、堅痛、腫痞等、諸般の解し難き毒を治し、    傍ら潮熱、語、?血、黄疸、小便不利を治す。

   味辛苦大寒。五蔵の積聚、久熱胃閉を主り、邪気を除き、留血を破り、大小便を利す。

養生  堅をやわらげ、実を瀉す。そのため心下の堅満、腹満、宿便、少腹の急結を去り、小便を利す。

 

虻 虫 

徴続  ?血、少腹満を主治す。兼ねて発狂、熱喜忘、及び婦人の経水不利を治す。

提要  苦。平。毒有り。?血を下し、眼赤疼痛を治す。

   味微に苦。毒あり。故に血を散ずること至高に在り。而して能く経閉を通ず。

   味苦寒。?血を逐い、積聚、堅痞、、寒熱を破り、血脈、及び九竅を通利し、賊血胸腹五臓に在る者を除くを主る。

 

鼈 甲 

増補  「味鹹平。手の太陰肺、足の太陰脾の二経に入る。心腹の血塊に、瘧母に」。私曰く、久しき瘧には大略左の脇に積聚出来するものなり。これを瘧母と云う。此れ瘧便々と(長々と)して癒えがたし。必ず此の薬を用いよ。また瘧母なくとも久しき瘧の何とも癒えがたきには用いるなり。「労の痩せ衰えて寒熱往来するに」。私曰く、此の病をば骨蒸と云いて、骨の間に熱の篭もる病なり。「婦人の長血、白血、五色ともに経脈の通ぜざるに、産後の陰脱に」。私曰く、此の薬は熱気筋骨の間に篭もりて寒熱往来するを退け、五臓の積聚、肝胆の積を去ると目付けすべし。

    (毒)「胎を落とす」。

 

防 風 

増補  「味甘く辛温。手の太陰肺経に入る。上焦の風邪に」。私曰く、此の薬は純陽にて上行する故に、先ず上焦の風邪にと云えり。ただ一身の風邪を去ると心得て使うべし。是、風薬の第一なり。「肺気の実に」。私曰く、肺気の実とは風邪指して云うなり。肺に風邪あれば、頭痛し肩背痛み、息なども荒く、鼻も塞がるものなり。「風寒に頭、眩めき痛むに」。私曰く、上焦の風故ぞ。「脇の痛みに」。私曰く、此の薬は肺の実を消する故に、ことに右の脇の痛みによし。「手足の引き攣るに」。私曰く、是も風故なり。但し深き心もあり。さて此の薬の目付けは風邪を去る第一の薬と心得て一身の痛みにてさえあれば使うと思うべし。風薬と云うものは其の性軽く気強し。故に佐使によりて一身を歩くものなり。故に一身の痛みには?活・防風は必ず用うる剤なり。また東垣は頭痛に風薬を離さず用いたぞ。其の心は風薬は陽物にして、いかほども上へ昇るなり。また理慶が防風の使いようは、中風経絡にありて、或いは痛みに、或いは痒く覚える人ならでは用いざるぞ。されども当座の感冒に用いても猶々よいぞ。ことさら小児の感冒には二陳湯に活・防風・葛根などを使うて妙なり。尚口伝を聞いて心得るべし。

    (毒)「誤って用いれば上焦の元気を瀉するなり」。私曰く、自然腹下り、胃の気だれ下がる人に用いる事あり。口伝を聞くべし。ま    た熱気こもりてある人に用いる事あり。面白き習いぞ。口伝を聞くべし。

六八  風薬中の潤剤なり。風を去り、湿を去るの仙薬と為す。風を去り、湿を除く発散の薬なり。其の内に上部顔面へ上る薬なり。

提要  辛甘。微温。表を発し肺を清め、風湿を去り、頭目滞気を散ず。

   味甘く温滋潤。故に其の能風湿を逐い、骨節間の滞気を浮散して疼痛を除く。

   味甘温。風周身を行り、骨節疼痺するを主り、頭目中の滞気を散じ、頭眩痛、四肢攣急を治す。

養生  表を発し、風を追い、頭目の滞気を散ず。

漢薬  (1)風寒か風熱の外感病・風湿による関節や筋肉の痛みに使用する。主な作用は解熱・発汗・鎮痛などの作用である。防風の作用    は穏やかで発汗力は麻黄・桂枝より弱く、活ほど辛燥ではないので、「風薬中の潤剤である」といわれる。感冒にはいつも荊芥と同時に使用する。防風と荊芥の作用上の違いは、防風は荊芥より温性で去湿作用があるので風湿による疼痛には荊芥を用いず防風を使う。    

