漢方軟膏の研究

現在よく使われている漢方軟膏は、紫雲膏・中黄膏・太乙膏くらいであるが、江戸時代の華岡青洲(1760--1835)は20種類以上の膏薬を駆使していた。

紫雲膏が現在もっとも有名であるが、製造法に問題がある。まず当帰と紫根の分量が極端に少ない。江戸時代は現代の二、三倍の分量を使っているし、多いほうが効果的である。現在まで紫雲膏についての発表は多くあるが、この分量の矛盾を指摘したのは私の発表だけである。紫雲膏の鎮痛作用や痒み止めの効果は当帰によるところが大きい。現在の局方製剤ではゴマ油一リットルについて当帰はわずか60gであるが、効果を良くするには良質の当帰を200gくらい使用すべきであろう。紫根も同様に120gくらいは必要である。製造法も従来のものは、当帰→ミツロウ→紫根の順番に入れて、攪拌しながら固める、となっている。しかしながらミツロウを入れるのは紫根の後のほうが、紫根の抽出も良いし、泡立ちが少ないので吹きこぼれの心配もない。ミツロウの量は従来はゴマ油一リットルに380gとなっているが、これは後に練り直すための分量である。華岡青洲の使用量は200gくらいで、攪拌もせず、練り直しもしない分量である。想像するに、貝殻に流し込んでそのまま固めたのであろう。この方法でやると空気が入らないので劣化が少なく、ミツロウが少なくなるぶん、薬効成分が多くなる。

最良の製造法を整理してみると、ゴマ油一リットルが160℃くらいで200gの良質の当帰を入れ、焦げるとすばやく除き、130℃で紫根120gを入れ、滓を除いてから200gのミツロウを溶かす。ガーゼでこまかい滓を濾して後にケースに流し込みそのまま凝固させる。当店の紫雲膏もこの方法で製造している。 紫雲膏は嫌な臭いのする製品が多いが、良質の材料で、製造法を工夫すると、従来のものとは違った素晴らしい紫雲膏ができあがる。

当帰膏は『和剤局方』収載の神効当帰膏で生薬は当帰一味のみの軟膏で、紫雲膏の色や臭いを嫌う人にはお勧めである。ゴマ油一リットルについて当帰を500g以上使用する。局方の紫雲膏の当帰の分量が60gであるからいかに多量の当帰を使うかを理解できよう。色も臭いもほとんど感じず、痛みや痒みには紫雲膏よりも効果的である。 ただ製品は私の知る限りでは世界中どこを探してもないので自分で製造する以外ない。また薬局製剤以外は薬局で販売できない薬事法もあるので、これからの取り扱いは出張先の二つの診療所と知り合いの医療機関のみに限られるので入手しにくい。当帰膏について詳しいことは、「神効当帰膏(当帰膏)について」『漢方の臨床』第53巻・第2号を参照されたい。

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さて良質の当帰とは何だろう。今後の課題であるが、現在の私は大深当帰の湯揉みが少ないタイプを使っている。伝統的な調製は湯揉みを行うが、根の間の土砂を取り除き、形を整えるためのものと思われる。不必要な精油の流失はできるだけ避けるほうがよいだろう。現在使用の当帰はツムラの製品であるが、実際に軟膏を造って比較してみると、色も匂いも濃いものができる。

紫雲膏と当帰膏の原料であるゴマ油はいろいろと探した結果、東京新宿の小野田製油(03-3953-1688)のものに落ち着いた。淡黄色で素晴らしい香りのゴマ油である。興味のある方は注文してみるといい。こういう最高のゴマ油でつくる料理は格別の味がする。800gの缶入り二つで4000円くらい。

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ミツロウもあまり精製していない黄色のものが良い。化粧品に使う白い晒しミツロウは元来は日光に当てて造ったものであるが、最近は過酸化酸素で晒すので残留も考えられ不適である。