    (2)偏頭痛に白・川を配合して使用する。とくに頭痛・頭がふらつくなどの症状をともなう虚寒、あるいは風湿による頭痛に適している。

    (3)止痒に、荊芥・薄荷を配合して使用する。その作用は去風である。

 

朴 消 

   其の味鹹く微に苦。性大寒順降。故に能く宿食を消化し、胃実を蕩滌するの功、尤も速し。

   味苦寒。寒熱邪気を除き、積聚結固を逐い、能く諸物を消化す。故に之を消という。

養生  乾きをうるおし、固きを軟らげ、胃腸の実熱を去る。

 

蒲 公 英  

長沢  柴胡や連翹と同じような使い方ができる。清肝・清熱・解毒・利尿・健胃などの沢山の作用がある。ヨーロッパでは蒲公英が単独で肝胆に関係するあらゆる病気の治療に使われる。また利尿作用により、膀胱・腎臓疾患に用い、健胃作用で、消化不良・鼓脹・便秘・胃炎・腸炎などにも使用する。一般にいわれている、催乳作用はない。(長沢元夫 伝統医学の学び方)

 

牡 丹 皮 

増補  「辛く苦く微寒なり。手の厥陰心包、足の少陰腎の二経に入る。骨蒸労熱に」。私曰く、骨蒸に汗のあるもあり、汗の無くもあり。地骨皮は足の少陰腎、手の少陽三焦に入り、汗ある骨蒸を治す。牡丹は足の少陰腎、手の厥陰心包に入り、汗無きの骨蒸を治するぞ。四物湯に牡丹を加えて婦人の骨蒸を治するも此の意なり。「血分の伏火に」。私曰く、伏火は陰火なり。陰火は相火なり、古人牡丹を以て相火を治す。六味丸の類ぞ。後人黄蘗を以て相火を治することを知れども、牡丹の効、黄蘗よりも勝ることを知らざるなり。「?血・積血に」。私曰く、?血・積血は大抵気の結ぼれるによる。気順なるときは血も行り、気結ぼれる時は血滞るぞ。今此の剤苦きは陰火を瀉し、辛きは結気を疏す。血分の要薬なり。「月経を通じ、難産を催す」。私曰く、専ら血を行らすことを主る故ぞ。

六八  血を和し、血を生じ、血を涼し、血を行らし、風痺を除き、無汗骨蒸を主り、相火を清す。古人惟此れを以て相火を治す。故に六味丸に之を用う。後人専ら黄蘗を用い丹皮の功、更に勝れることを知らざるなり。血熱を涼し、滞血を去る薬なり。味辛にして発散の功あり。それで無汗の骨蒸に用うる。さて牡丹皮、知母、黄蘗、何れも火動に用うる薬なれども、其の内に知母は腎火を瀉し、牡丹皮は血熱を涼するを主とす。黄蘗は下焦の熱でさえあれば血熱でも湿熱でも冷ますざれども、黄蘗は燥くものなれば火動の症に、二冬二地と組合せねば使いにくし。知母、牡丹皮より苦寒甚だしきものなり。知母は陰虚の咳嗽を主り、牡丹皮は陰虚の熱を冷ます。

提要  辛。寒。血を和し、堅を破り、?血を去る。

   気味辛く微に苦。寒降芳散。故に其の能、血を活し、煩熱・血熱を清涼する。

   味辛寒。堅?血を除き、癰瘡を療し、月経を通じ、撲損を消し、腰痛を治し、煩熱を除く。

養生  血熱を和し、結毒を解し、血毒をとる。

漢薬  陰虚の発熱に用いる。四物湯を配合した丹梔四物湯は婦人の虚熱に効果がある。

中薬  清熱する、血を涼める、血を和ませる、?を消す、の効能がある。熱が血分に入っつもの、発班、驚癇、吐血、鼻出血、便血、骨蒸労熱、経閉、、癰瘍、打ち身を治す。血虚で寒のある者、妊婦および月経過多の者は服用に注意する。

 

牡 蛎 

薬選  盗汗、自汗を止め、夢遺精出を療ず。胸中心下の痞悶。

   胸腹の動を主治するなり。傍ら驚狂、煩躁を治す。

提要  鹹。寒。堅を軟らげ痰を化し、脱を収め汗を歛め、水を行す。

   味淡鹹。質沈降、収粛。故に満溢を除いて滑脱をす。このゆえに胸脇満、宿水及び自汗、盗汗、失精滑瀉を治す。

重徴  胸腹の動を主治するなり。兼ねて驚狂、煩躁、失精を治す。

   味鹹平。傷寒寒熱、温瘧洒洒、驚恚努気を主り、盗汗を止め、洩精を療じ、心脇下の痞熱を治す。

養生  胸腹の動悸をしずめ、その効はほぼ竜骨に同じ。

中薬  陰を収斂する、陽を潜ませる、汗を止める、精を渋らせ、去痰する、堅を軟らげる、の効能がある。驚癇、眩暈、自汗、盗汗、遺精、淋濁、崩漏、帯下、瘰癧、瘤を治す。

 

麻 黄 

増補  「味甘く辛く温。肺・心・大腸・膀胱の四経に入る。傷寒の頭痛に汗を出す。寒邪肺に入りてシワブキするに」。私曰く、此の薬は汗を出す第一なり。冬の用の正傷寒に用いて表邪を除く事、誠に妙なり。其の外、用いる事は稀なり。尚口伝。

    (毒)「腹中虚し皮膚衰えたる人には甚だ忌む」。私曰く、正傷寒ならでは使えぬ。上は此の詮索に及ばぬか。但し古方によらば冬ならでも使う。小続命湯に入りたぞ。

   喘咳、水気を主治するなり。傍ら悪風、悪寒、無汗、身疼、骨節痛、一身黄腫を治す。

重徴  喘咳、水気を主治す。故に一身黄腫、悪風、悪寒、無汗、自汗を治す。兼ねて頭痛、発熱、身疼、骨節痛を治す。

提要  辛く微に苦。温。汗を発し、風寒を去り、喘咳を治す。

   気味治辟にして逐達の力有り。故に邪気、壅塞を解して、以て理を通じ、専ら水湿を逐い、以て骨節疼痛を除く。乃ち桂枝の発表と併せ用いるときは、則ち能く駿発を致す。麻黄湯、大青龍湯の類、是なり。また石膏の清降と併せ用いるときは、則ち能く水湿を利す。越婢湯、麻杏甘石の類、是なり。其れ麻黄は気薬の駿達なる者なり。然るに前人は単に発汗の薬と為す。余、謹んで之を考えるに、発汗の能有るに非ず。其れ仲景氏曰く、発汗の後、更に桂枝湯を行なうべからず。汗出でて喘し、大熱無き者は麻杏甘石湯之を主る。以て徴すべきなり。

議   味苦温。表を発し、汗を出し、邪熱気を去り、逆上気を止め、寒熱を除き、傷寒を療じ、肌を解すの第一なり。

養生  表位に実する邪を追う。そのためよく汗を出し、風寒をとり、喘咳、水気を治す。

山本  痙攣性の咳嗽、即ち続けて咳込む、止まりにくい咳に特に効果がある。痙攣性の咳嗽は中枢性の鎮咳薬だけでは効きにくい。麻黄は気管支の平滑筋の痙攣を制するため、気管支喘息にも用いられる。このとき甘草を配合するのがよい。又中枢性鎮咳薬の杏仁・半夏とよく併用される。性が温で「温める性質」であるため、寒による咳に細辛・五味子・乾姜・紫蘇子・紫苑と用いる。

     方例 小青竜湯、射干麻黄湯

    辛温で発汗解表、宜肺作用があるために外感風寒の咳嗽に用いる。

     方例 麻黄湯、三拗湯

    反対に熱の咳(炎症、充血、熱痰のある咳)には石膏・桑白皮・黄などの消炎作用のある薬物を配合して使用しなければならない。

     方例 麻杏甘石湯、定喘湯 (山本巌 「東医雑録」)

 

麻 子 仁 

提要  甘。平。脾を緩め、燥を潤し、腸を滑らかにす。

   油多くして味淡平。性潤滑。故に脾胃を益し、腸中を潤し、便秘を滑通するの能有り。

   味甘平。血脈を復し、五蔵を潤し、大腸の風熱結渋、及び熱淋を治す。

養生  燥をうるおし、大便を滑利する。

 

蔓 荊 子 

増補  「辛く苦く微寒なり。熱痺疾痺に」。私曰く、湿熱を除く故ぞ。よく九竅を利するものなり、或いは諸蟲をも殺し、頭痛をも治するぞ。

 

木 通  

増補  「味辛く甘く平。肺・大腸・小腸の三経に入る。九竅・血脈・関節を通ず。声を出す、乳汁をいだす、五淋に、水腫に、瘡腫の痛みに、心煩して常に眠るに」。私曰く、水気心下にある故なり。按ずるに此の薬はよく小便を通ずるものぞ。其の外、別の処に用いることなし。物の塞がるを通じて痛みを去り、熱を去るも、小便を通ずるよりきたる能なり。

    (毒)「自汗甚だしきに、小便多く繁きに」。

薬選  尿道を利し、九竅を利し、関節諸結、黴毒結滞、淋疾、水腫、黄疸、乳結。

提要  甘辛。平。湿熱を除き、小便を通じ、関節を利す。

   其の味苦降。故に九竅を開き、尿道を通利す。以て淋瀝、小便不利等を治す。

議   味辛平。九竅の血脈、関節を通利し、小便を利し、水腫浮大を主り、煩熱を除く。

養生  血脈を通じ、湿熱不通の気を通じ、関節を利す。

中薬  火を瀉ぎだし水を行らす、血脈を通じ利す、の効能がある。小便赤渋、淋濁、水腫、胸中煩熱、喉痺咽痛、遍身拘痛、婦女閉経、乳汁不通を治す。

 

木 瓜 

増補  「味酸く温。湿痺の脚気に」。私曰く、この薬はよく血を調え筋を養う。是によって一渓は筋の引き攣るものには離されなんだぞ。但し今は湿痺と云う心に付くべし。このいわれは血虚のみにして筋の引き攣りには四物湯の剤よし。木瓜は本薬たるべからず。されども筋の引き攣る類の十に八九は湿痺より発るなり。故に本経に湿痺の脚気も云うぞ。「霍乱のこぶらがえりに、心膈の痰に」。私曰く、腹中を暖める故に痰を散ずなり。されどもその味酸くして収まる心あり。率爾に用いるべからず。脚気などさしつかえて痰の証を兼ねるは用うべし。「脚気の胸につきて逆乱するに、吐逆に」。私曰く、古方に多くあり。中を温める故か。但し配剤の時は脚気・疝気・霍乱等の胸へ差し昇って吐逆するにはよし。その外は斟酌あるべしか。古方を用いる時はその方の心に随うべし。痢病大方癒えて後、喉ればすむぞ。「東垣が曰く、気脱するときはよく収め、気滞るときはよく和らぐ」。私曰く、按ずるに、散らす方へ多くよるべし。腹中虚して気脱し痢止まらず、痢癒えて後に喉乾く証には是を以て収むべし。散じて止める功ある故なり。

   (毒)「腹中の実熱に」。

 

木 香 

増補  「味甘く苦く温。心・肺・肝・脾・胃・膀胱の六経に入る。冷えて発る虫積に、胃の気冷えて不食するに」。私曰く、他流には虫も積も不食も大方皆冷えと見る故に木香を離さず。丹渓流には寒熱を見分けて病を治するなり。「さわりに」。私曰く、冷えたらば必ず用いよ。霍乱にも使うべし。「しぼり腹に」。私曰く、必ず使う薬なり。されども不審あり、しぼり腹、赤きも白きも大方皆熱と見るは当流の習いなり。然らば木香の大温は用いまじきに用いる事は何ぞや。河間云わく、血行る時は大便自ずからやすく、気調う時は後重自ずから除くと云うぞ。この心にてしぼり腹に離さず用ゆ。木香は気を調える第一の薬ぞ。「気の不足に」。私曰く、丹渓の云う、木香を用いば黄蘗を加えよと云えり。これ木香の熱をことのほか恐れて云うなり。気の不足を調える事も人参の心とは甚だ変わりたぞ。人参は中焦の元気虚したるを治す。木香は気欝して心甲斐なく思いつめのなきような人に用いて滞りたる気を伸びるべし。気伸びたりと見ば早く去るべし。「胃の気を調え和ぐ」。私曰く、この薬は気虚したりとも気欝して達せざる人に用ゆべし。大体香附子・川などと其の能似たり。但し香附子は上気と胸中の気欝によし。川は血中の気薬にして気を能く散じ頭痛を治す。この薬はもとより温なるほどに気を散ずる方なれども、但一身の気を主りて縦ざまにも横ざまにも気を能く調え助けると思うべし。これが目付けなり。また腹中を温め和ぐる聖薬と知るべし。

    (毒)「陰火上り熱気ある人に」。私曰く、腎虚の人にと云う心なり。総じて腎虚に限らず、大温の薬なるほどに是は木香を使はでかなわぬと思う病人に用ゆべし。陳皮・甘草などの如くに何にも心安く用いる薬にてはないぞ。また小児の方に多く用いるなり。是は腹中の調え和らぐ故なり。

薬選  傷食、吐瀉、嘔逆、飜胃、泄瀉、痢疾を療ず。食を消し、胎を安じ、心痛、腹痛、胸腹間の滞気、痃癖、塊、胃を和し、食を進む。

提要  辛苦。温。諸気を降し、肝を疏し、脾を和し、鬱を開き、食を消し、一切の気痛を治す。

中薬  気を行らし止痛する、中を温め胃を和らせる、の効能がある。中寒気滞、胸腹脹痛、嘔吐、下痢、裏急後痛、寒疝を治す。

 

射 干  

提要  苦。寒。毒有り。火を瀉し、毒を解し、?を散じ、痰を消す。

考   其の味苦く辛く毒有り。故に能く結気逆を散じ、喉痺、咽痛を解す。

議   味苦平。逆上気、喉痺咽痛を主り、胸中の熱気を散じ、痰を消し、結を破る。

 

益 母 草 

増補  「辛く甘く微温なり。手の厥陰心胞絡、足の厥陰肝の二経に入る。目の病に」。私曰く、目は血を得て能く視ると云えり。血の滞りたる眼病ならば用いてよし。血を行らすこと甚だすみやかなるに依りてなり。もし血虚の眼病などには当帰の類を用う。此の薬、手の厥陰心胞絡、足の厥陰肝に入る。心胞絡は血を生じ、肝は血を蔵す。此の剤能く血を活かし、陰を補うに依りて、目を明らかにし精を益し、経を調うとも云うたぞ。「婦人血逆に、経脈調わざるに」。私曰く、気血を循らす薬なる故に、婦人血気の逆上に用いて妙に効を得るぞ。花の白きは気分に入り、紫なるは血分に入る。

    (毒)「血気不足なるものに」。私曰く、曰く気血を行らすこと甚だしくして却って虚せんことを恐れてなり。「瞳子散大なるに」。私曰く、瞳子の散大は血の不足なる故なり。

 

雄 黄 

提要  辛。温。毒有り。毒を解し、虫を殺し、驚を利し、鬼を辟く。

 

熊 胆 

薬選   、疝痞、痃癖、心胸痛、腹痛、傷食腹痛、不吐不瀉、諸癇、癲狂、瘧疾、痢疾を療じ、蟲を殺し、嘔吐を止め、痘瘡を発し、 疳疾、驚癇、妊娠腹痛、産後腹痛、生を催し、目に点じて翳を去り、痔に塗りて痛みを止める。一切の卒患急病に以て元気を喚起し、蔽塞を開通する。

提要   苦。寒。心を涼しくし、肝を平にし、虫を殺し、熱を退け、目を明らかにし、疸を除き、心痛驚癇を治す。

中薬   清熱する、鎮痙する、目を明らかにする、殺虫する、の効能がある。熱黄、暑瀉、小児の癲癇様発作、疳疾、回虫痛、角膜混濁、喉痺、鼻蝕、疔痔悪瘡を治す。

 

羊 肉 

   味甘温。中を緩め、胃を開き、力を健にし、字乳の餘疾、虚労寒冷を主る。

 

 苡 仁 

増補  「味甘く微寒。肺・肝・脾・胃・大腸の五経に入る。筋の引き攣りに、風湿にあたり身痺れるに、湿より起こる脚気によく食をすすめ、胃を増し、肺を補い、熱をさます。肺痿の病、膿血を吐き咳嗽するに」。私曰く、この薬は風湿熱を去る薬なり。諸能是にてすむぞ。古道三の書には何れの病にてもあれ、筋引き攣ると云うにはこの薬と木瓜と離さぬと見えたり。其の心を按ずるに、筋の引き攣りは皆痺の類なり。経に風寒湿の三気合って痺となると云うより見たてぬるが、今は是に関わるべからず。筋の引き攣るも病証を見分けて、血虚より来たらば血を増すべし、湿ならば湿を逐うべし。但し湿より起こるもの、十に七つ八つはありと心得るべし。

    (毒)「冷えて筋引き攣るに、中焦極めて冷えたる人に」。

   浮腫を主治するなり。

提要  甘淡。微に寒。湿を滲み、水を瀉し、脾を健する。

考   味淡甘、滑降。故に能く脾胃を扶け、水気を瀉し、湿痺を除く。

重徴  癰膿を主治す。兼ねて浮腫、身疼を治す。

   味甘く寒。筋脈の拘攣、風湿痺を主り、気を下し、腸胃を利し、水腫を消し、熱を清くし、肺痿、肺気にて膿血を吐するを主る。

養生  排膿を主とし、関節の浮腫を利し、皮膚の甲錯を治し、身体の疼痛をとり、血毒を解き、疣を治し、肌を白くする特効がある。

中薬  脾を健やかにする、肺を補う、清熱する、湿を利す、の効能がある。水様性下痢、湿痺、筋脈のひきつり、屈伸のきかないもの、水腫、脚気、肺痿、肺癰、淋濁、白帯を治す。

 

乱 髪 霜 

提要  陰を補い、?を消し、諸血証を治す。

   髪は血の余りなり。故に能く?血を消し、鼻衄を止め、小便閉、淋瀝等症を療ず。

   小便不利、血分熱ある者を治し、及び五淋を治し、血を止めるを主る。

養生  もろもろの血証を治す。

 

李 根 皮 

提要  鹹苦。寒。熱毒消渇を主り、奔豚気を治す。

   味苦く寒降。故に能く消渇を止め、上逆、及び煩熱を除く。

 

竜 骨 

増補  「味甘く微寒。足の少陰腎経に入る。精の洩れやすきに、虚汗の止まり難きに、下血に、長血に、物忘れするに、物に驚きやすきに、小便の保ち難きに、泄瀉止まり難きに、神を安じ気を正す」。私曰く、この薬は性渋って気を正す。故に神気を補う。虚して脱漏の証には何にも用ゆべし。この物は誠に鱗中の霊長なり。

   臍下の動を主治するなり。傍ら煩驚、失精を治す。

提要  甘。微に寒。浮越の気を収め、精をし、腸を固め、驚を鎮め、癇を治す。

   其の体重くして性収斂。故に能く滑洩を止め、亡血を理め、精神を鎮め、虚脱を固くするの功有り。

重徴  臍下の動を主る。兼ねて驚狂、煩躁、失精を治す。

   味甘平。小児の熱気驚癇、心腹煩満を主る。夢寝洩精、小便洩利を療ず。

養生  驚狂、煩躁を鎮め、失精を止める。

中薬  驚を鎮め神を安らげる、汗を斂め精を固める、止血し腸を渋らす、肌を生かし瘡を斂める、の効能がある。驚癇癲狂、絆筮健忘、失    眠多夢、自汗盗汗、遺精淋濁、吐血、鼻出血、血便、崩漏帯下、瀉痢脱肛、長期間傷口がふさがらない潰瘍を治す。

 

竜 胆 

増補  「味苦く大寒。肝・胆・腎・膀胱の四経に入る。骨間の寒熱、胃中の伏熱に、驚癇に、小児の大熱に」。私曰く、大熱とばかりはたいそうに聞こえるけれども仔細あるなり。小児に大熱あることは十に八九は肝胆の実熱なり。これに依りて書きたぞ。「熱気の疳に、疳の虫に、目の内黄になり、或いは瞳赤く腫れ、或いは肉高く出て、或いは痛みに」。私曰く、この薬は肝胆の実熱を速やかに去り、胃中の湿熱をよく除くと心得るべし。故に諸証皆肝胆胃の熱病なり。性味はだいたい柴胡や黄連よりも尚大寒と思うべし。病み目などに必ず用うべし。少し良ければ早く去るものなり。苦く大寒なるを恐れてなり。

    (毒)「多服すれば胃中生発の気を損なう」。私曰く、生発の気とは胃の腑、五穀の養うを得て生じる気なり。この気は五臓の気の根源なり。慎んで破るべからず。

 

霊 芝 

中薬  虚労、咳嗽、気喘、不眠症、消化不良を治す。

 

連 翹 

増補  「味苦く微寒。心・肝・胆・胃・三焦・大腸の六経に入る。癰疽、ネブト、瘰癧とて身に包めきのあるに、諸の悪しき瘡に用いよ。膿を押し払い、痛みを止めるなり。心熱あるに、五淋に、小便通ぜざるに」。按ずるにこの薬はよく六経の熱気をさまし、物の滞りを押し払い下すぞ、妙剤なり。故に外科に多く用いる薬なり。但し用いる時分あるぞ。喜斎が云わく、初発には用いぬなり。また習いに云わく、膿出て瘡久しく癒え難きには用いず。この二つの用捨もっともなり。さて使うときと云うは、瘡の殊の外、赤く腫れ、そこに膿を持ちたるに使うべし。其の外は心熱に使うと心得るべし。小便の不通も心に滞りありて病むに用ゆべし。裏の能なり。

    (毒)「心熱去り、脈静かにして、膿血多く出て、瘡久しく癒え難きに」。私曰く、この証は虚証なり。この薬は実証を治す故に忌む。

片玉  癰疽、腫毒を消す。

提要  苦。微寒。諸経血凝気滞を散じ、湿熱を瀉し、腫れを消し膿を排す。

考   味甘平。主に熱気を下し、陰精を益し、目を明らかにす。

議   味苦平。癰腫、結熱、小便不利を主る。諸経の血結気聚を散じ、腫れを消し、痛を止む。

養生  気血の結滞を解散し、湿熱をとり、腫を消し、膿を排除する。

漢薬  (1)感冒や熱性疾患の初期で症状が軽いときに、金銀花などを配合して清熱解表を強め、例えば銀翹散を用いる。

    (2)・癰などの化膿性疾患で、発熱などの炎症症状が明らかなときに、牛蒡子・山梔子などを配合して疏風清熱・消腫排膿し、例えば牛蒡解肌湯を用いる。また、黄蘗などを配合した粉末を軟膏(連翹双黄膏)にして外用してもよい。

    使用上の注意 癰やが自潰したあとは連翹を使用してはならない。この時期は虚証になっていることが多いので、一般に托裏法によって身体の抵抗力を強める必要があり、苦寒の連翹を過量に服用すると抵抗力を弱める恐れがあるからである。

長沢  柴胡と似た使い方ができる(王好古)。帯状疱疹は多くは柴胡剤を用いるが、連翹を主薬にしたものを使ってもよい。また連翹は各種の肝炎にも使用でき、柴胡と非常に似ている。“瘡家の聖薬”でもあり、清熱解毒、利湿、涼血の作用を一つで持っている。 連翹湯(連翹五、木通四、桔梗三、紅花・甘草二)を主婦湿疹だけでなく、化粧かぶれや急性慢性の肝炎にも使う。(長沢元夫、伝統医学の学び方)

 

蘆 薈 

増補  「苦く寒なり。手の少陰心、足の厥陰肝の二経に入る。風熱に」。私曰く、肝経に入りて風を除き、心経に入りて熱を清しくするぞ。「小児の驚疳に」。私曰く、この薬は驚疳、諸熱の重薬なり。三蟲を殺し、痔瘻、疥癬に尤も用いるなり。

    

鹿 角 

提要  甘温。熱を散じ、血を行らし、腫を消す。

               

                                     

                                         初版編集日:平成十年十一月七日     

 再版編集日:平成十年十二月十五日    

 三版編集日:平成十一年二月九日     

 四版編集日:平成十一年三月九日   

 五版編集日:平成十三年三月十四日

                                                 編集人:南 利雄      

                                                出版元:壷中秘宝館      

                                          大阪市阿倍野区王子町2−12−3   

                                           п@(06)6626ー6262